はたけカカシ Happy Birthday 2006
高く澄んだ青空と、透明感を増した初秋の空気。
時折、去りきれない夏が名残惜しそうに姿を見せるけれど、真夏の勢いはなくて、
朝晩はひんやりとした風がそよぐ。
今日は九月十四日。
カカシの誕生日、前日。
は今日から三日間の休暇のはずだったが、綱手からの呼び出しを受けた。
「休みの所悪いねぇ、他の仕事を後回しにして特上総動員でやっているんだが、間に合いそうもないんでね。
悪いが、手伝ってやってくれるか?」
夕刻が期限の暗号解読。
この里の長が珍しく申し訳なさそうに頼む姿を見て、断る術も、理由も無い。
自分が上忍になる前の特上だった頃、何度かこんな事があった。
は快く引き受け、特別上忍の執務室が集まる塔へと急いだ。
各々の個室では無く、会議室に集まり解読を進めていると聞いたは、
会議室の扉をノックすると略同時にその扉を開けた。
「こんにちは!」
笑顔で挨拶をすると、アンコが一目散に駆け寄って来る。
「やりぃ!助っ人登場!〜助かるよ〜見てあの山!」
「結構あるね。」
「でしょ。折角の休暇だったのに、悪いね〜。」
「大丈夫だよ。」
歩き出すアンコにつられ足を進めたは、アンコの隣の席に腰掛けた。
「カカシはまだ任務から戻ってないの?本当は今日、待機のはずなんでしょ。」
「うん、でも、部屋を出る時パックンが来てね。夜には戻るって教えてくれた。」
「相変わらず仲良いね〜アンタ達。」
「あはは・・・もう、お喋りしてたら、進まないよ!」
「はいよ〜。」
それから数時間後、最後は授業の終了した教師達をも巻き込んで、大量の暗号解読は漸く終わった。
沈みかけた陽が、木の葉の里を茜色に染めるのを眺めながら、街を歩く。
商店街で買い物をした帰り道、ふと空を見上げると、夕焼けが夜空に押されて小望月 が顔を出していた。
小望月とは満月前夜の月で、待宵の月とも呼ばれる。
翌日の満月を楽しみに待つ、という意味で。
また幾望とも言われ、満月の前夜、機は近いという意味も合わせ持つ。
お月様も楽しみに待っているのかな?
明日という日を。
私と同じだね。
カカシを連想させる月に話し掛け、は二人の暮らす部屋へと急いだ。
明日の夜は愉快な仲間達と飲み屋を貸し切って宴会予定。
だから今夜はカカシの好きな料理を作って部屋で待つ事にした。
当初の予定では、カカシの誕生日に海を見に行く予定だったけれど、
やっぱり里に居て良かったとは思う。
初めて迎える二人きりの誕生日。
その瞬間を、この部屋で過ごすのも悪くない。
自分が越して来た、最初の年だしね。
今や完全に自分の帰る場所となった部屋を見渡したは、買って来た食材を一旦冷蔵庫に詰めた。
今日の献立は誕生日にしては地味だけれど、やっぱり秋刀魚。
旬でもあるし、カカシの大好物でもある。
あとはカカシの好きなの煮物と最近流行のちょっと高い豆腐。
そしてカカシの好きな茄子の味噌汁・・・は明日の朝にして、秋の味覚の王者、松茸の土瓶蒸し。
これでは少し色合いが寂しいので、小鉢関係を色々と並べて華やかに。
まず先にお米を砥いで、タイマーをセットした。
以前、炊飯のスイッチを入れ忘れて、カカシに笑われた事がある。
『案外ドジなところも可愛いんだよね〜』とカカシは笑っていたけれど、今日はそんなミス出来ない。
時間をちゃんと確認して、料理に取り掛かった。
