―― いつからだろう。
―― いつからかね。
―― 好きになったのは。
境界線
【ヒロインSide】
ゆっくりと。
ほんとうに、ゆっくり。
きっかけとか、理由とか、聞きたいですか?
劇的な出会いとか感動的な再会、そんな物はなくて、少しづつカカシを好きになった。
最初はみんなと同じ感情で。
カカシは大切な仲間で、良い友達。
人生色々でみんなと過ごす、穏やかな時間が大好き。
ガイはカカシに何かと持ちかけて。
カカシは受け流しながらも、頃合を見計らって、それに応じて。
待ってました、と喰い付くガイが嬉しそうで。
私も何だか楽しくて。
紅は前からの友達だし、アスマは頼りになる兄貴って感じかな。
この美女と野獣の雰囲気も好き。
お互いを尊重しあって。
だから、誰かいないと寂しい。
あ、今日は紅がいないや・・・
あ、今日はアスマだ。
う〜二人一緒の休みは尚寂しいぞ、なんて思っちゃったり。
でも仲良くやってよねって思ったり。
カカシはSランクなのかな?
ガイが居ないと静かだな。
それは誰が欠けてても、同じ想いで。
でもね・・・
最初はみんなと同じだったんだけど、
何時しかこの場所に、カカシが居ない事の寂しさが、少しづつ大きくなって。
私が先に居る事が多いけど、それでも扉を開けると探しちゃう。
今日はカカシ来るかな・・・って待ってる自分が居る。
何時から私は、カカシを叩けるようになったんだろう・・・。
何時からカカシは、私の頭を撫でるようになったんだろう・・・。
何時からお互いの隣に、座り合うようになったんだろうね。
そして、何時から好きになったんだろう・・・。
明確な心の境界線はないんだけど、この気持ち伝えてもいい?
『何時から俺の事が好きなの?』
『俺のどんな所が好きなの?』
なんて聞かないでよ。
カカシと初めて会った時から、好きなのかもしれない。
ただ、ゆっくり育って行っただけで。
どんな所?
それはね・・・分かんない。
カカシの全部が好きだから。
『俺の事、全部分かってるの?』
って笑われそうだね。
まだ全部は知らない。
でも、今、知ってるカカシはみんな好き。
笑いかけてくれる優しい目も、私の頭を撫でる大きな手も、仲間を大切に思う所も。
任務をキチンとこなす所も、的確にアドバイスくれる所も。
冷静な判断と、分析能力には惚れ惚れするしね。
勿論、強い所も。
そして、弱い部分も。
新しい一面が見れたら、もっと好きになると思う。
あとはね、やっぱりカカシが居ないと寂しいの。
カカシの気配・・・もう、それが好き。
なんでカカシが、あの子達の前では、遅刻するのか知ってるよ。
遅刻してるんじゃないんだよね。
ちゃ〜んと来てる。
見て観察してるんだよね。
人が悪いと言えばそうだろうけど。
最初は性格を見極める為だったのかな。
待たせて、イライラさせて。
それでもすぐ気持ちを切り替えて、冷静に任務をこなせるか、試してたの?
その後はなんだろ?
修行の一環?
忍耐力でも養わせるつもりだったの?
その証拠に、時と場合によって違うしね。
でもあんまりしてると、本当に遅刻魔だと思われちゃうよ。
私の隣に座って、ガイの話に適当に相槌を打つ、カカシを見上げてみた。
丁度、話も終わったみたい。
あ・・・ガイごめん・・・。
ガイの修行の成果、聞いてなかった・・・。
また聞かせてね。
あと二回なら聞くから。
「な〜に?」ってカカシは目を細めて笑いながら、ソファーの背もたれに寄りかかって腕をかける。
うっ・・・カカシの顔が見えなくなっちゃった・・・。
でもその方が言いやすいか。
「あのね・・・カカシ・・・」
「ん〜?」
「話したい事があるから・・・」
「今晩、空いてる?俺もあるんだよね。俺の後でもい〜い?」
「えッあ・・・うん。・・・怖い話じゃないよね?」
首を後ろに捻って、カカシを覗いてみる。
私が背もたれに体を預けたら、カカシの腕の中に入っちゃうよ。
そうなる日が来ればいいなって浸ってたら、
「どうだろうね〜」
って意地悪そうに笑って言うから、カカシの太腿を叩いた。
「焦らさないでよ」
「オマエだって同じでしょーよ」
「あ・・・そっか・・・。」
「じゃ、待機が終わったらね」
カカシは立ち上がりながら、私の耳元で囁いた。
そして、出口に向かって一歩踏み出す。
「ガイ、行くぞ」
「お!やっと俺様の修行の成果、試してみたくなったか」
ガイは嬉しそうに立ち上がって、カカシに歩み寄る。
「ま、そんなとこ」
「今日は何にするか?」
「何でもい〜よ、決めて頂戴。」
「ではまず、顔岩の上まで競争だ!」
「何本やる気よ・・・」
「ん?カカシがやる気になるなんて、滅多に無い事だからな。今日はとことん勝負だ!」
「はい、はい。夕方には解放してよね。」
並んで歩く二人の背中を見てると、ガイが振り返って。
「とりあえず、顔岩に居るからな」
ビシッとポーズを決めて笑顔で言った。
相当嬉しいみたい。
残る私達も笑顔で手を振った。
さて、カカシの話は何なんだろう?
もしかして、私と同じ事?なんて期待しちゃったり。
だったら、いいな・・・。
今、時計の針は、午後二時。
待機が終わるまで、あと数時間。
小さな期待を胸に秘めて、二人が戻って来るのを待とう。
神様、火影様、今日は任務を入れないで・・・。
私の為にも・・・。
カカシの良きライバルの為にもね。
2006/12/29 かえで