超甘いお話。



「先生ッ」
たたたたたっ。と軽い足音と己を呼ぶ声に松本が顔を上げると、居間に
駆け込んでくるのが目に入った。
、どうしたんだい?」
いつになく落ち着かない様子に首を傾げる老医師の前で彼女はくるりと回って
みせた。
膝丈ワンピースの裾ががふわりと広がってなかなか可愛らしい。
「へ、変じゃないですか…?」
「大丈夫じゃよ。可愛いと思うがね」
心配そうにこちらを見つめる瞳にようやく納得いった松本は安心させるように
そう言ってやる。
珍しく洋服など着てると思えば、どうやらデートのようだ。
「うーん…」
それでもまだ不安そうにしているに呆れて苦笑したところで、玄関の扉が
開く音がした。
呼び鈴も鳴らさず家に入ってくる不躾な輩に心当たりは少ない。
が、残念ながらゼロでもない。
ぴくりと微かに顔を上げた目の前の娘がなによりの証拠だ。
「ホレ、お迎えが来たぞい。後はたっぷり白鬼に褒めてもらいなさい」
「ッ!?」
その言葉に頬を赤く染めたは逃げるようにドアへと向う。
「先生のいじわる!」
「ほほ。ちょっとしたやきもちじゃ。許せ」
「もう! じゃあ、いってきますね」
「気をつけてな」
あの男がいれば何の心配もないのだが、別の意味での心配はたんとある。
それを込めてそう言えば、分かってないだろうはニコリと笑って頷いた。
「ハイ。…あ、お夕飯!レンジでチンしてくださいね」
「ああ、わかっているよ。こっちは気にしないでいいから。楽しんで来なさい」
「はあい」
子供のような返事をした娘に松本が苦笑すると、彼女の目の前にあったドアが
独りでに開いた。
「おい、まだかよ…ん?」
なかなか姿を見せないに焦れたのか、居間へと入ってきた銀時の視線が、
ひたと彼女に合う。
「……」
「あ、…ど、かな?」
洋服に合わせて下ろした髪の毛がスカートと一緒にふわりと揺れた。
「似合ってる。…たまには洋服も悪くないな」
何も言わず自分を見つめる視線に戸惑いつつ、聞けば真顔で返される。
「そう?」
「ああ」
「……………………ありがと」
そのまま、また二人して固まる。というか、見つめ合う。
「はあ、あついのお」
その、傍から見ているだけでも大層こっ恥ずかしい熱愛ぶりに、松本がため息
をつきながらそう言ってやると、ようやく二人の動きが再開した。
「ッ!?」
「じじい、いたのか」
「此処はワシの家じゃ。居て悪いか」
更に赤くなるとは正反対に、ふてぶてしくもそう宣う銀時に剣呑な視線を
向けて、手元にあったテレビのリモコンを投げつけるが、難無く男にキャッチ
されてしまう。
「いーえ。滅相もゴザイマセン。松本先生にはご機嫌…」
「さっさと出かけんか」
「…いわれなくとも」
ワザとらしい口上にさらに顔をしかめた松本を気にした風もなく、太々しくも
ニヤリと笑って返した男は、テレビのリモコンのかわりに、大切な娘を攫って
出かけていった。










が観たいと言っていた映画のチケットを銀時が新聞の勧誘から少々強引に
いただいたのが此処に来る切っ掛けだったのだが、どうやらあまりヒットして
ないようだった。
それとも、この映画館が寂れているだけなのか?
とにもかくにも、平日だからという事を差し引いても、人が殆ど居ない周りを
見渡しつつ席に落ち着く。
「なんか人いないね」
「まあ良いんじゃね?気兼ねなく観れてよ」
「…」
「ん?」
「やっさしー」
「バカよせやい、……エロい事するぞコノヤロー」
「やー」
ぐいっと近づいてくる銀時の顔を身体ごと押し返しながら、くすくすと笑う。
映画が始まるまでバカップルの会話は続いたが、咎める人も居なかった。





…」
暫くして、ぼそりと銀時が小さな声でを呼んだ。
「……言わないで」
何を言いたいか、なんてわかってる。
「つったってよォ、コレはもう異常だぜ?」
くはあ と欠伸をしてポップコーンを頬張りながら男は口を開いた。
「ダメだってば!」
「…ものっそい つまんねーんだけど」
「銀時ってば…」
たとえ思ってても言っちゃダメでしょ?と窘めるように見れば、だってよー。
と、呟くのが聞こえた。





