パチパチと小さな音に目を覚まし顔を上げると、同僚の女性教師が携帯をずいぶん幸せそうな顔で見つめていた。
「ん…」
「あれ、起こしちゃいました?すいません…」
気づいた彼女は申し訳なさそうに頭を下げる。
「もう起きなきゃいけない時間だし大丈夫よ。…なに、彼からのメール?」
んーッと、伸びをしながらからかうと、少し恥じらいながら笑って画面を見せてくる。
「ええ。…ちょっとした遊びなんですけど、ちょうど今日は休憩時間が一緒だったみたいで」
見ても良いのか?と視線で訪ねると彼女は小さく頷いた。
「うわー…」
画面いっぱいのハートマーク。
ちょっと胸やけを催し、頬を引きつらせながら必死で笑顔を作ってみた。
「はじめにそれ一個だけが来たんで、一つ増やして返したんですよ。そしたらもう一つ増えて返って来て…それを繰り返してたらこんな感じに」
そう言って笑う彼女に「ごちそうさま」と、返す以外言葉はなかった。
「…で?」
呆れたように自分を見下ろすのは大学時代の後輩でもある保険医。
「ううっ…それで、こんな感じに…?」
昼の職員室でのやり取りを思い出し、自分もおもしろ半分でやってみようとは思ったものの自分とあの天パにはどうしても“ハートマーク”が似合わない。
というかキモイ。
そして、しばらく悩んだあげく送ったのはう○ちマーク。
たまたま通りかかった彼女がそれを見とがめて、いい加減にしてくださいよ。と、止めたのがつい先ほどの事。
「…先輩。ちょっとは大人になりましょうね?」
画面いっぱいのう○ちマークと、先輩教師の情けない顔を見やりながら彼女は諭すように呟いた。
3−Zお題より。 携帯電話の利用法
2007 ECLIPSE