沢山のキスをしよう
その瞳に、その頬に、そして唇に
ゆく年、くる年
陰暦、師走。
坊主も走る、教師も走る、上忍師も走る十二月。
今日は年の瀬、大晦日。
里中が忙しなく、陽気で威勢がいい。
去年は初詣客の警備に当たる下忍達の付添で、除夜の鐘を境内で聞いたカカシ。
今年は冬休みを勝ち取り自宅でのんびりとの筈だったが、任務が長引き今現在、森の中を駆け抜けている。
文字通り“師が走る”光景。
冬至を過ぎて幾日か。
まだまだ陽が暮れるのは早く、木々が燃えるように赤い。
里までもう少し。
愛する彼女に会えるのはもうすぐ。
カカシは風を切る音を立てながら、真っ赤に染まる森を抜けた。
「ただいまーちゃん」
里に着いて真っ直ぐ自宅に帰りたかったけれど、後から呼び出されるのはめんどくさい。
だからちゃんと報告は済ませて、帰宅した。
空には冴えた月が、ぽっかりと浮かんでいる
「おかえりーカカシ」
玄関から愛する彼女の元へ飛んで行ったカカシ。
その目映ったのは、灰色の塊と格闘している姿。
「ナニ…コレ。あ、もしかして蕎麦?」
「そう、もしかしなくても、お蕎麦」
「なんでまた、こんな…」
「だって見つけちゃったんだもん」
嬉しそうに笑うが掲げたのは、『自宅で簡単、手打ちソバセット』と書かれた箱の蓋。
「で、最初から作ってるの?」
「そう」
これまた楽しそうに、蕎麦を薄く伸ばしながらは答えて。
「だってさ、カカシは何時に帰ってくるか分からないし、時間があったからやってみようかな〜なんて思ってね」
「そっか、ごめん。クリスマスも一緒に過ごせなくて」
「ううん。それは平気。分かってたから、今年はみんなでどんちゃん騒ぎしてたよ」
「……ならいいケド」
十二月に入って、少し長めの任務に出たカカシ。
クリスマスには帰れないと判断したカカシは、忍犬を使いに出しに伝えたのだった。
勿論任務終了後、帰還の連絡は里との両方に入れた。
はアカデミーで一般教科を教えている、忍ではない教師。
だから土日、祝日、長期休みは任務に妨害される事はない。
「それにしても、よくこんなの見つけたね」
カカシはの見せた蓋を手に取り笑いながら言った。
「うん、色んなのがあったよ。お豆腐とか、うどんとかね。あそこのお店大きいじゃない?お節買いに行ったら売ってたの」
が言う店は、里の外れにある大型スーパー。
近所の商店街で済まそうと思ったけれど、どうせならばと少し足を伸ばしたのだ。
そこで出会ったのが、この手打ち蕎麦セット。
「ねぇ、カカシ。先にお風呂入って来たら?」
「う〜ん、でもその前に」
「なに?」
「キスは?おかえりのキス」
目線を合わせるように屈んだカカシは、口布を下げて自分の唇を指指しながら、目を細めた。
そんなカカシに、しょうがないなぁという笑いを浮かべて、はちゅっと軽く口付ける。
首だけをカカシに向けて、蕎麦を伸ばす麺棒は離さない。
「なんかさ今、しょうがないなーとか思ったデショ」
「いいえ、そんな事は思ってません。カカシが無事に帰って来て、嬉しいな〜って思いながらさせていただきました!」
「そ〜お? じゃ、もう一回」
今度はカカシがの頬を包み込んで、深く濃厚な口付けを贈った。
「……んっ」
僅かに漏れるの声。
カカシの溜まりに溜まったモノに火が付いた。
いや、もうずっと燻っていたのだ。
「ねぇ、」
「なあに?」
「無事に帰って来たオレを、もっと確かめたくな〜い?」
「大丈夫、ホラ、何処も怪我してなさそうだし、顔色も良いし、元気そう。確認しましたっ!」
はカカシの全身に視線を送った後、打ち粉で忍服が汚れないよう、手首で彼の腕を軽く叩いた。
過酷な戦闘にはならなかったのをは知っている。
だた護衛任務に就いた依頼主から、追加依頼をされ帰還が遅れただけだ。
そしてカカシの言う確認が、何を意味するのかも分かってる。
「でも見えない所に打撲跡とかあるかも知れないし。腫れてるかもしれないよ?」
カカシの後半の言葉に思わずの視線が下がった。
そこはベストの下、紺色で覆われた部分。
慌てて視線を蕎麦に戻すけれど、もう遅い。
「今どこ見た?」
「ど、どこも見てない」
「い〜や、オレの目は誤魔化せないよ。確認してみる?オレもが元気か確認したいんだけどな〜」
甘えた声でを後ろから包み込みながら、カカシは言うけれど。
「今はダメ。今は。お蕎麦……じゃなくって、お風呂に入ったカカシがいいな〜〜。ね、そう思わない?」
「まー…確かに」
やる気十分、気合十分で帰ってきたのだが、そう言われてしまっては折れるしかない。
最近のはカカシの操縦方法を心得て来ている。
外見と里一のエリートという事から、様々なイメージの付くカカシだが、の前ではこんな感じだ。
