美人の姉が益々綺麗になって行く。
愛されて、満たされている証拠なのだろう。





Take another's place 後編
      2007カカシBD夢







姉が外泊するようになった。

は教師とはいえ、任務に駆り出される事が無い訳でもなく、そうなれば外泊なんて当り前だし、
二人共他人の家に泊まる事だって今までに何度もあった。
本人が言えば耳を傾ける。
一々詮索しないのが今までの流れ。

姉が何処に泊まろうと自由だけれど。
聞いて現実を知って思い切り泣けば、早く吹っ切れるかもしれない。
でもそれを聞く勇気がにはなかった。


もしも、好きな人が出来たと、姉に告げていたら。
それがカカシだと言っていたのなら、姉は彼を好きにならなかっただろうか?
今更悩んでも仕方がないのに、頭の中を駆け巡る。

伏線を引いたところで、カカシの気持ちまでは止められない。
勿論、姉の気持ちも。
恋愛の成就は先に見つけた方じゃなくて、相手と想いが重なった方。
自分の気持ちさえ殺せば済むのだと。
泥沼化するよりは良かったと、は自分を慰めた。



それでもすぐに忘れられるものでもなく。
受付業務は淡々とこなすだけ。
カカシの声を聞けば、胸が締め付けられるように痛くて。
姿を見れば熱さと冷たさを繰り返す身体。

一番逢いたくて、一番逢いたくない人。

はその瞳に、カカシを映して話す事をしなくなった。







暑さ、寒さも彼岸まで。
それには一週間程早い週末。

朝と言うには幾分遅い午前中。
部屋の扉が叩かれた音では目が覚めた。
のろのろと扉を開ければ、これから出かけるのか準備万端の姉が立っている。

「今日は休みって言ってたわよね。予定もないって。」
「え〜あ〜・・・うん。」

まだ体温の十分に上がらない身体と、寝惚けた頭では答えを返した。

忍にしては随分と気の緩んだ寝起き姿だけれど、守りを固めた自分の城でなら当然の事。
まして訪問者は、自分が生まれた時から傍にいた姉。

「とりあえず先に歯磨きして、顔洗って来なさい。それからこれに着替えて。」
「・・・・・・何コレ?」

手の上に乗せられた、ふわふわとやわらかい布。
広げれてみれば一枚のワンピース。

「報酬、プレゼント。」
「へっ?どういう事?」
「それは後で話すから、ほら、早く、早く。」

持たせたワンピースをベットの上に置いて、今だ回転の鈍い頭で考えながら立ち尽くすの背中を、姉は押した。

「着替え終わったら教えてね。」

そういうと姉は扉を開けたまま、自室の奥へ入って行く。


は何が何だか分らないまま、取り敢えず言われた通りにしてみようと。

ベットの上に置かれたワンピースに着替えて、これに合うのは・・・この前買ったあのミュールかなと考えて。

“報酬”“プレゼント”とは一体どういう事なのか?
考えてみても当てはまるものはなく。
でも解答はすぐそこにある。
は答えを持つ姉を呼んだ。



廊下を挟んだ向かいの部屋から姉がの部屋に入って来て。
その手にはシンプルなビーズのヘアーアクセサリー。

「髪の毛、まとめてあげる。」

姉はをドレッサーに誘導し、妹の髪を丁寧に梳かし始めた。

小さい頃はよく姉に髪を結んでもらったなと、思い出に浸りそうになった思考を軌道修正して、は鏡に映る姉に問いかける。

「ねぇ、お姉ちゃん。報酬ってどういう事?」
「ん〜今日はこれから、カカシ君に会って来て貰いたいの。行きたい所があるみたいよ。」
「なんで私が!」

は堪らず振り返り姉を見上げた。

「ほら、動かない。」

姉に向き直されて、再び鏡に映る姉に視線を送る。
視界に入る自分の顔は、やや怒り顔。
一瞬鏡越しに目が合い、姉は目を伏せ、力無い笑みを一つ落とし、の肩に掛る髪をまとめ始めた。