「コソコソ会話をするのがこんなに楽しいなんて、映画を純粋に観ている人に
申し訳ないね」
と、言えば銀時が楽しそうに笑う。
「いいじゃねえか。だってお前、今 黙ってみろ、絶対俺にキスされるぞ?」
それから、良く分からないが自信満々の顔がそう断言した。
「もう」
「マヂでマヂで」
耳元で聞こえる囁くような声に小さく笑い、口を開こうとして、さっきよりも
二人の距離が近くなった事に気づく。
いつの間にか肩に回されていた銀時の手に微かに引き寄せられ、慌てた
見上げれば緩く上がった口元が動くのが見えた。
「ぎ…」
「今度あれ作ってくれや」
銀時の視線の先、画面に映っているのは美味しそうなグラタン。
神楽や新八は好きそうだが、普段 和食の男が好んで口にするとは思えない。
「食べたいの?」
作るのはかまわないが、本当に食べたいのだろうか?と、首を傾げると、男は
画面に視線を合わせたまま口を開いた。
「や、お前が作ってるとこみたいだけ」
そう言って笑う、いつもと同じ笑顔。
けれどの瞳はそのまま銀時から離せなくなってしまった。
「……」
?」
黙ったまま返事の一つもしないを訝しんだ銀時がこちらを向く。
それでも動かないままなのをどう思ったのか、男の顔に不敵な笑みが浮かんだ。
「キスしていいのか?…じゃ、遠慮なく」
頭ではいけないと分かっているのに、身体が動かない。
「……や」
慌てて逃れようとするが一足早く捕まってしまい、あっけなく唇を奪われる。
重なった皮膚と皮膚が互いを確認するようにゆっくりと動く度、捕らえられた
身体がぴくりと震えた。
誰か人に見られたら。
と思えば思うほど何故か身体から力が抜けていく。
「あ、 …ん、ふ…」
舌を絡めとられ銀時が満足するまで口付けられたが、ぐったりとして隣の
男にもたれ掛かるのに時間はかからなかった。
「銀時…」
ようやく解放されて、なんとかその名を呼べば、回された腕の力が強くなる。
抱き寄せられて、その胸に顔を埋めたは、その強すぎる視線から逃れて、
ようやく小さく息をついた。

しかし、視線が自分から逸れたことが気に入らないのか、耳に押し当てられた
銀時の唇が咎めるように囁きを落す。
「んっ…」
その熱い吐息混じりの声に小さくふるりと震えた身体は、の意志に反して
顔を上げてしまう。
視界には、満足げな銀時の笑顔。
「…ねえ、どんな魔法を使ったの?」
「お前こそ」
下ろした髪の毛を、銀時の節だった指がするりと撫でた。

「これ以上 銀さん惚れさせてどうすんだ」










「ねーねー。ー。映画はどうだったアルか?」
ソファの背もたれから顔を出した神楽が観て来た映画の感想を聞きたがったが
正直 はそれどころではない。
「えー …っとねえ。……………グラタンが美味しそうだった…かな?」
内心の焦りを誤魔化しつつそう言えば、隣で銀時が小さく笑った。
どうせ眠ってしまっていて映画の内容など全く覚えてないだろうと、初めから
諦められている銀時には誰も感想など求めたりしない。
それを今回ばかりは羨ましいと思ってしまっても仕方ないだろう。
「グラタン?…アルか?」
「う、うん。今度作るねッ!」
「うん?」
「アハハハハ…」
悔しく思いつつもこの状況では八つ当たりする事も出来なくて。
引きつる笑いで必死に言い訳するが、無責任な共犯者に仕返しをするのは
もう少し後の事。





だって、映画の内容なんてちっとも覚えてない。
覚えているのは薄く笑う穏やかな横顔と、髪に絡まる優しい指先。








2009.01.08 ECLIPSE






アトガキ

美並さまー。
まずは、リクエストありがとうございます!そしてなにより、お待たせしました!(土下座)
『銀さんと超甘いお話』というリク内容に添えてるでしょうか?…びくびく。
いつもの姫なんですが、美並さまのイメージに合わせて(って勝手にアキラが想像
しただけですが)可愛らしい感じのコにしてみました。…勝手にすいません。
とはいえ、「甘い?なーんだ、いつもと一緒でオッケーじゃん?」なんて思ってたのは
最初だけ。「アレ?もしかしていつものは甘いって言わないんじゃね?」なんて遅まき
ながらも気づき始めまして、それからがもう…苦悩の嵐でした(泣)
だってだって、スカートの中に(…)手を突っ込まない銀さんなんて…!!!(興奮)
とか、キーボードを打つ手が滑りそうになったりして必死で止めました。
…銀さんとアキラの理性を。ほんとおバカ者ですいません(号泣)
当社比5倍でいちゃこらさせてみたんですが、お気に召していただけたら、幸いです。
…あ、えっと返品可です(号泣)

それでは、最後にもう一度お礼させてください。
ホントにリクエストありがとうですv美並さま。大好き!

そして、読んでくださったお嬢さま方も、ありがとうございましたー!