綺麗なお姉ちゃんが、好きですか───?





Take another's place 前編

       2007カカシBD夢









突き刺さってくる太陽の日差し。
夕方、一時的に降った雨が地表を濡らし、湿度を更に上げる。
同僚と食事をして別れた後、あまりの蒸し暑さから逃げるように自宅へ帰って来たけれど、
部屋に入った途端止まった空気の流れに、汗がどっと吹き出した。

「暑〜い・・・。」

忍服の胸元に風を送り込みながら、はエアコンのスイッチを入れた。
軽い電子音の後、開いた羽の隙間から落ちてくる冷気がを包み込む。

ひとしきり落ち着くと、シャワーを浴びて。
脱衣所から廊下に出れば、一緒に住む五歳上の姉が仕事から戻って来た。

「おかえりーお姉ちゃん。」
「ただいま、。」

スーツにハイヒール。
これが姉の戦闘服。


家の父は忍、母は専業主婦で、母は父と結婚する前OLだった。
そんな両親は、忍になれとも、忍になるなとも言わず、娘たち自身にそれぞれの道を選ばせた。

姉は木の葉商事のOL。
妹のは忍となり、現在はアカデミーの教師。
年の離れた双子の弟達が大きくなってきたのを切欠に、二人は実家を出て一緒に暮らし始めた。
二人で暮らすと両親に告げた時、心配そうな、寂しそうな顔をしていたけれど。
家が手狭になって来たのは事実だったし、親の目が届かない生活というものをしてみたくなっただけの事。
そろそろ二人で住み始めてから2年になる。

ダイニングに向った二人は、それぞれ目的の場所に辿り着き。
が椅子に腰かけキッチンを覗くと、カウンター越しに姉の姿が見えた。
冷蔵庫から麦茶の入ったボトルを取りだし、アナタも飲む?と無言で聞いて来る。

「うん、飲む。」

グラスの音、水の音を聞きながら、は背もたれに寄り掛かり、大きく身体を逸らして伸びをした。

「ねぇ、はたけカカシさんって知ってる?」
「はぁ〜〜あッ??」

姉の言葉に、出かかった欠伸が途中で止まった。
これがとっても、気持ちが悪い。

「男の子二人と、女の子一人連れて来たのよね、会社に。」

麦茶の入ったコップを二つ、テーブルの上に置いて、姉はの向いに座った。

「へ〜そうなんだ。勿論知ってるよ。」

全員の名前を聞かなくても、第七班の事だとすぐに分る。
今日は受け付け担当ではなかったから、任務の内容に付いては分からないけれど。

「可愛い子達ね。カカシさんも良い先生だし。」
「う、うん。そうだね。」

姉の口から、カカシの名前が出てくる日が来るとは思わなかった。

ただ単に今日の出来事に付いての報告なのか。
それともカカシに、一目惚れでもしたのだろうか?

姉の口から出た“カカシさん”という言葉が、自棄に胸に突き刺さる。

何を隠そう、自分はカカシに、一目惚れをしたんだから・・・。

話をした事もない人に心が動くなんてないと思ったけど、頭と心が同時に「この人、すき。」と叫んで。
任務の授受以外にも言葉を交わすようになってきた最近、なんだかとても楽しかった。
他愛の無い会話だけれど。

なんとなく姉の次の言葉が聞きたくなくて、「疲れたからもう寝るね。」とは笑顔で自室に戻った。





次の日も第七班は姉の会社に訪れた様で、が黙って聞いていると姉は状況を説明し始めた。

姉の会社の警備員達が集団食中毒に罹って入院。
民間の警備会社は夏休みのイベントで人員を回せる余裕が無く、忍に任務として依頼したとの事だった。
期間は二週間。
任務依頼を任されたのは姉であり、自然と忍達と会社とのパイプ役兼案内役となったのだと。

「お姉ちゃん、任務内容は人に話さない方がいいよ。」
「あ、そうだったわね・・・。でもになんだから大丈夫でしょ。もう話しちゃってるし。」
「別に口外はしないけど・・・。」
「他の人には話さないから。」

Dランク任務で公衆の面前での警備。
別に隠すような事でもないけれど。
姉の口からカカシの事を聞きたくなかった。それだけ。

だけど警備の任務は、何もなければ毎日淡々と終わる。

ナルトが欠伸をしてサクラに怒られて、それを見たサスケが鼻で笑う。
一見じゃれ合いのようなナルトとサスケの喧嘩が始まり、サクラが仲裁に入る。
その一部始終を、溜息混じりで見つめるカカシの姿や、
朝早くビル外周を見回っていたカカシが、遅刻だと生徒達に捲くし立てられていた事など。

やっぱり“カカシ報告”を聞かされる様になった。

お昼ご飯をカカシと一緒に食べたと聞いた翌日の金曜日。
夕焼け色の里内を、楽しそうに肩を並べて歩く、姉とカカシを目撃した。
勿論声も掛けられずに、それこそ二人から逃げるように自宅へ帰って。
姉が帰って来ても冷静で居られるように、心の波を抑え込んで、作り笑顔の練習もしたけれど、
結局その夜、姉は帰って来なかった。







九月に入って教壇に立ちながら、受付業務もこなして。

粗方依頼も捌いたお昼時。
午後からの授業がないは、同僚が昼食を澄ませている間、受付の椅子に一人腰かけていた。

そこへ入って来た第七班の隊長。

「・・・・・・おかえりなさい。」
「ただいま〜ちゃん。久しぶり。」

カカシは目を細めて笑いながら、ゆっくりと近づいた。

「はい、これ。」
「御苦労さまです。」

提出された報告書に目を通して、いつも綺麗な字だなと関心する。

「どうかした?」

は判子を一つ付いて。

「いえ、不備はありません。お疲れ様でした。」

軽く首を傾げて自分を見るカカシに、労いの言葉を掛けながら頭を下げた。

「ねぇ、ちゃんのお姉さんって、木の葉商事で働いているんだね。」
「・・・あっ・・・そうです・・・・・・。姉から第七班が警備の任に就いたと聞きました。」

そう、とカカシはにこやかに笑って、あれからもう一週間は経つんだ〜ね、と思いを馳せた。

「お姉さん元気?」
「・・・・・・元気ですよ。」

自分に聞くのが手っ取り早いというのは分かる。
分かるけど、聞かないで欲しい。

だってまだ、諦めきれていないのだから・・・・・・。

「じゃ、よろしく言っといてね。」
「・・・・・・逢いに行ってあげた方が喜びますよ?」
「そういうわけにはね〜。」
「あ・・・今夜から任務とかですか?」
「オレ?」
「はい。」
「そうなの、オレだけね。あいつらはお休み。」
「そうですか・・・。気を付けて。」
「ありがと。」
「姉には伝えておきます。」

一通り話終えると、待っていたかの様に同僚達が戻って来て。
カカシはの頭にポンポンと二回手を置き、頑張ってねと受付を後にした。



─── 妹・・・・・・。



自分の位置を心で呟いて言い聞かせる。

カカシの大きな手は温かかった。
そのぬくもりが気持ち良くて、いつまでも忘れたくない。

でも・・・今すぐに忘れたい。


だって彼は、姉の恋人なんだから──────。


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2007/09/20
かえで


BGM 結末