「私これから出かけるの。だからカカシ君との待ち合わせに行けないの。」

警備任務の半分を過ぎた辺り。
姉の、カカシに対しての呼び方が変わった。
カカシさんではなく、カカシ君と。
それだけで、親密度が上昇したのが伺える。

「なにそれ、訳分んない。自分でちゃんと断ってくればいいじゃん。」
「無理、無理。そんな時間ないし。」
「・・・誰と会うの?」

敢えて聞いた。
何処に行くの?じゃなく、誰と会うの?と。

「彼氏に決まってるじゃない。」
「また新しい人?」

姉がもてるのは、も知ってる。
女であり、妹の目から見ても姉は綺麗だ。
透ける様な白い肌には、傷一つなく。
それを羨ましく思う事もあるけれど。
忍びとして生きる事を決めたのは自分。
だから後悔はしてない。

だけど・・・。

汗や泥に塗れ、時には返り血を浴びる傷だらけの女より、
綺麗な服を着た、所謂“守りたくなる女”の方が男は好きなんじゃないかと。
だからカカシも───。

「またとは、なによ。失礼ね。」
「だって・・・・・・。」

────カカシさんは?

喉まで出かかった言葉が、姉の言葉によって消された。

「あ〜遅刻するー!!十一時に大門近くの公園だから。分かった?」
「・・・・・・私、行かないかもよ。」
「あらら、可哀想・・・。カカシ君律儀だから、きっと、ずーーっと待ってるわね。」
「・・・・・・・・・分ったよ。行けばいいんでしょ、行けば。」
「そうそう、それでいいの。うわっホントに遅刻しちゃう。今夜は遅くなるから。じゃあね、、行って来ます。」

ドアが閉まる音。
施錠の音。
軽やかなヒールの音が段々と小さくなって。
その代わり自分の周りの空気がやけに重かった。

姉の事がよく分からない。
全てを聞かなくても、通じる所が今まではあったのに。


姉にカカシとは別の恋人が居る。
カカシが振られたのか、それとも姉は、最初から付き合ってるつもりはなかったのか。
お互い遊びか。

でも、会う約束をしたカカシ。
自分に姉の事を問うカカシの気持ちは・・・。

きっと姉にある。

相手の気持ちが自分にないのでは、何も始まらない。
でも今は、身代わりでもいい。

─── だけどいつか、心の真ん中に住む事が出来たら。

そう願って、は口紅を引いた。

身代わりの報酬であるワンピースを着て。






秋が夏を追い出し始めた九月の中旬。
蝉の声は何時しか消え、流れる風にも涼が混じる。


大門近くの公園に着いたのが待ち合わせ時間の二分後。
石垣に腕を組んで寄り掛かるカカシが居た。

最初に掛ける言葉をあれこれ探して、少しずつ近づけば。
気配を感じたカカシが、ふと横を向く。
に気が付いて、カカシの丸まった背中がピンと伸びた。

「・・・ちゃん。」
「ごめんなさいっっ!!」

まず頭を下げた。
それからカカシの肩を見つめては言葉を繋ぐ。

「姉が急用で来られなくなって・・・。」
「そう。」
「私で良ければ、最後までお供します!」

最後はカカシの目を見て力説して。
するとカカシは目尻を下げて、やわらかく笑った。

「オレはちゃんが来てくれれば満足だけど?」
「あはは・・・ありがとうございます。」

社交辞令でも、嬉しかった。

「行こっか。」
「はい。」

ほんの少し間を空けて並んで歩く。

「何処に行くんですか?」

の問い掛けにカカシは「ん?」と二枚のチケットを差し出した。

「・・・これって・・・。」

チケットを見た瞬間、胸が躍った。

アカデミーの掲示板に貼ってあった一枚のポスターには、新しく出来た美術館。
時間に余裕があれば、ふと足を止め、は眺めていた。
展示物の多さから、一日で全て回るのは不可能だとも言われているけど、
時間があったら絶対に行こうと思っていた所。

