家に帰るまで誕生日。(続 十月十日)
「ね、どこ行くの?」
家はこっちじゃない。
食事を終えて店を出ると銀時が歩き出したのは家路ではなかった。
訝し気に思い隣を向けば、目を細めじっと一点を睨みつけるように見ている。
なにか思い悩んでいるようなその表情に不安が過れば、ぼそっと、呟きが
聞こえた。
「…なあ、。 オメエ城とか興味ない?」
しかし辺りの雰囲気が変わり、銀時のこれから行こうとしている先が解って
しまったは、きっぱりとその言葉に否定の返事をする。
「ない」
「俺さあ、最近城にハマっててよう。 あ、ホレあそこに珍しい城が!!」
やけに真剣な顔で指差す先にある建物、男曰く珍しい[城]らしいが。
……………………どう控えめに見てもラブホテル。
「………」
白々しい。あまりに白々く、そして滑稽すぎる。
どうせあそこに入れば入ったで「プレゼントはお前だ」とか「今日は好きに
させろ」とか無茶な事を言い出すに決まっている。
「なあ、探検しにいこーぜ?」
「…包みはお家に帰ってから開けたらいかがですか? 坂田さん」
激しく呆れた視線を送ってそう返せば切羽詰まったように顔を近づけてくる。
「待てねーんだよおおお!!」
もうここまでくると救い様がない気がする。
「…だったら外に食べに出なければ良かったのに」
ぼそりと呟いたの声が聞こえたのか、銀時が言い返してきた。
「つーか、上手く追っ払ったとはいえ、うっかり帰って来ないとは限らねー
だろうが」
……………やっぱり一度、ちらっとでもあの世を見せてあげた方が良いかも
しれない。
かなり本気では思う。
しかも、言うに事欠いて追っ払ったとはどういう事だ。
「やっぱり仕組んだんだ」
ここは徹底的に追及しなければ。と、が睨みつけると、慌てふためいた
銀時は必死に弁解を始める。
「…っ、え あ そ、そーじゃねーんだって! お妙が客からもらった肉で
すき焼きパーティをするんだっつって新八ん家に行っちまったんだよ!」
「それなら、銀時だって誘われたでしょ?」
「っ、…今日は二人で行っておいで……ッテ言イマシタ」
あきらかに嘘を言ってる目だ。
「…ホントに?」
「…」
「…」
黙ったまま、あきらかにその言葉を信じていないの、刺すような視線に
負けた銀時はとうとう白状した。
「…が来るのを待って、後から二人で向かうっつってまんまと追い出し
まし…ぐっ」
その直後、脇腹に決まった肘鉄に銀時の身体は虚しくも崩れ落ちた。
「…どう見てもお城じゃないし」
「まだ言ってんのか」
ワンダウンをとられても諦めない男に押し切られ、あまり潜りたくない門を
抜けたも負けじと諦め悪く呟く。
「銀時が言ったんでしょ」
「だーかーらぁ、もういいじゃねーかよー。恋人のカワイイ悪戯ってことで
許せよ」
可愛くない。汚れた大人だ。
呆れたままのとは正反対にご機嫌の銀時はウキウキを部屋を選んでいる。
「どの部屋が良いかねー?」
「普通の部屋かPS3が完備してある部屋」
いけしゃあしゃあと聞いてくる男を睨み返しながら無感情な声でそう言えば、
ちっとも効いてない。
「ゲームしてる余裕なんてやんねーぞ?」
ようやく気に入ったらしい部屋のボタンを押した銀時は、それはもう満面の
笑みで、は返す言葉をなくしてしまう。
銀時の後について入った部屋。
とりあえず危険がないかどうか確認のため見回せば、意外にもまともな仕様
だった。
「……」
思わず安堵のため息をつくをどう思ったのか、銀時は振り返り、じっと
見つめてくる。
「ナニ?」
向かい合って目の前に立つ男の手が上がり、髪に触れた。
その手の動きに気を取られているうちに刺してあった簪を引き抜かれる。
「もう逃がさねェからな?」
はらりと重力に従って落ちた髪の毛をすくい上げ、美しく滑らかなその一房
に口付ける銀時と目が合った。
普段とは全く違う眼差しに捕われ、の胸がドクリと大きな音をたてる。
「っあ、……シャワー浴びたい…」
「じゃあ、一緒に浴びるか」
「ッ!」
真っ直ぐな視線に耐えきれず目を逸らした途端、銀時の言葉どおり逃げる間
もなく ひょい と担がれ風呂場へと連れていかれた。
「ッ、銀時!」
ようやく身体を下ろされ壁際に追い詰められたは、目の前の男をじっと
睨みつける。
「ほれ、とっとと脱ぎやがれ」
両手を獲物の顔の横に押しあて、逃げ場を塞いだ男がニヤニヤと笑いながら
