10. 好かれる
「こんにちはー」
松本家から5分(ちなみに万事屋からは歩いて15分)にある、表札はないが一見普通の民家。
ここにがやって来たのはある物を届ける為だ。
玄関で声をかけるとすぐに扉が開かれた。
「こんにちは、エリー。小太郎さんいる?」
出てきた白い生物にそう聞けば、
『いらっしゃいませ、ちゃん。いますよ。奥へどうぞ』
というプラカードが上がる。
「おじゃましまーす」
途中、いろいろな人から届けられたであろう荷物がいっぱいの部屋を通り、は小さく微笑んだ。
「今年も沢山ねー」
『はい。なんだかんだいって、一応党首ですから』
「そうでした」
最近は大人しいので忘れがちだが、まだ一応は活動家らしい。
複雑といえば複雑だが、こればかりはしょうがない。
彼には彼なりの信念があって、それを曲げることはこれからもないだろう。
ただ、やり方をもう少し変えてくれれば良いなあと、思わないでもない。
「小太郎さん?」
いつも桂がいる部屋の前に着き、そっとふすまを開くと、思いのほか中は薄暗かった。
「…、か?」
中に入るとまだ布団の中にいる男がのそりと起き上がった。
「えっ?どこか具合が悪いの?」
昔から早寝早起きで、徹底的に優等生な生活を好んでしている桂がこんな時間に床についているなど、ありえない。
慌てて駆け寄り、そっとその背を支える。
「いや…」
心配そうに覗き込んでくるから顔を逸らし、桂は言い辛そうに口に手を当てた。
しかし、すぐさま鼻を突く匂いに気づいた彼女はすぐに顔をしかめる。
「…お酒くさー」
「………」
昼に近いこの時間になってもこんなに酒臭いとは一体どれくらい飲んだのか。桂の身体を心配すればこそ、眉を寄せては無言の圧力をかける。
すると娘に責められる父親のようにバツが悪い顔で黙りこくる桂をフォローするかのように雨戸を開けていたエリザベスが近寄ってきて、必死にボードをの前に出した。
そこにはこう書いてある。
『昨日、誕生日の前祝いってことで、かまっ娘倶楽部の皆さんがパーティを開いてくださったんです。それで、ちょっと深酒しちゃって…』
必死なその姿にこれ以上責めることも出来ず、は小さくため息をついた。
「…それじゃあしょうがないわね」
付き合いの良い彼のこと、勧められるままに飲んだのだろう。
それにしても量があるだろうとは思うが、銀時とは違ってそうそう羽目を外す人でもないのも知っている。
怒りが解けたらしいの表情を見て桂とエリザベスは安堵の息をついた。
「…それより。今日はどうしたんだ?」
それから、これ以上怒られないためにもさっさと話を変えることにする。
「あ、そうそう、これをね」
と言ってが包みを開いてみせる。
荷物の中身は手打ちの蕎麦が5束。
「病院の近くにおいしいお蕎麦屋さんがあってね、そこで打ってもらったの」
お店秘伝の汁もわけてもらったのよ。
と、ニコリと笑うその顔を見て、桂も顔をほころばせる。
「ほう、美味そうだな…」
「お誕生日おめでとう。小太郎さん。 …プレゼントにはちょっと地味だけどね」
「なにを言う、お前と一緒に食べられるなんて、これ以上豪華なプレゼントはないぞ?なあ、エリザベス」
『ええ』
「そう?よかったー。小太郎さん物を贈っても無駄遣いするなっていつも言うから…」
ほんの少し不満そうに口を尖らせるに苦笑しながら、桂は彼女の髪をそっと撫でてそのまま頭に掌を置いた。
そうしながら、昔 同じように師にされたことを思い出す。
『ありがとう。小太郎』
そう言って笑ってくれた笑顔一つでさえ鮮明に覚えている。
あの人がいたから、今の俺がある。
「ありがとう。」
…そして、彼女がいるから今の幸せがある。
「なんだって嬉しいさ。お前がくれる物、してくれる事なら」
「あら、光栄ですわ」
くすくすと笑いながらは立ち上がり手伝いのエリザベスを従えて台所に向おうとして、ふと気づいたように振り返った。
「ところで小太郎さん。二日酔い大丈夫?お蕎麦なんて食べられる?」
「…」
正直 頭痛はする。若干の胃のむかつきはある。
はっきり言って完全なる二日酔いだ。
しかし、
「食べる」
桂はきっぱりと言い切った。
「きつかったら無理しないで良いよ」
「いや、平気だ」
「夜でも大丈夫だろうし」
本当は打ち立てを食べさせたかったが、桂の体調を考えれば無理は言えない。
「今が良い」
そりゃ夜の方が良いかもしれないが、多分 夜になれば邪魔者が来る。
桂の長年の勘がそう言う。
絶対。必ず。
こうして二人でいられることなんて滅多にないのだから、こんな絶好の機会はみすみす逃したくないというのが本音だった。
「後で具合悪くなっても知らないよ?」
「心配は無用だ」
「吐いたりしたら、口聞かないよ?」
何気に辛らつな言葉にも負けず、力強く頷く。
「が作ってくれた物を俺が死んだって吐くわけないだろう?」
たとえ屍になってもこの胃は蕎麦を消化するだろう。
「『…たしかに』」
呆れたように納得した二人は台所へと消えた。
桂の溺愛ぶりは半端ではない。…というお話でした。
2009.06.26 ECLIPSE
アトガキ
ハイどうもー。若干間に合わず。すいません。でも、…
ヅラさんおめでとうございまー。
アレですよ。ちゃんと祝ってる(か、どうかは置いといて/笑)誕生日夢はこれ銀さんに続き二人目です。
何気に杉さまはまだ…あ、これ桂さん死んだね。確実に、闇討ちされるね。
安らかに眠ってください(笑)
…つか、アレですか?アキラも危ない感じですか?狙われますか?
さん…助けてくださいー(号泣)