「だから〜〜お風呂に入って来て!!準備は出来てるから」
「はい、分りました」
観念したカカシは夜更けにはと心に誓い、リュックを寝室のデスクに置いて浴室の中へ消えて行った。
揃えられた着替え一式に、ふかふかのバスタオルが置かれていた脱衣所。
浴槽には温かいお湯が張られている。
「ありがたいね〜」とカカシは目を細めて、肩まで浸かった。
と暮らすまでは一人暮らし。
勿論、何もかも自分でしなければならない。
掃除も洗濯も、料理も。
今は手の空いた方が行う事にしているけれど、に任せている部分が多いのが現状だ。
料理の腕も中々で。
料理をするのが好きな女の子の、年相応といった所か。
今では回数を重ね、それ以上かもしれない。
食材をきちんと揃えれば立派な物が出来るし、最近では有り合わせの材料で「適当に作ってみた」と言われる物も食卓に並ぶ。
それもそれなりに美味しかったりする。
新しい料理に格闘中の後ろ姿なんかは、とても微笑ましく。
本をチラチラと見ながら、たまにブツブツと言っており。
そしてごく稀に叫ぶのも可愛い。
味付けの好みが似ているから、どれもカカシの口に合うのだろう。
そんな彼女は何時帰るか分らない自分を待って、暇を持て余していたのかもしれない。
見れば大掃除も終わっているようだった。
そこで見つけた楽しみ、蕎麦打ちセット。
きっと自分の事を想いながら、粉と格闘してくれていたのだろう。
カカシは寂しい思いをさせてしまったという気持ちと、中断させてしまおうとした自分の行動に反省する気持ちと、その二つを混ぜ合わせながら、浴室を出た。
森を駆け抜けながらも誓った、今年最後のイチャパラと、新年最初のイチャパラは外せないけれど。
「ありがとね、サッパリした」
「でしょ?」
は包丁を握りしめながら笑った。
「任せてばっかりで、ゴメンネ」
「どうしたの、カカシ」
「いや、別に。たまには感謝の気持ちも伝えたいなって思ってね」
「改まって言われると照れるんだけど……。別に平気だよ。好きだし」
本当に照れているようだ。
さっきまでカカシを映していた瞳が、蕎麦に移ってそこから動かないから。
でもニコニコと笑って上機嫌。
は小間板と呼ばれる定規を当てながら、ゆっくりと慎重に麺を切り始めた。
「これも入ってたの?」
「あ、これ?そう。全部入ってるんだよ。また作りたい人用に蕎麦粉だけ別にも売ってる」
「へぇ〜」
「軽いし、小さいけどね。お店で使ってるのは試した事ないけど」
カカシがこれと言った小間板を動かしながら答えるは、思い付いたかのように、カカシに問いかけた。
「ねぇ、カカシ、切ってみない?すご〜〜く、上手そうな気がする。こういうの得意でしょ?」
「オレ?…んー……そうかも」
「ね、やってみて。一ミリか二ミリの太さだって」
一番楽しそうな行程なのに良いのかと頭を過るが、は嘱望の眼差しで自分を見つめている。
「りょ〜かい」
カカシはと場所を変わって、包丁を握り締めると規則正しいリズムで蕎麦を切り始めた。
本気を出せば早さなどの比では無いだろうが、そこはそこ、適度な早さで。
「ほら、やっぱりねー。流石カカシ、上手!」
「ありがと」
「どうする?冷たいので食べる?それとも温かいの?」
「が打ってくれたんだから、冷たいので」
「りょーかい」
大きな鍋に、たっぷりお湯を入れて沸かして。
カカシの刻む音が聞こえなくなれば、今度はがネギを刻む音。
蕎麦がゆで上がるまでの僅かな時間。
「おかえり、カカシ」
「ただいま、」
二人は微笑み合い、再び軽い口付けを交わした。
一応ENDです
続編は多分、いや確実に、別館へ続く
2008/01/16 かえで
え〜〜〜〜と・・・・・・久々の脳内会話です。
お嫌いで無い方はどうそ。
↓
「あのさ、管理人さん」
「な〜に?」
「この前編ってさ、最初は数行の予定だったんじゃないの?」
「そうそう、冒頭の部分」
「なんでこんなに長いのよ。一話終わっちゃったでしょうが」
「なんでって言われても長くなっちゃったんだもん。本当はイチャイチャパラダイスにする予定だったのにーー」
「オレだって、楽しみにしてたのにーー」
「でもさ、若い姫とか、ま、色々な方もカカシに会えるから、結果的には良かったんじゃないの?そーいう事にしておこうよ」
「ま、どうにでも言えるよね」
「そう拗ねないの。次回は館を移して書くから。ねv」
「なるべく早くね。オレもう、ガチガッ…イテッ!!」
「そういう発言は慎むように」
「殴らなくたっていいでしょーが」
「兎に角待っててね」
「わかったよ。蕎麦食ってくる」
「は〜い、いってらっしゃい!!」