急かした。
「…や…」
「いいだろ?プレゼントなんだからよう」
「い、いつ決まったのっ」
迫ってくる身体を必死につっぱった細い腕で押し返そうとするが、びくとも
しない。
「さっきお前が自分から言い出したんだろうが」
「言ってなもん」
「いいえ、言いましたぁー」
「言ってないですぅー」
子供のような言い合いを続ける間も二人の熱は上がっていくばかりで…。
「じゃあ、今言え」
「いやっ」
いくら口では拒否しても、身体は少しも言う事をきかない。
「プレゼントは私です。ってよ」
近づいて来た銀時の顔がの耳元で吐息まじりに囁く。
「銀時ッ!」
「美味しく食べてくださいって…」
熱い吐息まじりの声に、頬に かっ と赤みがさした。
危険なのは部屋ではなく、目の前の男だという事に今更ながらに気づくが、
時既に遅し。
「ッあ、…や!」
弱い耳たぶを吸われ、びくりと震えたその隙に、銀時の手はあっけなくも、
帯締めを解いてしまった。
「はい、ゲームオーバー」
「ばかっ」
くすくすと楽し気な笑い声をより間近で聞きながら、熱くなった頬をさらに
色付かせたは、悔し気に着物を脱ぎ始めた。
泡を付けたスポンジがの身体に押し当てられる。
裸で向かい合えばこうなると解りきっていたのに、逃げずに付き合っている
のは、愛しく想っているからに他ならなくて。
「…お前の肌は極上だなァ」
多分に甘さを含んだ視線に溶かされていく。
「銀ッ…ん…」
ゆっくりと這う其れは柔らかい身体の線を確かめるように動き回った。
「…ふ、 」
弱い乳房を辿って、鎖骨に背中、内股から足の爪先まで泡だらけにされて知
らず知らずのうちに声が漏れてしまう。
「ハイ、交代ー」
銀時の腕にすがりついたままのにスポンジを渡せば、潤んだ瞳が見上げ
てきた。
ぞわりと背筋を走る快感に にやり と笑い先を促せば恐る恐ると言った様子で
持たされたスポンジを動かす愛しい女。
その姿は献身的というより扇情的。
「お、一カ所洗い忘れてたな」
わざとらしく、今思い出したように無防備な下半身に手を伸ばせば、小柄な
身体がひくりと面白いくらい簡単にすくみ上がった。
「…ッ、あ!」
「なんかヌルヌルしてっけど?」
「やっ、銀時ッ」
どうする? と、視線で問いかける。
濡れた瞳を覗き込みながら指を動かせば、くちゅりと、粘着力のある液体が
溢れ出す。
「ここで襲われてみるか?」
「ッ、触らない…でっ」
無茶を言うなと、思わず笑いが漏れた。
こんなに魅力的な貢ぎ物を諦めるわけにはいかない。
「それとも、寝床でプレゼントになる?」
「………」
「?」
「お布団…行く…」
「了解」
にやりと勝ち誇った顔で男が笑った。
向かい合って座らされると、否が応にも銀時の逞しい胸が視界に入る。
いつも不思議に思うのだが、普段ぐうたらな生活に浸りきっているくせに、
その身体には無駄な贅肉が一切ない。
その上数年前の青年の頃より成熟したラインがさらに魅力的で、わけもなく
恥ずかしくなったは逃げるように顔を逸らそうとしたのだが、それすらも
許さないとばかりに男の唇が押しあてられ、身体を引き寄せられた。
「ん、…う」
頬を撫でられれば胸の奥にある感情が溢れ出し自然と舌が絡まる。
逃げれば追われ、追えば逃げられ、戯れるように夢中でキスをした。
「ふ、んんっ」
それに気を取られているうちに伸びて来た銀時の手が柔らかい乳房を掴み、
指の間から顔を出したピンクの突起に唇から離れた舌が伸びた。
「あ、ンッ」
小さな声を漏らすを満足げに見上げた銀時は、もう片方も指でつまんで
執拗に刺激を与える。
「な、触ってくんね?」
半立ちの其れを指差され、戸惑いながらもその顔を見れば幾分切羽詰まった
ような視線が返された。
返事を返せないでいるの手を掴んでそこへと導く。
「銀ッ…!?」
「?」
じいっとこちらを見つめてくる瞳が、らしくもなく可愛く見えてしまって、
思わず溜息が漏れた。
「……もう!き、今日だけ…特別だからね!」
甘やかすとつけあがるのは重々承知しているが、たまには良いかもしれない
と承諾すれば、嬉し気に笑った男が耳元で「さんきゅ」と小さく囁く。
「ん…」
触れていた其れを握ると、銀時は鼻から抜けるような声を出した。
…少しは、気持ち良くさせてあげられているのだろうか?