「こういう所、嫌いじゃないでしょ?」
「嫌いじゃないって言うより、大好きです。」
「そ。それは良かった。やっぱり先生だね、ちゃん。」
「・・・カカシさんこそ、美術館に行きたいなんて、やっぱり先生ですね。」

の言葉にカカシの目が一瞬大きくなって、次には孤を描いて。

ちゃんと行ければ、何処でもいいんだけどね〜。」

そう軽やかに言う。
カカシと目が合ったの顔は、ほんのり染まって。
「何言ってるんですか!」と誤魔化しながら、カカシの腕を弾くと前を向いた。

だからその後、カカシが嬉しそうに笑ったのを、は知らない。





美術館を出ると外はもう薄暗く、太陽が駆け足で沈んで行く。
すぐに闇が訪れて、それを合図に秋の虫達が一斉に歌を歌い始めた。


新しく開発されたこの地区には、訪れた美術館の他に水族館、高級ホテルと立ち並び、
その中心には数多くのテナントが入る木の葉ヒルズ。
そこのレストランで食事をした。

初めてこの界隈に来たけれど、姉の好きそうな所だなっと、頭を過って。
でも考えるのは止めようと、マイナスな思考を零に戻した。




帰り道。
人通りの少ない、歩きやすい道を二人は選んで歩く。

食事中、一旦鎮まった足の痛みが再びを襲った。
脚絆に馴染んだ足に、新しいミュールだったから当然か、という気持ちの方が大きく。
摩擦によって出来た足の甲の水膨れ。
それが破れて、足を動かす度に痛みが走る。
でも我慢出来ない痛さではない。
は平静を装って、変わらない歩調で歩いた。

「ちょっと休もうか。」

高級マンションが並ぶ一角。
そこでカカシは足を止めた。
奥にそびえるマンション群を背にして、手入れの行き届いた花壇と、ライトアップされた小さな噴水。

「ここに座って。」

はカカシに促されるまま、噴水の縁に軽く腰かけた。

「足、見せて。」

カカシはの前にしゃがんで。
片膝は地面に付き、もう一方の膝はに向けられて。
まるで忠誠を誓う騎士のように片手を差し出した。

「・・・あ・・・あの・・・。」
「靴ずれ、出来てるでしょ?」

それでも足を出さないを見て、カカシは優しく笑いミュールを脱がせると、自分の太腿の上に彼女の足を乗せた。

「今日は随分歩いたからね。平気?」
「・・・・・・はい。」

カカシはポーチの中から小さな応急セットを取り出し、軽く消毒をした後、患部にガーゼを当ててテープで止めた。

「家に着いたらすぐ外した方がいい。乾燥させた方が治りも早い。」

ね。と念を押され、止まっていた頭が動きだした。
予想外の出来事に、ただカカシを見ていただけだったから。

カカシはミュールを履かせたの足を静かに地面へと下ろした。

「す、すみません。あまり履き慣れていなくて・・・。この服に合うのはこれしかなくて・・・。」
「似合ってるよ、その服。でもちゃんが着てて驚いた。」

カカシの言葉に血の気が引いた。
胸が潰されるように苦しくて、皮膚の表面がピリピリとしてくる。

姉が濁した“報酬”“プレゼント”の答えは最悪だったのだと、一気に負の思考へダイブした。

「・・・・・・あっ・・・本当にごめんなさいっ!!」

は慌てて立ち上がって。

「今すぐ脱ぎますから!!」

もう一度謝りながら、背中のファスナーを下ろした。

「ちょっとちゃん!!なにやってんの!」
「・・・私、知らなくて・・・・・・。」

自分の体からワンピースを引き剥がそうとするを、カカシは立ち上がって自分の胸の中へ閉じ込める。

「・・・離して下さい。」
「だーめ。一体どういう事なの?オレの言い方が不味かったみたいだけど、落ち着いて話して。それまでは離さないから。」

はカカシの巻物ポーチの上にある自分の手を握りしめて、ゆっくりと話し始めた。

「今朝、お姉ちゃんから貰ったんです。この服。」
「そうなんだ。」
「カカシさんがお姉ちゃんにあげた物だって、知らなくて・・・・・・。」
「ちょっと待って、そこ違う。」
「・・・・・・?」
「オレはさん・・・お姉さんに洋服なんてあげてないよ。何か言ってなかった?」
「報酬だって、プレゼントだって・・・・・・。だからてっきり、カカシさんがプレゼントした服かと・・・。」

