カカシと初めて会話をした時の第一声と、同じ単語を今夜言う事になろうとは。
あの時と今夜は別のニュアンスだけれど。

が濡れた身体を抱えられ、ベットまで運ばれる間思い出したのは、カカシと付き合う前の事だった。






オカシ ノ シロ
  〜 Your and my encounter 〜









木の葉再開発地区。
里の中心部からは離れており、九尾襲撃後、廃墟化していた地域だ。
そこに上質な日常をコンセプトとした、大人の街が出来上がったのは最近の事。
木の葉らしく豊かなグリーンに囲まれたその地域には、レストランやショップが並び、ゆとりある時間が流れる。
その中の一軒に、が店長を務めるインナーショップがあるのだ。
高級サロン如く、オフホワイトの壁紙に落ち着いた色の照明。
薄いベージュ色の空間の中には、国内外のランジェリーが行儀良く並んでいる。
そうここは、女性の為のランジェリーショップ。
着方のアドバイスやコンサルティングなども行っている為、言わずとも男性の入店はご遠慮頂いているのだが。
そこに男性の、しかも忍服姿の怪しい人影が見えたのは、オープンして数か月後の事だった。

店の店員が、窓の外から見ている男が居るとに報告したのが最初。
外に出てみれば、そんな人影はなく、興味本位の輩が覗いていたのだろうと、店内へと戻った。
フィッテングルームは店の奥にあり、窓の外から見ていたとしても、女性が下着を持ち試着室のカーテンを開け出てくるなんて事はない。
生々しくあの女性があの下着をなどと想像出来ないのだ。
それでも、店の特性上、油断するわけにはいかず、は注意を払いながら接客に努めた。

それから数日後。
店や自宅に差し出し人名の無い花束や手紙が届くようになった。
“キミは綺麗だね” ”いつも見てるよ”と、名も顔も知らぬ相手から言われた所で嬉しい筈がない。
寧ろ気持ちの悪さが先に立つ。
時折視線も感じるようになり、不安を抱えたは、飲み友達である不知火ゲンマに相談する事にした。



「ストーカーじゃねぇのか」

頭を過っていた単語が、友人の口からあっけなく出てくる。

「やっぱりそうかしら?」
「そうだろうよ」

実害が有ってからでは遅いが、今はまだ文面も好意的で、表だった護衛などは相手を刺激しかねない。
護衛をするなら密かにした方が得策だ。
俺に任せろと言ったゲンマの指示通り、店を出るのは閉店後1時間以内とだけ決め、は今まで通りの生活を送った。


そうこうしている内、手紙の内容は攻撃的な文面に変わって行く。
ゲンマと飲んでいた事を指摘され、アイツは誰だと問い詰めるような文面だったり、
街を歩く自分の姿を盗撮した写真を送りつけてきては、いつも見ているとしつこく付け加えてあったり。
は様子伺いに来たゲンマの忍鳥に、その事を書いた文を持たせた。




数日後────

「店長、また見てますよ。あの人」

同僚に言われショーウィンドウの奥、店の外へ視線を飛ばせば、今日何度か見かけた男がこちらを向いている。
その男はと目が合うと、殆ど見えない顔でニコリと微笑んだ。

「あの人ですよ!前にも覗いてたのって」

夏休みと有給を抱き合わせた休暇で、長めの旅行に行っていたもう一人の店員が話し出した。

「そうなの?」

受け答えたのは、相手の男を睨みつけるではなく、また見てると言った同僚の方だ。

「そうですよ!あの顔は一度見たら忘れませんって」

好印象で忘れられないというのとは違う物言い。
明らかに不審者へ向けられた言葉だった。

「だって怪しいじゃないですか。覆面ですよ?それにあの辺りからですよね。店に花束が届いたりしたのって」
「そういえば……」

が同僚と目を合わせている間に男の姿は無くなり、そのすぐ後、店に郵便が届いた。
いつもの封筒、いつもの便箋に、機械的な文字が並ぶ。

キミはボクの物
誰にも渡さない
ボク以外の男となんて話してはいけないよ
約束だからね
約束を破ると、こうなるよ

同封されていたの写真が真っ二つに切り裂かれて折、それを見た同僚が小さく悲鳴を上げた。

「もう我慢出来ない。あんな男にウロチョロされたら営業妨害だし、まだそこら辺に居るでしょ。
 直接文句言ってくる!店お願い」
さん!!」
「店長!!駄目ですよ!」

は同僚の制止に聞く耳を貸さず、店外へと出て行く。

ブラックの襟元が広く開いたスモッグドレス。
大きなホワイトのボタンに、袖と裾には同じホワイトのラインが入る。
ふわりと舞う膝上のスカートから、細く綺麗な足が伸び、それは男の元へ行く為にヒールを鳴らしながら動いていた。

