注)カカシが恋愛対象ではありません。お友達。それでもよろしければどうぞ。







戦闘服はスーツ。
武器は資格。

身体を鍛えて、新しい術を会得する。
勉強をして、資格を取得する。

それは自身のスキルアップ。

OLも忍も大して変わらない。


笑って許される年齢はとうに過ぎた。
肩を叩かれるなんて、真っ平ごめん。

仕事も、恋愛も、自分の手で掴み取る。
それが私の流儀───。





光風霽月
Take another's place  spin-off 






「お疲れ様です。」

残業が終わって、警備室に差し入れを持って入って行った。

そこには大柄の男が一人だけ。
自分の親しい忍の姿はなかったけれど、面識の無い相手ではない。
夜間警備に就いている忍の顔と名前はインプットされているし、前回一度会ってる。

「お疲れ様。」
「カカシさんは?」
「外警に出てる。」
「そうですか。これ、良かったら休憩の時にでも。」

は差し入れの入った袋をテーブルの上に置いた。

「すまん。」
「いえいえ。」
「まだ仕事終わらないのか?」
「今、終わりました。」
「そうか。随分とこき使う会社なんだな。」

イビキは時計を見上げて、もう夜中だぞと付け加えた。

「仕事ですから。でも楽しいですよ。」
「こんなに遅くなってもか?」

腕を組み、椅子に腰掛けたままイビキはを見据えた。

正面玄関は一定時間になると閉まり、残業などで帰宅の遅くなった者達は、警備室前を通り裏口から外に出る。
その時聞こえたOL達の言葉は、大体が仕事に対する不満。

「ええ。勿論早く帰る事が出来れば、買い物にも行けるし、ゆっくりお風呂にも入れますから、嬉しいですけどね。でも今は仕事が楽しいし、どんな小さな仕事も一つ一つが自分のスキルアップに繋がると思えば、苦にはなりません。」
・・・さん。」

イビキの自分への呼びかけが、妙に可笑しくて、くすぐったくて、思わず笑いが漏れた。

「イビキさん・・・。“さん付け”はやめて下さい。でいいです。イビキさんにそう呼ばれると、何だか・・・。」
「俺には似合わないって事か?」
「はっきり言えば。そう思いませんか?」
「まぁな。」

少し照れた様に彼が笑う。

「イビキさんの笑った顔って、素敵ですね。」
・・・オマエ、人をからかうな。」

口調は荒っぽいけれど、怒っている風でもなくて。
その顔が恥ずかしそうに笑ってて、この大柄な男が可愛く感じた。

「からかってなんかいないですよ。もし今度の面接にイビキさんみたいな面接官が居たら、どうしようって思いますもの。」
「面接?」
「これです。」

バックの中から一冊の本を取り出して、イビキに向けた。

「秘書検定?」
「はい。筆記試験はパスしました。残るは面接で、これが問題なんです。練習するって言っても相手が中々。」
「俺ならどうだ?」
「イビキさん?」
「俺が得意なのは、尋問だがな。」
「え、あっ・・・お願いします!」
「たっぷりシゴいてやる。」

それからイビキの疑似面接が始まった。



─── あーあ・・・完全に二人の世界じゃないの・・・。
    オレはお邪魔虫ってわけ?
    

そして、再び外警と内警に出るはめになった覆面忍者が、一人心の中で愚痴を零すが・・・。
その足取りは軽かった。










イビキと、二人の距離が縮まるには然程の時間はかからなく。

の芯の強さにイビキは惹かれ、
優しさと強さ、そして彼の持つ影には惹かれた。



好きになれば、その相手を守りたいと思うのは至極当然。
この命ある限り、彼女を愛すると誓える。
けれど、己の傍に寄り添う事で愛する者が傷つくのだとしたら。
己の身を切り刻まれた方が遥かにマシだと男は思う。


そして一つの決断を口にした。

「通常の任務へ戻る。もう此処へも来る事はない。俺の事は忘れろ。」と。

愛すれば愛する程報われない・・・

でもこれが俺の愛し方だと、そう悲しく心で笑って。




翌日───


エレベーターを降りてからは非常階段。
警備が管理しているある場所の鍵。
それのスペアを持って、は階段を駆け上がった。


重たい扉をゆっくりと開けば、降り注ぐ太陽の光と青い空。
向けた視線の先には、オレンジとシルバーが天を仰いでいた。

は横たわるそれに近づいて。

こんな彼を見るのも、明日で最後。
屋上の手すりに頬杖を付き、遠くを見つめながら、話しかける。

「ねぇ、カカシ君。」
「ん?」

カカシは身動き一つせず、顔と愛読書の隙間から相槌だけが漏れた。

「イビキと連絡取ってくれる?」
「・・・・・・。」
「全部知ってるんでしょ?というより、彼の事だからこうなる事を見越して、先手を打ってるんでしょうけど。」
「よく分かってるじゃないの。」