なるほどね、とカカシは笑って、下がったワンピースのファスナーをゆっくり上げた。

「多分、これとは逆の意味なんだろうけどね・・・。」

そうカカシがポツリ言えば、聞き取りきれなかったが、見上げて聞き返した。

「はい?」
「いや、こっちの話。それよりちゃん、何にもお姉さんから聞いてないの?」
「カカシさんの話ならいっぱい聞きましたけど・・・。」

そしてまたは俯く。

「じゃ、オレがちゃんを好きなのは知ってる?」
「・・・・・・・・・は?」
「やっぱり伝わってなかったのね・・・。好きなんだよね、ちゃんの事が。」
「え?・・・・・・あの・・・姉と付き合っていたんじゃないんですか?」
「違うよ。オレが好きなのはちゃん。」

また逢いたいと、
ここに帰って来たいと、
初めてカカシの心を動かした女性。

ちゃんも満更じゃない気がしてたんだけど、オレの自惚れだったのかね・・・。」

カカシが肩を落とす気配を感じて、は再び見上げる。

「そんな事ありません!私も・・・初めて見た時からカカシさんの事が・・・好きでした・・・。」

「今も?」とカカシが尋ねると、は下を向いてコクリと頷いた。

「良かった・・・。最近のちゃん冷たいから、すっかり嫌われたかと思ったよ。」
「だって・・・姉と付き合ってるのかと思ったから。」
「お姉さんと付き合ってるのは、イビキ。」
「・・・へ??」
「森乃イビキって知らない?」
「知ってます!拷問・尋問部隊の森乃イビキ特別上忍。」

三度上がったの顔。

「そ。オレが取り持ったの。報酬はそれに対してだーね、きっと。しかし、よく人を見てるね、お姉さんは。」

は何も言わず、首を傾げた。

「二人を会わせる為に、イビキの所まで案内したんだけどね。その時にその服がある店に飾ってあったの。
 ちゃんに似合いそうだって、チラっと見ただけなんだけどね〜。」

カカシは照れくさそうに後頭部に手をやり、「座ろっか。」と噴水の縁にを促した。
そして、自分も隣に座る。

「だから、ちゃんがそれを着てたから驚いたってわけ。
 好きな女の子が自分好みの服を着てデートに来る、っていうのが、オレに対しての報酬、プレゼント。」
「・・・・・・お姉ちゃん・・・言葉が足りな過ぎ・・・。」

はがっくりと項垂れた。

「オレも交換条件出したけどね。勿論、ちゃんだけど。ちゃん、人気あるの分かってないでしょ?」
「人気ですか?」

予想外の言葉には思わず顔を上げる。

「そ、狙ってるヤツいっぱい居るんだよ。だから先急いで誤解させちゃったみたいだね。ごめんね。」
「いえ・・・姉が悪いんです。肝心な事は全然話してくれないから。
 あと私も。ちゃんと確認すれば良かった。したらあんなに悩まなくて済んだのに・・・。」
「悩んでくれたんだ。」
「はい、ものすごーく。」