男は店からほど近いベンチに腰掛け、18禁のマークが入った如何にも如何わしそうな本を広げている。
の気配に気づき、その首を上げ、また同じ笑顔を向けた。

「変態!!」

その言葉と共に頬を叩かれた男の首が横に流れた。

「いい加減にして!!私は貴方の物じゃないわ!」
「は?」
「惚けないでよ。自分でしている事が分からないの?これ以上可笑しな真似をしたら通報します。消えて下さい」

は男の頬を叩いた手の平を反対の手で包み、胸に押し当てながら踵を返して歩き出した。
カツカツと石畳を鳴らすヒールの音が、男の元から離れ小さくなって行く。
男は叩かれた頬をばつ悪そうに指先で掻き、店の前からは姿を消した。






その日の夜。
店が終わり、自宅へ戻る途中、は背中で知らない男の声を聞く。

。なんで約束破ったの?ボク以外の男と喋っちゃ駄目だって言ってあったでしょ」

脳が今日一日の出来事を早送りで流し出した。
男と話したのは、変態と叫んで叩いたあの男だけ。
という事は、ストーカー男とあの男は別人だったのか。
申し訳ない気持ちが恐怖の中に混ざるが、そんな事をゆっくり考えている余裕はなく、すぐに心の奥へと仕舞われた。

後ろの気配を探りつつ、隙を見て逃げ出そうとするも、中々思うようには行かない。
それならとは背後の男と向き合うべく、くるりと身を返した。

「ボクだけの物になってもらうよ。

何かされる。
もしかしたら殺されるかもしれない。
ジリジリとにじり寄って来る相手に恐怖と絶望がピークを迎え、
反射的に顔を背けて目を閉じた時、
ドスンという鈍い音と男の唸り声が聞こえた。
ゆっくり瞼を開くと昼間頬を叩いた男が、目の前のストーカー男を捩じり上げている。

「大丈夫ですか?」

店の前に居た銀髪の男は、が行った昼間の非礼に怒りを見せる事なく、紳士的な口調で物を言う。

「…………はい」

が弱々しく答えれば、ニコリと笑って優しい目を向ける銀髪の男。
その目がストーカー男に向けられると、厳しさへと変化し、相手を地面に組み敷いた。
男の上に跨り、足で両手を押さえ付け、素人目にも分かる忍術の印を結ぶ。
発動したか否かは分からなかったが、忍の男が身体を離しても、ストーカー男は暴れる事はなかった。
だたその口から、判別の付かない唸り声を上げている。
忍が、ジャンパーを着たストーカー男のポケットに手を突っ込むと、かなり大きめのカッターナイフが出て来た。

「こんな物騒なモン、持ち歩いちゃ駄目デショーよ」

男の目の前で忍は、カチカチとカッターナイフの刃を伸ばした。
それを見て助けて貰わなかったらどんな目に合っていたのか。
考えるまでもなく予想される出来事に、背筋が凍る思いはしたが、それと同時に心から安堵した。

「これで何するつもりだったワケ?こんな綺麗な子相手に、必要無いデショ」

大方想像は付くけどねと付け加えて、忍は男の前にしゃがみ込み、カッターの刃でピタピタと相手の頬を叩いた。

夜の空気が動いて、影が宙を舞う。
しゃがみ込む忍の横に現れたのは、友人のゲンマだった。

「ゲンマ!」

着地してすぐ、同じ忍服の忍とストーカー男に視線を送っていたゲンマは、の呼びかけに答えるべく、顔を向けた。

「よお、。大丈夫か?」
「…う、うん。その方に助けて頂いたから」
「こんな最強のボディーガード、そうそう居ねえぞ」

口角を上げたゲンマは、よいしょと掛声を上げ立ち上がった最強と云う男に、再び視線を送って、またへと戻した。

「わりぃ、まだ紹介してなかったな。こちらはたけカカシさん。里の上忍だ。今回俺が動いてる間、お前の護衛を頼んだ」
「どーも、ご紹介頂きました、はたけカカシです。よろしく」
「あ、あ……あの…昼間はすいませんでした。です。本当にごめんなさい」

