『相思相愛』


冷たい、空気の中で。

独り。

小さな女の子が、膝をかかえている。

その瞳からは、涙が流れている訳でもない。

その唇からは、嗚咽が零れている訳でもない。

でも。

泣いてるって、俺には解った。



その悲しみを表に出さず、誰にも伝えずに。

心の中、独りきりで、泣いてる君を。

今すぐに抱きしめたいのに。

冷えた体も、心も。

丸ごと包み込んで、暖めたいのに。

俺の手も口も、存在しないかのように動かない。

ただ、目で。

目だけで君を見つめる事しか、出来ない。

もどかしい。

俺はここに居るのに。

君は決して、独りじゃないと、伝えたいのに。




目が覚めた。

今まで見ていた夢の、もどかしさを引きずったまま。

そして気付いた。

それが、夢だけではなかった事を。

俺の隣で。

眠っていたはずの、が膝を抱えている。

その背中は大人のそれであるけれど、俺には小さく小さく見えた。

こんな真夜中に、独りで。

何してるのさ。

俺を起こさないように、声も涙も抑えて。

そんなに小さく震えて。

ピク、と俺の人差指が動いた。

動く。

夢とは、違う。

俺はを…、抱きしめる事が出来る。

「あ…」

驚かさないように、出来るだけそっと。

を包み込んだ。

足の間にその身体を挟み、背中に胸をぴったりと寄せて。

触れられる限りの全てで、を包む。

「ごめん、起こしちゃったかな」

案の定、の身体は冷え切っていた。

擦れた声が、冷えているのは身体だけではないと、伝えてくれる。

「何してんのさ」

俺の声も、擦れた。

緊張していた。

俺に気付かれないように泣くに、どう伝えたら良いのか。

伝える術を、見出せないままに。

とにかくその身体だけでもと、抱きしめる腕に力を込める。

「痛いよカカシ…、どうしたの?怖い夢でも見た?」

どうしたの?は、こっちの台詞だよ。

でも俺は、どうしたの?と聞けない。

聞いたところで、が答えると思えなかったから。

に何があったのか。

その全ては、にしか解らない。

たとえ、言葉で教えて貰えたとしても。

その全てを、俺が理解する事は出来ない。



この距離がもどかしい

人と人は、その心を。

決して、1つには出来ない。

同じ心を、共有する事は出来ないんだ。

「ちょ…ッ、カカシ!?」

の服に手をかける。

気持が焦って、少し乱暴になってしまったけれど。

の上半身を覆う布を、1つ残らず取り去り。

俺もまた、脱ぎ。

肌と肌を重ね合わせる。

服を脱いでも足りない、この皮膚も肉も全て…脱いでしまいたい。

どうにかしてこの距離を埋められないだろうかと、強く強く。

柔らかいの背中に、硬い胸を押し付ける。



どのくらい、そうして居ただろう。

戸惑っていたは、やがて静かにこちらを向いて。

俺の腕の中に、自分から入ってきてくれた。

の心が、やっと。

俺に気付いてくれたように、思えた。

「そんな風に…、独りで泣かないでよ」

「………」

「悲しい時は、俺を呼んでよ。

 ……いや、俺じゃなくてもいいよ。

 がその時、心に描いた人の側で…泣いて」

「………」

「生身の人間が駄目なら、の心に呼び出して。

 この胸には沢山、住んでるはずだよ。を支えてる人たち」

とくん、とくん、と暖かい流れを受け入れ、送り出してる、ここにさ。

指先で触れると。

そこだけは確実に、暖かさを持ってるんだ。

暖めているのは、自身。

支えているのは、以外の全て。

「うん…」

頷いたの声は、震えていた。

一緒に俺の胸が震えることを、許してくれた。








忘れないで。

俺が居るよ。

皆が居るよ。

思い出して。

君が想う人たちは皆、君を想っている。



『相思相愛』



2007.04.09 渋川ゆら


仲良しサイト Children's ABC の渋川ゆらさんより頂きました。

ほろり・・・ときてしまった私。


そうだね。

キミが居る。

みんなが居る。

ありがとう。


  かえで

(当時とてつもなくブルーだった私。救われました。)