カカシは嬉しそうに微笑んで、の頬に手を添えた。

「ありがと。・・・・・・キスしていい?」
「・・・・・・恥ずかしいから、聞かないで下さい・・・。」
「だってちゃんと確認しないとね。」

そう言いながら近づくカカシの唇を見つめ、は返事の代わりに瞼を閉じた。


唇が離れても影は一つ。
カカシは自分の肩にを抱きよせた。

「取り敢えず誤解は解けたみたいだし、順を追って説明しようか。オレが直接話してれば、こうは成らなかったんだけどね。」

カカシは苦笑いを浮かべて言葉を繋げた。


上忍師になり、今まで火影から直接任務を言い渡される事が多かったカカシが、受付に通うようになった。
そこでを好きになり。
何かと話題を見つけては話しかけていた。
受付で口説く訳にはいかず、廊下ですれ違った際に食事に誘えば、さらりと流されたと。

それに付いてはも覚えていて。
嬉し過ぎて、恥ずかしくて、誤魔化したのだと。
カカシが自分を誘うのが信じられなくて。
今度とお化けは出た事がない、その今度だと、勝手に思い込んだ。


「今度とお化けってね・・・ちゃん?」
「だって・・・。」

カカシが覗きこんで問い掛けると、は恥ずかしそうに笑った。

「その後すぐだよ。難攻不落の受付嬢だって聞いたの。」
「・・・なんですか?それは・・・・・・。」
ちゃん、誘われたり、告白されたりしなかった?」
「・・・・・・何処かに行こうとかは、時々言われましたけど・・・。」
「それ、全部断ってたでしょ。」
「・・・ぇ・・・あ・・・はい。」
「まだまだ諦めてないヤツ多いよ。」

は信じられないといった風に、吐息だけで相槌を打った。
綺麗な姉を見て来たには、まるで他人事のようで。

「で、オレは任務でちゃんのお姉さんに会ったわけ。
 お姉さん、鋭いね。少し話しただけで、オレがちゃんを好きだってすぐ見抜かれた。」
「なにか言ってました?姉。」
「探りを入れてみるって。」
「あっ・・・・・・そうですか・・・。」

大きく肩を落として、は溜息を一つ零す。

これで辻褄が合って来た。
姉がカカシの話をしたのは、自分の反応を見る為だったのだと。
それならそうと言ってくれれば良かったのに、とは心の底から思った。

「私、その姉が入れた探りで、カカシさんと付き合ってるんだって、勝手に思い込んだんです・・・。
 姉とカカシさんが歩いている所も偶然見ちゃって。その日姉は帰って来なかったし・・・。」
「その日だよ。その服を見つけたのも、イビキとの待ち合わせ場所に連れて行ったのも。」
「そうだったんですか・・・。なんにも教えてくれないんだもん。」
「イビキと付き合ってるのを知ってるのは、今はまだオレだけ。
 職種柄、特にイビキは注意が必要だからね。
 逆恨みされる事が多いし、お姉さん一般人だから、狙われやすい。
 ま、ちゃんには、オレと上手くいったら話すって言ってたけど。」
「気を使ってくれたのかもしれないですけど・・・、お姉ちゃん・・・順番逆・・・。」

は今は居ない姉に向って、不満を漏らした。

「でも、森乃特別上忍となんで姉なんですか?」
「接点なさそうでしょ。」
「はい。」
「オレ達ね、夜間警備も依頼されてたの。任務の入ってない中忍以上がツーマンセル組んでね、警備室に入ってたわけ。」
「森乃特別上忍も?」
「そ。というか、結構イビキはシフトに入ってたね。なんせあの面だから、ぴったりでしょ。」

カカシの問いかけに、なんと答えたら良いのか、は苦く笑って誤魔化した。

「お姉さんが残業だった日、差し入れ持って行ったらしくて、そこでね、意気投合して。その後オレが橋渡し。」
「それで姉がカカシさんと私の・・・?」
「そーいう事。・・・遅くなっちゃったね、立てる?」

夜空を見上げた後、カカシは立ち上がり、に手を差し伸べた。
「はい。」と返事を返して、カカシの手を取ると、は静かに立ち上がる。

「まだ痛む?なんなら、抱いて帰ろっか?」
「だ、大丈夫です。歩けます。」
「遠慮しなくていいのに。晴れて恋人同士なんだし?そうだよね、ちゃん。」
「そうですけど・・・じゃあ、腕貸して下さい。」
「どうぞ。」