カカシは物音を立てず起き上がり、手摺りに背中を預け、縁に両肘を置いた。

「なんで忘れなきゃいけないのか、本当の理由が知りたいの・・・。」
「本当の理由ねぇ・・・。」

そう呟き、カカシは空を見上げる。
は前を向いたまま。

「そう、真実。女が出来たとか、好きじゃないとか、そんな見え透いた嘘はいらないから。回り道なんていらない。本当の事を教えてよ。」

カカシは天に向って溜息を一つ吐く。

「イビキもね〜・・・、ちゃんの事、鍛え過ぎでしょーよ。ま、騙せとは依頼されてないけどね、オレ。」

視線を前方に戻しカカシは腕を組むと、に問いかけた。

「イビキが何処の部隊に所属してるかは聞いてる?」
「尋問部隊。」
「だけどその前に拷問が付く。」
「拷問・・・・・・。」
「そ、拷問・尋問部隊の隊長だよ。」

は肘を乗せていた手すりを握りしめた。

「君なら全部言わなくても分かる筈だ。」
「・・・・・・・・・分った。」
「そう・・・。」

カカシは悲しそうに目を伏せて、でも次に発したの言葉にその瞳は見開き、彼女を見つめた。

「だから?」
「・・・・・・。」
「だから何?」
「矛先が自分に向くとは限らないんだよ。そういう輩は特にね。」
「私が逆恨みの対象になるって言いたいんでしょう?」
「そーいう事。」
「そんなの理由になってない。」
「言いたい事は分かる。でもそれがイビキの愛し方なんだから、しょうがないでしょーよ。」
「どうなるかなんて、誰にも分からないじゃない。」
「リスクは高いよ。死んだ方がマシだって思う事が起こるかもしれない。」
「起こる可能性があるっていうだけでしょ。」

横を向きカカシに言葉を投げれば、今日初めてまともに視線が絡んだ。

ちゃん。」
「私はイヤ。そんな理由では諦めない。」
「・・・・・・。」
「その時になったら考えれば・・・」
「そうなってからじゃ遅いんだよ。」

カカシは視線を外して、目を伏せた。

「カカシ君もイビキと同じなの?そう思うの?」
「オレは言葉を伝えただけ。」
「・・・こと・・・ば・・?」
「そっ。」

伝えただけ。
イビキの言葉を。

自分の考えはイビキの言葉と同じとは限らないと。
そして、イビキの真意もと、覗きこむように前屈みになったカカシの右目が語っていた。

「お願い、イビキに会わせて。」
「そんなにアイツが好き?」
「うん。」
「イビキも幸せ者だね〜。だったら応援するよ。・・・まったく、オレ達が居る事、忘れちゃ困るよねぇ。」
「・・・カカシ君?」
「木の葉忍軍団を少しは頼れって事。その為に仲間が居るんでしょーよ。」
「・・・・・・・・会わせてくれるの?」
「勿論。その代わり依頼料は高いよ?」
「わかってる。成功報酬なら惜しまず出すわよ。」
「いや・・・それは軽〜く冗談なんだけどね。サラッと流してくれて良かったんだけど。」

照れたように人差し指を額宛てに当てたカカシを見て、から笑みが零れた。

「はい、これ。」
「なに?」

はカカシの差し出した袋を受け取った。

「サスケが買って来たおにぎり。どうせ昨日からロクに食べてないんでしょ?イビキと付き合うには体力がいる。」
「ねぇ・・・イチャパラ持ち歩いてる人が言うと、随分官能的に聞こえるのは、私の頭の所為?」
「ま、お互い大人って事で。」
「了解しました。」

二人は笑い合った後、遠くを見つめて。
の視線が袋へと戻った。

「これって、カカシ君のお昼じゃないの?」
「それ全部食べる気?」
「体力付けないと・・・っていうのは冗談で、随分食べるのね。」
「育ち盛りだからね。」
「買って来たサスケ君がでしょ。」
「ま、そうとも言う。」




誰も傷つく姿など見たくはない。


でも大切にする方法を間違えれば、別の傷が出来る。





次の日、はカカシに案内され、イビキの部屋を訪れた。

事の顛末を見届けたカカシを二人は見送って。

がイビキの部屋を出たのは、次の日の夜。
その事が誤解を招く事になるのだけれど。

それは別のお話。


Never trouble trouble till trouble troubles you.
Take another's place spin-off [kouhuuseigetu] ...END


2007/10/05  かえで


BGM「たったひとつの伝えたい言葉」