煮込んだ材料達が鍋の中で旨みを吸収し始めた頃、カカシが部屋に戻って来た。
「ただいま〜。」
「おかえり、カカシ。」
月の国での任務の際、カカシはチャクラ切れを起こし、里への帰還が二週間伸びた。
そんな事もあって、里に帰ってからは、立て続けの任務。
同じ部屋に住んでいるのに、顔をまともに合わす事の無い時間が続いた。
なのにも関わらず・・・
感動的な出迎えを期待していたカカシの予想は儚くも崩れ、は台所から玄関に向かってくる様子がない。
軽く肩を落として部屋に入ると、愛する彼女は料理に夢中。
「ご飯作ってくれてるの?」
「うん。それとも、素敵なレストランでお食事とかの方が良かったかな。」
「そんなわけないでしょ。の作ってくれるご飯が一番美味しいんだから。」
どんな高級食材をふんだんに使った料理より、愛情を込めて俺の為に作ってくれる手料理が一番美味しい。
元々、は料理上手だけどね。
「ありがと〜。カカシお腹空いた?」
「まあね〜。胃袋もだけど、に飢えてる。」
カカシの言葉の意味を素直に理解したの顔から火が上がる。
でもその最後の言葉はスルーして、
「ごめんね、もうちょっと待ってて。」
と再び台所に向かって包丁を握る。
そんなを見て思わず抱き締めたくなるカカシだが、
驚かせてもし魚を捌く手元でも狂ったら大変だと、じっと堪えた。
「パックン来たでしょ?」
カカシはリュックを肩から降ろし、ベストを脱ぐ。
そして段々と多くなっていく、普段隠されたカカシの素肌。
「うん、来たよ。丁度出かける前に会えて良かったよ。急に綱手様のお呼びが掛かってね。」
「任務だったの?」
「急ぎの暗号解読だったんだ。でも楽しかったよ。皆でやったから。
甘栗甘の秋の新作も食べれたしね〜。」
楽しそうに話す、カカシの知らないの一日。
穏やかな情景が目に浮かぶ。
「じゃ、忙しかったでしょ。」
「う〜ん、平気。」
「何か手伝う事な〜い?」
そう言って歩み寄って来るカカシに、
「いいの、いいの。今日はお誕生日の前祝いなんだから。」
と後ろからカカシの肩に手を乗せ、ソファーに誘導する。
「座ってて。」
カカシをソファーに座らすと、は又忙しそうに台所に戻って行った。
秋刀魚の皮はパリパリに焼けているかな?
煮物の味は染みただろうか?
味付けはこれでいいかな〜?
そんな心の声が聞こえてきそうなの後ろ姿。
そろそろ料理も出来上がってきたのだろう。
色々なお皿を持って、右に左にころころと動き回る。
その姿を見ると、自然と笑みが零れた。
テーブルに料理を並べ出したはカカシの暖かい視線に気づき、顔を上げる。
「な〜に?」
「ん、しあわせだな〜と思ってね。」
照れくさそうに笑ったは、次の料理を運ぶ為に又カカシに背を向けた。
―― から、おかえりのキスはまだだけど、今はその姿で大人しく我慢してるよ。
心の中でそう呟くとカカシは立ち上がり、の隣に歩いて行った。
「これ運ぶの?」
流しに並んだ料理をひょいっと持って、が頷けば、にっこり笑ってテーブルに並べる。
殆どの料理を並び終え、あとはご飯をよそうだけ。
あ・・・ご飯混ぜるの忘れちゃった・・・。
バタバタしてたら、すっかり。
・・・でも大丈夫か。
大きさの違う二つのお茶碗。
色は違えど、柄は一緒で。
二人で選んだ夫婦茶碗と杓文字を持って、は炊飯器に近づいた。
ん?