カカシのくの字に曲がった腕をは掴んで、二人の足はゆっくりと家路に向かった。







「じゃあね、ちゃん。」
「今日は色々と・・・」

言葉の途中でカカシはの唇に人差し指を立てた。

「お礼はいらないよ。でもくれるんなら、言葉よりこっちを頂戴。」

唇から、頬に移るカカシの手。
戸惑いながら背伸びをしたの唇が、カカシの唇に軽く重なった途端、カカシによって深く、激しいキスへと変わった。


「このまま連れて帰りたいけど、今夜はこれで我慢してあげる。」

最後にもう一度、カカシは軽いキスを落として。

「カカシさん・・・。」
「おやすみ、ちゃん。」
「おやすみなさい。」

ぼわんと上がった白煙。
それが空気に混じわえば、カカシの姿は何処にもなく。
いまだキスの余韻が残る唇に手を押し当てながら、は部屋の中へと消えて行った。


玄関に入ると、姉の気配は感じられず。
そういえば遅くなると言っていたっけと思い出し、自室のベットに飛び込んだ。

クッションを抱えてしばらく呆然と。
次に、右へ左へころころと寝返りを打った。

段々カカシの掛けた唇の魔法が解けて来て、思考力が回復してくる。
付き合う事になったんだと、心で思い出す度に顔が笑う。

嬉しくて、ちょっぴり恥ずかしくて、ドキドキする。

片方の足に感じたガーゼ。
起き上がり、ベットの上で膝を抱えながら、テープをなぞった。

「外したくないな・・・。」

ぽつりと呟いて。

今日の事が夢じゃない証拠。

『家に着いたらすぐ外した方がいい。乾燥させた方が治りも早い。』

カカシの言葉を思い出し、そっとテープを剥がした。





ほかほかと、自分から湯気が出ていそうな湯上り。
ドライヤーに手を伸ばした時、待ちかねた姉の気配に、は洗面所から飛び出した。

「ちょっとーお姉ちゃん!」
「カカシ君とは会った?」
「会ったよ。」
「それで?」
「お陰さまでお付き合いする事になりました。」
「良かったじゃない。」

姉はダイニングセットの定位置に腰掛け、テーブルと背凭れに両肘を乗せた。
同じくも。
異なるのは、綺麗に足を組む姉に、ブラブラと空を蹴る妹。

「良かったけどさ・・・。」
「なに?」

姉はチラリとを見て。

「もう少し教えてくれても良かったのに。色々勘違いしちゃったよ。」
「そんな感じだったわね。」

また視線を前に戻す。

「何?知っててやったの。」
「面白そうだったから。」
「ひどーい!!」
「ウソウソ。あれで、奥手な妹のお尻に、火が点けばいいと思って。」
「火が点く所か、何もかも消えそうだったよ。」

は軽く肩を落とした。

「告白なんて、本人の口から聞くものでしょ。カカシ君も自分で言いたいだろうし、だってその方が嬉しくない?」
「まあ、そうだけど。」
「それにしても、恋は盲目とは言ったものね。」
「何?」
「あんた、私の妹何年やってるのよ。男の趣味は変わってないわよ、私。」
「あっ・・・・・・。」

言われてやっと思い出した。
姉は所謂“厳ついタイプ”がお好きだったと。
加えて年上好みだ。
同い年で、決して厳つくは見えないカカシは、姉にとって対象外。
なぜ、そこに気がつかなかったのだろう・・・。

「イビキの事、カカシ君から聞いた?」
「・・・少しだけ。良かったね。」
「ありがとう。」
「あ、そうだ!私の方がお礼言わなくちゃ。今朝の服、ありがとねお姉ちゃん。」
「綺麗な包み紙だったでしょ?」