慌てふためきつつ、は頭を下げる。

ちゃんの名前はゲンマ君から聞いてるよ」

ゲンマに見えないようにカカシは微笑んで、シ〜と自分の口に人差し指を当てた。

「何かあったんですか?」
と問うゲンマに、カカシは別に〜といつもの調子ではぐらかす。

「で、ゲンマ君、裏は取れたの?」
「えぇ。まぁでも現行犯逮捕でしたね」

二人の会話から察するに、犯人の目星が付いたゲンマは証拠固めに動き、
その間ゲンマはの護衛をカカシに頼んだという事だ。
ゲンマから頼まれたカカシは、犯人の不審な動きに気づき、
抑止力の為に店の周りを警備していたのだとゲンマが話せば、の顔色は余計に悪くなる。
そしてゲンマの口調。
自分や同僚、部下に対してと明らかに違う言葉使いは、カカシの方が階級が上なのだと、無言で語っているのだ。
それを悟り、益々身が縮こまる思いがするだった。

「カカシさん、俺はコイツを警務に引き渡してきます。!」
「は、はい!」

考え事をしていたら、ゲンマ相手にこんな返事。

「明日にでも聴取があるだろうから、予定しとけよ」
「う、うん」

金縛りにでもあったように動けない男を小脇に抱えて、ゲンマは一風と共に消えて行った。

「送っていくよ」

カカシは静かに言って、両手をポケットに入れ歩き出す。

「あ、あの。本当に昼間はとんだ失礼を………頬っぺた、痛かったですよね」

隣に並んで歩くを見れば、項垂れていて肩ががっくりと落ちている。
昼間の勢いは欠片も見えなった。

ちゃんの方が痛かったんじゃないの?」
「え?」
「手の平」

顔を上げたにカカシは微笑みながら、ヒラヒラと手を振った。

「……痛かったです」

頬を叩いた衝撃は、皮膚の痛みもさることながら、骨から伝わる衝撃もかなりの物だった。
自分の腕の骨が、じんじんと響いた事をはっきり覚えている。
カカシにしてみれば、職業は忍者。
攻撃に備え、チャクラを練るなんて事はしていなくても、の攻撃位は何でもないわけで。
もう気にしないでよと、また手の平をポケットに突っ込んだ。

「で、でも。もしイヤじゃなかったら、お酒でも驕らせて下さい。そうじゃないと……」
「気が済まない?」
「はい」
「了〜解」


これがカカシとの出会い。

よく見れば、否よく見なくても、カカシは格好良かった。
一番最初はストーカー、変質者、変態というフィルターが掛かっていて分からなかっただけ。
何度か酒を飲み、人柄にも魅かれ、はカカシの申し出に二つ返事で答えた。

「オレと付き合って?」
「はい」


数か月後、判決が下り、その時の思い出話に花が咲いた。
ほろ酔いのカカシは、当時あんなにも痛くないと言っていた頬を、今更になって痛がってみたり。
よくよく話を聞けば、ゲンマからの依頼を受ける前から、に惚れていたと言う。
街を歩くに一目惚れをして、後を着ければ、彼女は一軒の店へ入って行った。
女性専用の下着屋だとすぐは分からず、店の中を見ていれば、行き交う人々が自分を不審な目で見ている。
ショーウィンドに飾られていたのは、下着ではなかったからだ。
その場は離れ、後日改めてと思った矢先に、任務へ出る事となる。
里に戻ってくれば、ゲンマから例の依頼。
任務明け、休暇返上など、なんのその。
意気揚々と、カカシはの護衛に付いた。
きっとゲンマは自分がに惚れている事を分かっていたのだろうと、カカシは思う。
でなければ、礼の一つで片付けやしないだろう。
しかも意味深な笑みを見せながら。



それから幾つかの季節を通り過ぎ、出会った時には既に過ぎていたカカシの誕生日を始めて祝えた今日。

「……んっ……はぁ……んっ…カカシの…変態」
「そんなの出会った時に分かってたんじゃないの?」

素肌にリボンを巻かれ、身体に塗られる白。
溢れ、迸り、零れる白。

カカシの城で カカシに冒される の素肌は 
お菓子のように甘くて白い。






  オカシ ノ シロ 2 〜 Your body to be sweet 〜 へ続く
  (別館にてアップ)

2008/10/03 かえで


キリの良い数字を踏まれたのと、イラストのお礼と、日頃の感謝を込めまして、リクエストを発動させて頂きました。
今回頂きましたのは、下着屋さんで働くヒロインにカカシが惚れる。
お店の中を覗くカカシをヒロインは変態としか思っていなく、ストーカー紛いのカカシの事をゲンマに相談する、と云った感じのもの。
もう、ダメなんです。
変態!!それ一つに触手がうにうに反応してしまって;;
リクエストを回想シーンに使う事と、変態カカシに許可をもらいましたので、このお話のメインは次回という感じでしょうか。すいません;;

はたけ。さんへ
そしてカカシスキーの皆様へ捧げます。