ご飯をよそう時にはいつも付いてる赤いランプ。
それは毎回気にしているわけではなくて、それをする時には、当たり前の光景で。
でも、点灯している色が今は違う。
恐る、恐る蓋を開けると、真っ白になったお米が水に沈んでいた。
「うそー!!ごめーん・・・カカシ。」
「なあに?どうしたの?」
冷蔵庫から、お茶を取り出したカカシはゆっくりと振り返った。
「ご飯・・・炊けてない・・・。
何でかな・・・。今日は忘れないようにちゃんとタイマーもセットしたんだよ。」
先程の幸せそうに料理をするの顔は何処へやら・・・。
今にも泣き出しそうな顔で、デジタル表記を眺めている。
「あ・・・七時になってる・・・。十九時じゃなくて・・・。」
が慌てて炊飯のスイッチを入れると、機械の動き出す音が低く響いた。
何で・・・って自分が失敗したんだけど、どうして今日なのよ・・・。
折角綺麗に焼けたのに、秋刀魚が冷めちゃう。
「カカシ・・・ごめんね。」
すっかり項垂れて元気の無くなったをカカシは包み込むと、
流しの淵まで抱き上げそこに腰を落とさせる。
俯くの頬を包み込んで、カカシはコツンと額を合わせた。
「そんなに落ち込まなくてもいいでしょーよ。」
「だって・・・秋刀魚が冷めちゃうよ。」
「冷めても美味しいから大丈夫。」
「ごめんね・・・カカシお腹空いてるのに。」
「もう、言わないの。俺、に飢えてるって言わなかったっけ?
が俺の為に何かをしてくれる姿で、お腹がいっぱいになった筈だけど、やっぱり足りないみたいでね。
そんなに言うなら、キスしてくれる?おかえりのキスがまだでしょーよ。」
「・・そうだったね・・・おかえりカカシ。」
「ただいま、。」
は軽く微笑んでから、瞳を閉じてそっとカカシに口付ける。
唇が触れ合うだけのキスで離れようとするを、カカシは抱き締めて、深く口付けた。
重なり合っていた唇が首筋へ、抱き締めていた右手が胸に伸びる。
「だめ、ご飯が先。」
カカシを引き離したは淵から音を立てずに飛び降りた。
すっかりいつものに戻って。
「なんで〜。」
「なんでも。ご飯が炊ける前にお風呂に入って来たら?」
「じゃ、一緒に入ろう。」
「それもだ〜め。」
「なんでよ・・・」
「なんでって・・・」
きっと一緒になんか入ったら、それだけでは済まなくなる。
情熱的に求め合うのもいいけれど、やっぱり今日は・・・。
「ゆっくりしたいから。」
「へぇ〜それってどっちの意味?俺の都合の良い解釈でいいのかねぇ。」
カカシの悪戯に笑う顔を見て、はくるりと背を向る。
「多分、そうだよ。」
耳まで真っ赤にしながら、脱衣所の扉を開けた。
「やっぱり先に入るね。」
「ごゆっくりどうぞ。」
「覗かないでね。」
「ま、努力はするよ。だって『ゆっくりしたい!』んでしょ。ちゃん。」
「そこを・・・強調しないでよ・・意地悪。」
「本当にゆっくりしておいで。ありがとう、。」
「うん。」
はカカシの胸に飛び込みたくなる衝動を押さえ、脱衣所の中に入ると、静かに扉を閉めた。
メインイベントはやっぱり大事に取っとかなくちゃ〜ね。
時間をかけて、ゆっくりと。
ね、。
テーブルに並ぶ料理を一つ摘んで、ポンと口の中に放り込む。
美味しいね〜。
の作ってくれるご飯が一番上手い。
でも総合では二番。
三番も四番も他はないけど、やっぱり一番は、君だよ。
2008年の9月14日は小望月。
勿論、9月15日は満月です。
カカシのお誕生日が満月って素敵だよね。
FNTの楠智愛さんから、
カカシの誕生日にお祝いしようとしてあたふたするヒロイン。
でも失敗しちゃってカカシに、
オレは君がいれば一番、それだけでお腹がいっぱいだーよ。
みたいなセリフで微笑まれたい。
とのリクエストを頂きまして書かせて頂きました。
こちらはカカシ誕生祭さまに掲載されている作品です。
勿論、智愛さまへの捧げ物。
う〜ん・・・主腐色濃かった?
お料理系が一番しっくりいってね。
ハハハ;;笑って誤魔化すかえででした。