がゆっくりと手を上下させながらその表情を伺っていると、銀時の手が
伸びて弱い内股を擦る。
「あっ!?」
「…いっちょまえに視姦ですかコノヤロー」
「や…、違…待って…ああンっ」
同じように互いに愛撫を続け快感を引き出し合ううちに互いの距離が縮まる。
ついには、引き寄せられたがあぐらをかいた銀時の膝に乗り上げたまま
握った其れを扱いていると正面にあった顔が近づいて来た。
「…ッ、サ イコー…」
熱に浮かされたような表情で呟き唇が重なる。
「ぎ… んぅ!?」
受け入れる準備の整った秘処から手を離し、細い指ごと己を掴んで、銀時は
の入り口へと其れを押し当てる。
体液で滑りを帯びている其処彼処が動く度、濡れた音をたてた。
羞恥に震えるの身体が拒否を示さないうちにと、一気に挿入を開始した。
「あああっ!!」
ズズッ、と押し入ってくる熱い固まりに貫かれ反り返った華奢な身体。
「はっ、 あ あ あ…」
座ったまま下から何度も突き上げられて、が苦し気に首を振った。
「ん?」
そっと顔を覗き込めば潤んだ瞳が恨めし気に見上げてくる。
その魅惑的な事といったら。
ごくりと唾を飲んだ銀時の身体に手をついたは、それどころではない。
というように必死で身体を浮かせようとしていた。
「やあ…銀、付け て、な…いっ!」
確かに、いつもは必ず付けている避妊具を今日はまだ付けてないままだった
事にようやく気づいた。
しかし今更止める気にもならず、銀時は、ほんの少し浮いた細い腰を掴んで
引き戻す。
「いやぁ!」
軽い気持ちで身体を繋げているわけではない。
そうなっても良いと、常日頃から思っている。
けれど、今はを自分だけのモノにしておきたい、という執着心ばかりが
先走ってしまっていて抑える事が出来ないでいた。
「ひ どっ…ああっ」
胸に弱々しく縋る手をのそのままに、小柄な身体を上下させて熱い内を抉る。
「…ワリィ」
度を過ぎた快楽に、今にも意識を飛ばしそうなを見つめ、身勝手な男が
珍しく素直に詫びた。
「ーッ!!」
ブルブルと震える身体が愛しくて、労るように細い肩のラインを撫で擦って
やる。
「…」
「ぎ…ん…」
涙をにじませた瞳を覗き込みながら唇を軽くついばみ、視線を合わせたまま
に耐えられなくなったらしいが瞼を閉じた瞬間を狙って耳元に囁いた。
「…言ったろ? 逃がさねーって」
「可哀想に」
いつの間にか意識を飛ばしていたは、その声に目を醒ました。
「こんな、どうしようもねェ男に捕まっちまってよ…」
ごつごつした指が髪の毛をゆっくり撫でている。
どうしようもない?
たしかに、どうしようもなく厄介な男だけれど、
「しかたないじゃない。 …どうしようもなく好きなんだから」
の呟きを聞いたのか、銀時が息をつくように笑う気配を感じた。
その顔が見たくて気づかれないように慎重に覗き見れば、驚くほど穏やかな
笑い顔が伸ばされた腕の間から見えた。
「…物好きな女だ」
隙間もなく抱きしめられ、世界でたった一つの銀時へのプレゼントになる。
2007.10.27 ECLIPSE