姉の言葉には包み紙?と首を傾げた。

「洒落よ、洒落。」
「・・・・・・。」
「あッ、へ〜・・・ふうん。カカシ君って案外・・・。」
「なに?なに?」
「日にちも日にちだし、てっきりねぇ・・・。そう、そうなんだ。ほー。」
「どういう事なの、教えてよ。」
「だからー、カカシ君への誕生日プレゼントだって。ビーズだけど、リボンも付けたでしょ。中身はちゃんって?」

我ながら発想がオヤジだったかしら?と姉は一人笑い呟いた。

「たんじょうび・・・・・・?」
「そうよ・・・。もしかして知らなかったの?」
「それって、いつ?」
「今日。」

時計を見上げた姉の顔が少し曇って、残念そうに言葉を続ける。

「正確には昨日だわね・・・。」

姉の視線を追っても時計に目を向ければ、針の示す時刻は午前0時35分。
息を詰めて、溜息を零して。
その後は静かに立ち上がった。

?」
「行ってくる。」

姉は黙って、でも笑って、手を振った。

部屋に戻りもう一度あのワンピースを着て、二分で化粧を済ませる。
すぐに出て来たは廊下から姉に話しかけて。

「お姉ちゃん、ありがとね。」
「気を付けるのよ。私はもう寝るから。」
「うん、わかった。おやすみ。」

は部屋を飛びだし、夜空に溶け込んだ。







濡れた髪をバスタオルで拭きながら、寝室へと入るカカシ。
落ち着いたところで手を休めて、机の上のファイルを取った。
立ちながら、週明け提出する資料を確認する。
不備はないなとファイルを閉じれば。


『カカシさん・・・・・・。』


の声を聞いたような気がして、視線を窓に向けた。
特に変化は無く。
空耳だったのかと、窓際に近づけば、こちらに向かってくる小さな人影が一つ。


─── ちゃん?


カカシは窓を開けた。




カカシの部屋を目指して跳んで来たのだから、窓際に立ち自分を見つめるカカシにはすぐ気が付く。

「・・・カカシさん。」

玄関へ行くつもりだったけれど、カカシを見た事で逸る気持ちが加速度を増し、は窓の中を目指して跳び上がった。

空中で脱いだミュール。
それを片方づつ両手に持とうとした所為かバランスが崩れて、不安定なまま窓の内側へ落ちた。

「痛っ!・・・・・・くない・・・。」

咄嗟に閉じた瞼を開ければ、目の前に濃紺。

「あれ?・・・・・・うわっ!ごめんなさい。」

横たわる自分の身体の下には、カカシがいて。
ミュールは手から離れて、どこへ行ったのやら。

「大丈夫。ベットの上だから。」

すいません・・・と降りようとしたをカカシは抱きしめて、髪を撫でた。

「それより冷えちゃって、どうしたの?」

からふわりと香るせっけんの香り。
まだ完全に乾ききっていない長い髪は、水分を多く含んでしっとりと柔らかく、それでいて少し冷たい。

「カカシさん、お誕生日おめでとうございます。」

がカカシの胸に向って囁けば、くるりと身体を反転されて背中に感じたベットの弾力。
上から覗きこむカカシが言葉を降らせる。

「それを言いに来たの?」
「・・・遅れちゃってごめんなさい。」
「一日の最初に会ったのはちゃん。最後に会ったのもちゃん。それだけでオレは十分だったよ?」
「でも・・・言いたくて・・・。」
「ありがと。」

カカシはの前髪をかき上げて、額に軽く口付けた。

「今夜は少し風が冷たいのに、湯冷めするよ。」
「じゃあ、温めて下さい。」
ちゃん?状況を把握して、それ言ってる?」

真っ赤に成りながらは頷いて。

「・・・プレゼントには・・・なりませんか?」

カカシは幸せそうに笑うと、唇を重ねた。


「最高のプレゼントだよ。」


そう囁きながら・・・・・・。


Take another's place(身代わり) ・・・END





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2007/09/29
かえで

お誕生日おめでとう、カカシ。