The Galaxy
夜空に帯状に見えるのは恒星の群衆、天の川。
春から夏にかけて夜空を流れるこの川は、その美しい姿とは裏腹に恋人達を隔てる冷たい川。
一年に一度の逢瀬を楽しむ彼らを垣間見ようと、部屋の明かりを消し、夜空を見上げるが、空は厚い雲に覆われてその姿を捕える事が出来ない。
一年に一度の機会なのに、雨が降ったら逢えぬとは、あまりにも悲しすぎる。
愛し合いすぎて職務を怠けた罰だと云うが、神様は非情であると、は思う。
行いを正すチャンスをくれればいいのにと。
言い付けを守る織姫と彦星は、なんてお行儀がいいのだろう。
自分ならきっと捻くれている。
もしくは実力行使。
遮る川に橋を架けようか。
それとも天下に揺れる笹を使って、彦星を釣り上げようか。
泳いで渡るという手立ても無くは無い。
一年に一度と言わず、それ以上の期間、逢う事も儘ならない状況下に陥る事もあるのが忍だ。
カカシと逢えなくなったら。
そう考えただけで、背筋に悪寒が走る。
「生憎の曇りだーね」
恋人は三週間の任務を終え、シャワーで汚れを洗い流して来た所。
生肌をチラつかせ、首に掛けたバスタオルで頭を拭きながら、ホカホカの身体で近づいてくる。
は窓に背を向け、カカシの胸に飛び込み、背中をぎゅうっと抱きしめた。
「一年に一度しか逢えないなんて……」
「織姫と彦星の事を考えてたの?」
カカシはの髪に幾度とキスを落とし、抱き返しながら聞いた。
「うん」
きっと自分を重ねているのだろう。
七夕に纏わる悲しい恋の話に。
少しセンチメンタルなを可愛く思って、もう一度頭にキスをすると、彼女は頭をもたげてカカシの目を見据えた。
「だって、一年に一度だよ?私だったらカカシの行いを火影様に謝罪して、逢わせてもらう!」
「ちょっと?どうしてオレの行いなのよ」
「私は品行方正だもん」
「それじゃオレが不真面目みたいじゃないの」
「違うの?」
「あのさ、……」
「ウソ、ウソ。冗談。ただね、私我慢出来るかなって思って。したら色々浮かんで来ちゃってさ」
「どんな事?」
お互いの腰の後ろで手を組んで、はさっきの発想をカカシに話して聞かせた。
「彦星釣っちゃうの?」
「うん。えい、やーって。一本釣りだよ」
はにこやかに釣り糸を放ち、吊り上げる素振りを見せた。
「彦星が逢いに行くっていうのは無いわけ?」
「あっ、そうか。そっちは考えてなかったな〜」
「オレなら、真夏の天の川 凍らせてでも逢いに行くよ」
コツンと合わさった額。
「ホント?」と上目使いで見るに「ホント」とカカシは返して、その唇を合わせた。
静かなキスから、深いキスへ移り、またを胸に抱く。
「ねぇ、」
「ん?」
「あっちの世界での一年なんて、すぐなのかもしれないよ?何億、何万光年なんて世界だからね。そんな中の一年。もしかしたらオレ達よりも頻繁にデートしてるかも」
「そうか。神様のイケずーって思ったけど、そうかもしれない!」
「でしょ?」
「うん!」
何億、何万光年の中の一年。
そしてその中の一日は決して長くはないだろうけれど、それは言わないでおこうとカカシは胸の中に仕舞った。
「それに現実的な事を言えば、雨雲は星の下。今年は覗き見されなくて喜んでるかもよ、二人」
「二人っきりで仲良く?」
「そう。オレ達みたいにね」
もう爆発寸前と笑うカカシの中心は、膨大なエネルギーを貯え熱く威きり立っていた。
「星も同じだよ。引力で引かれ合って、衝突して、合体して」
「なんかエッチ」
「そういう意味で言ったんだけど。の天の川も氾濫寸前なんじゃないの?」
天の川にキラリと光輝くのは星々ではなく、切欠を待つ愛の水。
「正直に言うと……大掛りな突貫工事が必要デス……」
「ちゃん!!」
「な、なによ」
「イイの?」
「イイも悪いも……だってシタイもん」
「喜んで承ります!」
抱き上げたそばから、カカシは熱いキスをして。
ゆっくりと溶けて交わったかと思えば、激しい衝突を繰り返していくカカシ。
目の前に星がチラつきはじめたは、彗星の如く落ちて行くけれど───。
自分の言った意味をが正しく理解したのは、カカシの休みが明けてから。
三週間分となる想いのたけを、一昼二夜で注ぎ込まれて。
時々身体の節々が痛むのを除けば、それはそれで、充実した休暇の過ごし方ではあったけれど。
なんでも知ってるカカシ先生は正確に受け止め、忠実に行ったのだ。
にしてみれば、意味を正しく理解してはおらず、響きやニュアンスで使ったのだが。
突貫工事とは──
昼夜にわたり途中で休むことなく一気に行われる作業工程であり、手抜きでもなければ、急場凌ぎでも、やっつけ仕事でも無い。
負のイメージはそれにより、起きた結果が齎したもの。
カカシのお仕事は そりゃもう、完璧!
END
2008/07/08 かえで
BGM 夕凪