「
 かけられた声に振り返る前に、一度呼吸を整える。
 まだ、何も用意せず、なんでもない顔をする事は出来そうにないから。
 そして、彼の横に誰か居て欲しいと思う。あの子供たちか、少し切ないがお妙でもいてくれれば普通に話す事が出来るから。
 「…銀時」
 振り返り、微笑んだに気づかれないように銀時は安堵のため息を付いた。
 昔のように、とまではいかなくても…と、思ってから誤魔化しのきかない本心が叫ぶ。あの頃のように側においときたいのだ。彼女を。
 何の理由もなく触れる事が出来る距離に。
 心も、身体も。
 他の男なんて視界には入らないように。
 「…それは?」
 「ぬいぐるみ。 私って、もしかして妹より娘みたいなものなのかしら?」
 そう言って笑う姿を見て、今まで誰と居たのかすぐにわかった。
 たしかに、くらいの女性に渡すには子供じみている。けれど、だからこそ安心なんだとは、口が裂けても言えない。
 あいつだって、あいつなりにお前を想っている。
 けれど自分の立場をわかっているから、使命を放り出せはしないから、こんなふうに妹のように甘やかす事しか出来ないんだろう。
 「今日。…今夜もお前の所には、サンタが来るのか?」
 きっと、俺の知らないこの数年もあいつらは苦渋の選択(内約一名は何も考えてないだろが)で彼女を子供扱いしプレゼントを贈っていたはずだ。
 「え? あ、そっか、今日はクリスマスイブなのね」
 言われて初めて気づいたらしいは日にちの感覚がおかしくなっていると自分を笑っていた。が、見る見るうちに青くなる。
 「どした?」
 「…大変!」
 「なにが?」
 「そんな事忘れてたから欲しいもの聞かれた時、人が入れるくらい大きなやつって言っちゃった」
 持っていた包みを少し持ち上げ、心底げんなりした顔でこちらを見上げてくる。
 きっと、にそう言われて、あの男はほんの少し困った顔をしながら、まさに子供にでも言い聞かせるように穏やかな声で取り合えずこれを渡したのだろう。
 「それは…来るな」
 「来るわね」
 同時に二人の脳裏に浮かんだのはよく有る人寄せに使う着ぐるみのようなもの。
 「アア。確実に、来るだろうな」
 深夜の街を歩く、ものごっつ可愛らしい着ぐるみ。ある意味ホラーでしかない。
 「…やだわ」
 不審者扱いされたらどうしよう。本気で困った顔をしては考え込む。

 数年前の今夜。
 四人が四人、別行動で同じ部屋に忍び込んだ。皆、一同に同じ服を着て。
 そして、案の定大喧嘩。
 安眠をむさぼっていたは騒音に起こされ、寒さと眠気で正気を失い、四人に、にこりと微笑んだ。
 「…みんな、揃って殺されますか?」
 その笑顔と言われた言葉と寒さに固まる男たちを、取り合えず全員背負い投げした。
 銀時が、いや、四人が今でも心底恐れるあの笑顔だ。

 あれはもうご免だ。と、空を仰ぎ、ふと名案を思い付いた。
 「助けてやろうか」
 「え?」
 きょとんとこちらを見る女が愛しいのだと、口に出せない代わりにじっと見つめてみた。
 「それとも、今年は久しぶりに4人のサンタに襲撃されてみるか?」
 「…それ、トラウマだからヤメテ」
 彼女も、あの夜を思い出したのだろうじっと見返してくる。ほんの少し恨めしげに。 
 「特別に、でっかいウサギ付けてやるから」
 はふわふわした白いのがことのほか好きだったはずだ。
 「…?」
 「お前も可愛がってるだろ?」
 「え?」
 「夜兎族のガキ」
 言われて、くりっと大きな瞳の可愛らしい少女を思い出す。
 「神楽ちゃん?」
 「今日はクリスマスパーティーをするんだって、新八ん家で朝から飾り付けをしてやがる」
 逃げ出したは良いが後で殺されるよりは貢ぎ物を持って早々に戻った方が身の為なのはわかっていた。しかも、彼女と一緒にいられるならこれ以上の聖地はない。
 「お前を連れてったら、きっと俺、今夜は英雄として称えられそうな気がする」
 殺されることなく。
 「そ?」
 「ああ(助けると思って)」
 言えない言葉を読み取ったのか、微笑んでは頷いた。

 そして、並んで歩き出す、昔に戻りたい男と、新しく一から始めたい女。
 言葉は違えど、どちらにしろ思いは同じ方向を向いている。
 未だ二人は気づかない事だが。

 「…ありがと」
 そうやって笑ってくれるなら、このもどかしい距離も、もう暫く我慢出来る。
 懐に隠したそれを渡す事が出来るのはいつの日か。

 取り合えず、今夜は数年ぶりに一人勝ちしてやる。

 そう、ほくそ笑んでから、これから行く目的地には、また新たな敵がいるんだったと思い出し、ほんの少しげんなりする銀時であった。







2006.12.25 ECLIPSE





アトガキ

24日には間に合いませんでした(泣)でも、まだクリスマスだし。許してくださいませ。
えーそうですねえ、連載がこちらに追いついてきたので何とかここまで書く事が出来ました。
雲とリンゴの3の後くらいですかね。時間としては。
もちろんデパートであっていたのはあの貴公子。どっかの獣よりもずっとお兄さんしてます。
そんでもって、ヒロイン兎好きなん(笑)白くてほわほわしてるやつ。
だから、あの人たちこぞってウサギさんあげてるのでした。