LIFE 5
〜 夜明けの太陽 2 〜
産声が聞こえてから一時。
感激に浸る父と娘を現実に戻すサクラの声。
これでもかなり間を開けたのは、サクラの心遣い。
「カカシ先生!!遥菜ちゃんも!!」
ピンクの髪を揺らして、こっちこっちと手招きする。
「遥菜ちゃんはこれで消毒してね」
サクラが差したのは速乾性の手指消毒薬。
ボトルをプッシュし液体を塗りこめば、すぐ乾くという消毒薬だ。
「先生、早く手を洗って、消毒して下さい!!ちゃんと綺麗に洗って下さいよ」
はたけカカシ、これでも二児の父。教え子に諭される。
任務明けの姿そのままで来たのだから、無理もないけれど。
「遥菜ちゃんこれ着てね。カカシ先生も終わったら着て下さい」
差し出された滅菌済のガウンを着るチビとノッポ。
遥菜には大きく、カカシにはつんつるてんのガウン。
一種類しかないのか、色は薄いピンクで。
ここは産科、全体的に淡く温かい色調だけれど。
ピンクなカカシに、サクラの目が一瞬止まって、何もなかったように廊下を見まわす。
そりゃあサクラが、一番似合っているけれど、
目を泳がせなくたっていいじゃないかと、カカシはガウンの裾に目を落とした。
だけどそんなサクラも、今度はカカシをちゃんと見上げて、一礼までして。
「おめでとうございます。もうすぐ師匠が連れてきますよ」
「ありがと」
そうこうしている内、白に包まれた赤ん坊を抱いた綱手が、違う扉から現れた。
大仕事を終えたを垣間見る事は出来ないらしい。
「産まれたぞ。元気な男の子だ」
かわいい、かわいいと、遥菜とサクラが騒いで。
「ちっちゃ〜い」
「遥菜もこんなだったんだよ」
父の言葉が嬉しくて、遥菜はおどけて見せる。
「覚えてないよ〜」と笑いながら。
「さわっても平気?」
遥菜が綱手に話しかけ、それにコクリと返事をすれば、遥菜の指がそっと赤ん坊の頬を撫でて。
ひとしきり女性陣に囲まれた後、赤子に落としていた視線を綱手はカカシに伸ばした。
「お前の息子だ」
抱いてみるかい?と綱手の目が語っている。
それに無言で返事をしたカカシが腕を潜り込ませて、息子を胸に抱いた。
「その頭は歴代続くのかねぇ」
綱手がポツリと呟いて、お包みから覗かせた息子の頭は。
まだ父の様に髪が立っていないけれど、おんなじ銀色。
「名前はこれからかい?」
「いえ……もう決まってます。……ミノル、はたけミノルです」
あれからしばらくして、一人カカシが待っていると、分娩室の扉が開いた。
産まれて数時間は、新生児室で経過を見るのが常らしく、
息子は意気揚々とした綱手に連れて行かれたまま。
「歩いて平気なの?」
「うん。なんとか」
よろよろと出て来たをカカシは支えて。
まだ色んな所が痛いけれど大丈夫。
「遥菜はサクラの家からアカデミーに行くって。午後にはおばあちゃん連れて、すっ飛んでくるってさ」
「わかった。サクラちゃんが良くしてくれて助かってるよ」
ゆっくりと、ゆっくりと歩いて、個室に戻れば、窓の外は綺麗な朝焼けだった。
「綺麗な空……」
「ああ」
一生忘れる事はないだろう。
妻の肩を抱いて見た、この日の空を。
息子の産まれた日の事を。
「……おつかれさま」
の頬に軽くキスをして、カカシはもう一度、夜明けの太陽を目に焼き付けた。
赤ちゃん─────
自然分娩で産まれた子供は、肌が赤いから赤ちゃんと呼ばれるらしいけれど。
もう一つの意味も、持ち合わせているという。
それは夜明けの太陽。
闇を赤く染める希望の光。
朝焼けの空を見渡していると、親しい者たちの姿が浮かんだ。
共に戦ってきた仲間や恩師。
───────オレは今、幸せだよ
そう報告をして。
守りたいもの、守るべきもの。
それは妻と子供と、この里と。
これからも全力で守り続けると、空に浮かんだ姿に誓って。
死と常に隣り合わせの、忍という世界に身を置いて、それは生への執着になるけれど。
潔くないし、格好良くもない。
命の尊さ、大切さ、その重みを知ったと言っている奴が、武器を手にする矛盾を
人は笑うかもしれない。
でも守りたい、守り続けたいから、……みんなの笑顔を。
大切な人の大切な人達。
自分がを子供を、仲間を想うのと同じで、 相手のその中には己もいるわけで。
だから、強く。 そして、生きる─────。
「ありがとう……」
見上げたに、カカシはそっと口付けて。
その時浮かべたの涙は────
ものすごく綺麗だった。
Congratulations!
2008/11/14 かえで
BGM ふたりのプロローグ