クリスマスイブ。
巷のカップルと同じようにいつもより少し豪華な食事をして、銀八からはクリスマスプレゼントだと指輪をもらった。
お返しに、この寒い冬までサンダルはどうなのよ。と、革靴をプレゼントした。

後はケーキでも買って帰って家でのんびりしようかと洋菓子店に入り、ショウウインドウを指差しては銀八を振り返る。
「ねえ、どれがいい?」
「そうだなあ…」
その視線の先には、いつもからは想像できないくらい真剣なまなざしで、ケーキを見つめる恋人がいた。
「…真剣ねぇ」
つい声に出てしまう。
「ったりめーよ。一年でここまで気合い入る行事はねえだろうが」
「さよですか…」
の呟きに言い返しながらも、銀八の視線はケーキから外れる事はない。
! お前も真剣に考えろ」
「ハイハイ」
でも、こういう風に一緒にケーキを選んでくれたりするところは好きだなあ。と、くすくす笑いながら目の前の甘くてキラキラしたそれらに集中する事にした。





「日本だけよ。クリスマスをカップルが占拠しちゃってるなんて」
アメリカとか海外では普通は家族と過ごすものなのよ。と英語教師らしく隣でケーキに食いつく男に言い含めれば、それどころではないのか、ふうん。と気の抜けた返事が返った。
「いいじゃねーか。クリスマスなんて、エッチしてなんぼだろうが」
「そういう事ばっか考えてる大人が一番の原因だと思うんだけどなー」
とはいえ、とて実家に帰ったところで、甥っ子という名の怪獣にまとわりつかれ、両親もなにかとかまってくるので、正月あたりまで帰りたくないというのが本音で、実際ここ数年、正月とお盆以外は帰っていなかったりする。
そう思っていたのが顔に出たのか、ようやくフォークから離れた指が頬を撫でた。
「ったって、お前だって帰ってねーだろうが」
どうして知っているのだ。と、隣の男の覗き込むが銀八はしたり顔で小さく笑うばかりで、教えてはくれない。
「…大変なのよ。たまに帰ると」
バドミントンの相手を次の日筋肉痛になるまでやらされたり、からみ酒の父の晩酌につき合うはめになったり。
少しなら良いのだ。
たまにしかあえないのだから、かわいい甥っ子と出来るだけ遊びたいし。
両親とだってゆっくり話したい。
けど、たまにだからこそなのか、ゆっくりでは済ましてはもらえず、家族サービスに勤しむお父さんのようになってしまっている。
「もういいじゃない」
せっかくのクリスマスに疲れるような事を思い出させないで。
とにかく今日は銀八と過ごしているのだから、ほかの事は考えたくない。
先に言い出した自分を棚に上げて、は珍しく自分から身体を寄せた。
「かわいい事してくれるじゃねーの」
くすくすと楽しげな笑いがつむじに落ちてきて、頬がかあっと赤く染まる。
あっと思ったときにはもう遅く、その長い両腕に抱き込まれていた。
「ぎ…」
「まあ、機嫌なおせって」
「もうっ」
「今度帰るときは俺が代わりにミントンもからみ酒も相手してやっから」
「どういう事?」
「お前が、好きだって言っている」
「え…?」
突然の言葉にかちんと固まったに、銀八は珍しくぎこちない笑いを向けた。
「ほんとは、そっちがメインのプレゼントだって言ったら、どうする?」
メイン?
指輪じゃなくて?
「そっちって…?」
代わりに家族の相手をしてくれるってことが?
「それはその延長線上」
「延長線上?」
もしかしてこの指輪って…
「クリスマスは家族と過ごすんだろ?」
混乱する頭のまま銀八を見上げれば、甘くて低い声が頬をかすめて、唇を塞いだ。
「…ふ、 …んぅ…」
ろくに抵抗も出来ないまま咥内を貪られて、絡めとられた舌が痺れる。
ますますパニクるの背中をあたたかな手のひらがそっと撫でた。
「…返事は?」
「……」
?」
唇が離れてもぼおっとしたまま反応のないを銀八が呼ぶ。
「あ…」
そのとたん我に返ったはいいが、今度は言いようのない恥ずかしさが湧いてきて、あわてて顔を反らしてしまう。
「こっち向けって」
それでもわたわたと暴れていると、銀八の手がの右の薬指にはまっている指輪を外した。
「銀…」
「いっとくけど、俺も大概恥ずかしーんだがらなっ」
お前だけじゃねーんだぞ。と、付け足され、たしかにいつもの銀八からは想像もできない姿に、この男にしては精一杯がんばっているのだと気づいて、ようやく落ち着きを取り戻す。
「…答えらんねーのか?」
そっと伺うように顔を戻せば思ったより不安そうな表情に取り乱した自分を恥て、首を横に振る。
「ハイ」
それから、気を取り直してまっすぐに銀八を見つめ、にこりと笑って頷くと、外されていた指輪が今度はの左手の薬指にはめ直された。



「メリークリスマス 。これからも俺の事よろしく頼むわ」
「メリークリスマス 銀八。それ私の台詞」
くすくすと笑い合う恋人たちはそれからまた唇をあわせた。

もうしばらく甘い夜は終わらない。



3ッZ 番外 きよしこの夜








2009.12.24 ECLIPSE






アトガキ


はいどうも、お久しぶりの更新は3-Zでした。
初の名前付きでしたがいかがでしょう…?
アキラの中で銀八先生は銀さんよりさんに素直なかんじなので、あれくらいは良いのではないかなと
思ったりして、しかもクリスマスですから、ちょい甘めにしてみました。
毎年、なぜかイクリプスはクリスマス時期から年末にかけてひどい目に遭っていたので、今年こそは!
と、がんばってみたんですが、少しでも喜んでいただけるとうれしい限りです。