「…今日は?」
扉の前立ちはだかる相手にしれっと言い放つ。
「えー…生理痛?」
「合格」
何時もというわけではないが、五回に一回の割合でここの住人の女性は沖田の下手な言い訳に乗って、
こうして招き入れてくれる。
「今日は他に誰もいないからイビキかいても良いわよ?」
そう言ってくすくす笑い机へと戻っていく。
もちろん仮病だとバレているのでベッドの準備などしてくれた試しがない。
沖田は何時も自分で空いている所を選び勝手に横になる。
「今日は何の日か……知ってますよねェ」
そして選ぶのは決まって一番端。彼女の座る机がよく見えるからだ。
「もちろん!」
そうだろうと思う。だってその机の上にあるラッピングの数を見れば想像はつく。
先月はその机の上を占領していたのはチョコレートだったが、量は先月の非ではない。
ただ、教師の安月給ではたかが知れているのだろう。世間では三倍返しが相場とは言われているが高価な
ブランド物などではなくお菓子のたぐいが殆どのようだ。
「義理チョコ配りまくってましたもんねェ」
「んふふ」
呆れたように言った言葉に返ったのは意味深な笑い。
「本命もあったんですかィ?」
「さあね?」
そうやって大人の顔で誤魔化されてしまうと、子供の沖田にはどうしようもない。
仕方なく狸寝入りを決めようと布団に潜れば上から声が掛かった。
「ね、おやつにするから付き合わない?」
そうやって先月も余ったチョコを一緒に食べた。彼女にとっては余り物だっただろうが、沖田にとっては
その日の成果に加えられるくらい意味のある物だったのに。
「大事な戦利品をわけてくれるんですかィ?」
「餌付けよ、餌付け」
懐いたのはサボリを見逃してくれたり食べ物をもらったりしたからじゃなくて、
起き上がった自分を手招きするかわいらしい笑顔。
3Zお題より。 餌付け
2007 ECLIPSE
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