常に隠した左目。

―― 写輪眼

術者の意思に反して暴走するような瞳ではないけれど。
剥き出しにしていれば、何かと話の種を撒く。

戦闘中は心強い友の形見も、日常ではそう、話の種。
そこから芽が出て、花が咲いて、新たな種を撒く。


だから額宛てを斜めに巻いた。


強すぎる力は、その瞳が持つ基本的な力を奪い取る。
そうでなくても、闇から光へと急激に変わるそれに、瞬時に対応しなければならない。
一瞬の怯みが最悪の事態を招く事だってあるから。





   LIFE 2
〜 やわらかな闇 〜




夜明け前、愛する家族の元へ帰った。

二人のベットに一人で眠る愛しい妻の頬に口付けて。

子供部屋に移動すれば、娘の姿に目尻が下がる。


―― どうしてお前は、いつもそうなんだろうね・・・。


布団は抱き枕じゃないんだよ?と声には出さずに語りかけて、掛け直してやる。
暫くすれば、元の状態に戻ってしまいそうだけれど。
それは今までの経験から容易に想像出来る事。
下がった目尻はそのままに、規則正しい寝息に心が安らいで。
寒さで風邪を引くような季節ではないし、心配する事もないかと心で笑って、
カカシは静かに扉を閉めた。


薄汚れた忍服を脱ぎ、次の行動を少し考える。
シャワーを浴びるか?
それともこのまま寝てしまおうか?
自分の問いかけに出た答えは、簡単にシャワーを浴びる方。
身体に染みついた火薬の匂いが、戦闘時を思い出させる。
これでは休まるものも休まらない。



お湯を浴びると、心臓の音が痛みを伴って頭に響いた。
そこが血液を送り出す度に、頭の中で大きな鐘の音が鳴る。

瞳の奥がズキズキと痛んで。

戦闘時には感じないそれも、緊張状態から脱すれば顔を出して来る。

これでもマシになった方だと。
以前はこれ位の事で倒れてた。
今では最大限の力を酷使しない限り、倒れる事は無い。


シャワーを浴び終えたカカシは、を起こさないようにそっとベットに潜り込む。
髪の柔らかさを楽しみ、唇に触れるだけのキスを落として。

胸に抱いて眠りたい所だけれど。

穏やかな寝顔を眺めるのも良い。

瞼を閉じて、また開いて、を映す。
彼女が瞳に映る事で癒される、そんな気がする。
何度かそれを繰り返して、カカシは浅い眠りに落ちた。






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―― おかえり・・・カカシ・・・。


感じたカカシの気配に目が覚めた。
忍のように敏感に感じるわけではないけれど。

眠りに就いた時は空っぽだった隣が埋まってる。
こうして目が覚めた時、カカシが居る事へ懐く様々な気持ち。
寝顔を見れば一瞬で緊張が解れて、自然と力が抜けた。


―― 今日は使ったんだ・・・。
    大変だったね・・・。


言わなくても分かるそれ。
目頭に指を置いて、眠っているから。

里が起き出すには、まだ早い時間。
でも夏の太陽は一番早く姿を現す。

少し開けた窓から、ふわりと風が入り込んで、カーテンを揺らした。
そこから入り込む朝日。

カカシの瞼に少し力が籠った。


―― 大丈夫?



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横になって、の気配を感じて、少し治まって来た鐘の音。

意識が落ちて、また戻るけれど、閉じた瞼はそのままに。

眼頭を圧迫すると痛みが和らぐから、自然と自分の手はそこに置かれてた。
それでもチカチカと、瞼の裏に映る残像が邪魔をして。
若干の眩しさも今は苦痛。

いつもこうだった。

体内時計を調節する為や、急な呼び出しへの迅速な対応。
その為に全てを遮る暗幕は使用しない。


入り込んだ風に、揺れる布の音。
鈍い痛みが瞳の奥に走った。
肉体は休みたいと電源を落としてる。
遮る物を取りに行くのも、かったるい・・・。

その瞬間に、少しづつ近づいて来たの匂い。
瞼に置かれた自分の手がずらされて。
同時に感じた温かく柔らかい闇。
痛みがストンと落ちた。


―― 


こめかみに感じる柔らかな腕の感触。
その重みが心地良く。
髪の隙間に入り込んで撫でる指先が、止まった血液の流れを動かすようで。
痛みに強張っていた身体が解されて行く。


髪に落とされた唇に、カカシは大きく息を吸って、ゆっくり吐き出すと、深い眠りについた。




―― おやすみ・・・カカシ。






BGM 優羽華