1. 悪戯される
「よいせっ…とな」
隣の村からの物資を倉に運んできて、積み上がる箱に自分の持ってきたそれをのせた時だった。
「…銀時ッ」
声が聞こえた。
「ん?」
よく見りゃその塔と化した物資の影に一人の女。
「?」
何かから隠れているのか、それとも誰かを待っていたのか、そこから出てこないに近づく。
「なんだ? 人が頑張って働いてる時に暢気にかくれんぼですかァ?」
不思議に思いながらもふと、淡い期待が芽生えた。人気のない場所。自分を呼んだという事は、…思わず顔がにやけてくるのを銀時は必死で押さえる。
「助けて…」
「あん?」
どうも、期待していた言葉とはちょっとばかし違う気がするが。
「袖が、ね」
彼女の側に寄って覗き込むと、着物の袖が荷物に挟まれているのが見えた。
「一人じゃ持てないから辰っちゃんと運んでたんだけど袖をくくるの忘れちゃってて、挟んじゃったの」
あわてて辰っちゃん呼んだんだけど気づかないで行っちゃうし。とは心底困った様子で呟く。
「ふーん。かくれんぼかと思ったら、囚われのお姫様か」
「いくら引っ張っても抜けないの」
そう言いながらも、の華奢な指先が自分の着物の袖を力任せに引くのを見て、あわててその手を掴んで止めさせた。
「オイ、生地が傷んじまうぞ」
「だって…」
拗ねたような瞳に見上げられ、思わずドクリと大きな音を立てた銀時の心臓が先走る。
「箱を持ち上げりゃあすぐに抜けるだろ」
「じゃあお願…」
「後でな」
ぱっと顔を輝かせたの言葉を遮ってにやりと笑う。
ここの所忙しくてそういや二人きりで話す時間も殆どなかったなあ。とか、ここの所忙しくてそういや二人きりでいちゃつく時間も殆どなかったなあ。とか、ここの所周りに無理矢理忙しくされて二人きりの時間を邪魔されまくってたなあとか。ありとあらゆる事を思ったのです。…て、アレ?作文?
「ぎんとき?」
うっかりどうでも良い方向に寄り道しだした思考を困惑した声が引き戻した。
「イヤイヤイヤそんな事どうでもよくってっ」
掴んでいた自由な方の手を背後の壁に押し付け、柔らかい頬を撫でると途端に何かを察したのか、は小さい身体を固くする。
「や、ちょ…銀?」
「こーんな人気のないとこにいんのがいけねェんだぜ?」
普段は、ぼーっとして何を考えてるのかわからない瞳が、ちらりと欲望をのぞかせた。
「やーっ!」
「あー無駄無駄。誰も来やしねェよ」
太股の辺りを撫で回す指が、の着物の合わせ目から中へと侵入する。
「んっ」
ぴくりと震えるその様子に銀時は満足そうに笑うと、呟くように宣言した。
「じゃ、頂くとしますか」
その時だった。
「死ね」
周りの温度さえ下がったのではないかと思えるほどの殺気があたりを包む。
サクリ。
と、以外にかわいらしい音がの近くで立ったのはそれとほぼ同時の事で、間一髪で避けた銀時の頭があった所にはこれ見よがしに小刀が刺さっていた。
もちろんこんな事をするのは…
「晋さんっ!」
「高杉ッ?」
慌てた銀時が振り返ると入り口に立っていたのは案の定、怒りを露にしたお父さん。…基、高杉晋助。
怒りが頂点に達しすぎて表情が無くなっていた。
「…いつまでも帰ってこねえと思っていたら…」
ぽつりと呟くその声も怒りに染まっている。
しかしにしてみればやっと現れた救世主だった。この窮地から、いろんな意味で助かる為には。
「銀時がひどいんだよー」
とりあえず、訴えてみる。
その声に高杉の眉間がぴくりと反応した。
にやりと笑うその顔は般若の如く。それを見たは助けを求める相手を間違った事に気づく。が、既に遅し。
すらりと、いつも持っている刀を抜いた男はその刃を獲物に向ける。
「銀時。 …今死ぬか今殺されるか選べ」
「ッ、同じだろうが!」
「待って! 晋さんっ落ち着
「じゃあ、俺が選んでやる。今殺してやるから今すぐ、とっとと死ね!」
「ぎゃー!!!」
「…あの。…とりあえず助けてってば。…誰かー。…小太郎ーさーん」
「「!他の男の名前呼ぶんじゃねえっ」」
「………すいません」
その後、が倉庫の大乱闘に気づいた桂と坂本によって救出されたのは一時間後の事。
「全く、目を離すとすぐこれだ…」
軽いお小言と冷たいアイスをもらって早くも先ほどの事を忘れたかのように機嫌を直し、懐いて後を付いてくるに困ったように桂は笑った。
そして、他の三人は廊下に正座させられ、真ん中に座らされた坂本が左右の男に一晩中責められ続けていたのは言うまでもない。
2006.10.10 ECLIPSE

アトガキ
とりあえず一発目の小説です。
初めてなので、モテモテ(?)にしてみました。…このヒロインちゃん攘夷レンジャー4用なので。
真選組さんたちにはまた新たに作る予定です。