聖なる日には雨が降る



勤務時間中、私服と一緒に眠っていたチョコレートは、甘い物を然程好まない彼に渡す為の物。

―― 甘いね。
と不得手な物の少ない彼が、顔をしかめて笑う姿を見たくて、チョコレートにした。

そんな私はイジワルなのだろうか?
だから雨が降ったの?

里中がひっそりと雨に打たれて、遠くの景色が霞んでぼんやりと見える。


私が彼に初めて抱かれたのも雨の日。
だから生憎の雨だけれど、何処かの二つの影が、一つになるのを、手助けしてくれるかもしれない。


彼の姿を思い出すと、声を思い出すと、体が熱を帯びてくる。


早く会いたい。


チョコレートの入った紙袋を下げて、彼の部屋に向かえば、逸る気持ちを現しているように、または遮るように、風が吹いた。
この風に乗れたら、もっと早く彼の元に行けるのだろうか。
でも私には足枷にしかならない。
チョコレートが濡れないように、コートの中に抱いた。





家の前で、抱いたチョコレートが落ちないように、気を付けながら傘を閉じていたら、ドアが開いて。

「・・・カカシさん・・・」
「待ってたよ、入って」

心臓の高鳴りと同時に、更に体温が上がる。

「・・・はい」

彼の腕の中へ吸い込まれるみたいに、部屋へ入った。


私の脱いだコートを彼はハンガーに掛けてくれて。
その間に紙袋の中から、リボンのついた小さな箱を取り出した。

胸の位置で持ったチョコレート。
気が付いていない筈がないのに、振り返った彼は私を包み込んで口付ける。

熱い・・・。

唇から全身に熱が広がった。
手に持った箱の包装紙までもが、私の熱を吸って温かくなって。

唇が離れると、

「コレは、オレに?」

目を細めた彼が箱を指差した。

「チョコレートです・・・。でも溶けちゃったかも・・・。ここに来るまで抱いて来たし、今も・・・」

彼は近くにあったソファーに寄りかかると、床に腰を降ろして、

「じゃ早速開けて確かめてみないとね。おいで」

と私を膝の間へ招く。
言われるがまま、彼に背を向けて腰を降ろした。

「開けてくれる?オレ忙しいから」
「・・・えっ?」

躊躇う私に「ねっ。」と軽く返すと、首筋に唇を落とす。

「・・・んっ・・・」

反射的に体が動けば、耳元に笑い声。

「早く食べさせて」

そう囁いた、彼の唇が耳朶を噛んで、私を抱くその手が、胸の膨らみに触れた。
最初は緩やかに、そして段々と大きくなる手の動き。
服の上からでも、自分の胸が形を変えていく様が分かる。

「こっちは固まってるみたいだけどね」

彼の指が胸の先端を引っ掻くと、齎される快楽に声が上がる。


『我慢しちゃだめだよ』


そう教えられたから・・・。
目を閉じて彼に身を預ければ、「開けてくれるんでしょ?」と言われて。
目に入ってしまう指の動きに、私の指は止まる。
左右から胸を持ち上げて、親指と人差し指が先端を踊らす。

「・・・んっ・・・カカシ・・・さん・・・」
「確かめるんじゃなかったの?」

淫欲に従順するよう教えられた体は、それ以外の事を拒む。

「でも・・・無理・・・で・・・す・・・。んっっ、あぁ・・・」
「そっ。じゃ、オレがしてあげようか?」
「は・・い・・・。きゃあっ!!」

彼の片手がチョコレートを受け取る瞬間に、もう一方の手が先端を強く摘んだ。

「これは硬いね。こっちは?」

チョコレートを持っていたはずの左手がもう一つを摘んで。

「こっちも硬いけど、全部確かめてみないとね」

先端を摘んでいた指先がスカートの中に滑り込んで、布の上から触れた。

「溶けてるみたいだよ?染み出してる。」
「んっ・・・あぁん・・・」

布の上を滑っていた指が隙間から忍び込むと。

「ほ〜ら、やっぱり溶けてる。ドロドロだね。どうしようか?」

指をスライドさせながら、意地悪く聞いた。
欲しければ強請れと教えられたから、私はそれをせがむ。

「もっと・・・もっと溶かして・・・カカシさんと一つにして下さい」
「上出来」

外の雨は何時しか止んで、変わりに彼の部屋に雨音が響いた。




何時の間に開けたのだろうか。
一頻りの余韻が冷めると、彼はチョコレートを取り出して、口に放り込む。

「甘いね」
と、苦笑いを浮かべる彼を見て、私の体は再び雨滴に濡れた。






2007/02/14 かえで