【情事を連想させる5つのお題】


  ふたりを繋ぐ銀の糸




今、何時だろう・・・。


閉じていた瞼を開け、自分の意思で最初に送った視線の先には、4時25分と告げる時計。
就寝前にセットしたアラームを鳴り響く前に解除して、体を起こす。
どうせ寝れてもあと5分。
深い眠りから無理矢理引きずり出されるのと違って、自然と目覚めた朝は気持ちが良い。
ベットから勢い良く抜け出し窓を開けると、まだ明けてない夜空が迎える。


今日の任務はゲンマとのツーマンセル。
火の国一と言われるホテル王の護衛。
格式のあるホテルから、恋人達に一時の場所を提供するホテルまでと手広く経営している依頼主。
普段はお抱えのSPに守られている男だが、
本日は各グループのトップや取引先の経営者などを集めたゴルフコンペを開催。

特に脅迫を受けている訳でもないのだけれど、用心の為に護衛を木の葉に依頼してきた。
広いコース上では、鍛え抜かれた男達も忍の機敏さには劣るわけで。
万が一、忍の奇襲などを受けたらSPとはいえ、一般の男達には太刀打ち出来る筈もなく。
ゲンマとは一般人として依頼主と一緒にコースを回る事になっている。

は前日買ったパンに珈琲を炒れて軽めの朝食を取り、身支度を始めた。






朝靄の中、大門に向かって歩く一人の男。
青年実業家、それが彼の役所。
ゴルフウェアに身を包み、サングラスを掛けて、両手をポケットに突っ込む。


―― まだ少し早いか・・・。


楊枝は彼のトレードマーク。
それが指す先から同じく両手をポケットに突っ込んだ猫背気味の男が歩いてくる。
すれ違い様、お互い体を向かい合わせることも、視線を合わす事もなく始まる会話。

「今、帰りですか?」
「ま〜ね。」
、借りますよ。」
「ふ〜ん、ゲンマと里外任務なんて珍しいじゃない。」
「俺の隣が似合う女はなんで。お返ししなくてもいいですか?」

無音の状態にも関わらず、まるで音を立てているかの様に広がる殺気を感じたゲンマは軽く肩を揺らす。

「冗談ですよ。」
「・・・冗談には聞こえなかったけどね。」
「そうでしたか?」

伏せ目がちに笑ったゲンマは前に一歩踏み出し、カカシとの距離を離す。

「残念だけど、は俺しか見てないよ。」

そう言い放ったカカシは少しの砂埃を上げて姿を消した。


―― そんな事は知ってますよ・・・。


誰に向ける為の言葉か――
カカシに?
自分に?
ゲンマはその言葉を喉の奥で押し殺す。

の視線の先はいつもカカシ。
その視線を満足気に浴びるカカシが居て。
が上忍になったあの日、ゲンマは自分の気持ちに終止符を打った。

・・・筈だったのだが。
日ごとに艶を増すの表情と仕草。
それはカカシによって引き出された色。
真っ白だったを自分の色に染めたカカシ。
自分の手で変えたかった、そう思ってみても、当の本人は揺らぐ事なく真っ直ぐにカカシだけを見つめて。


―― 俺もいい加減、吹っ切んねーとな。
   いい女探すか。


ゲンマの目の前で、迎えた朝を楽しむ鳥達が羽ばたいていた。








が荷物を持って玄関に向かうと、カチャリと扉が開きカカシが帰って来た。

「おかえり、カカシ。」
「・・・ん〜。」

生温く、それでいて何かを秘めたような返事を返して扉を閉めると、カカシは口布をずらした。
そしての両手を持って壁に押しつける。
その時間は一瞬。
空間に放り出された自分のバックが床に落ちる音を、は壁とカカシの間で聞いた。

「なに・・・どうし・・た・・・」

今は語る為のものではない、とでも言いたげにカカシはの唇の動きを奪う。
言葉の途中で塞がれた口。
開いた唇と出来た歯の隙間に、唇の柔らかさを楽しむ事もなく入り込んでくる舌先。
おかえりのキスでも、おはようのキスでもなく、情事の序章を思わせるキスにの体はビクリと震えた。

ヌルリと絡みつき口内を這い回る。
嚥下仕切れない唾液がの口元から零れ落ち、カカシが唇を離すと二人の間に銀の糸が伝う。

「・・・は・・ぁ・・・」
、熱いね。」

クスリと笑い、耳元で囁いたカカシの唇はの首筋を滑り落ちる。
服越しに重ねた体はお互いの体温を吸収し、益々温度を上げて行く。

「・・・カ・・カシ・・・待って・・・。」
「・・・・。」

の足の隙間に置かれていたカカシの膝が、角度を変えて秘部を擦り上げれば、自然との口から甘い吐息が漏れる。
同時に体内に溢れていた銀色の雫も、土手を失い流れ出す。
見えない楔を何度も打ち込まれて、カカシがほしいと体が求めて。
でも今は、と僅かに残った理性が歯止めをかける。

「これから・・・任務・・なの・・・。」
「知ってる。」
「・・・もう・・行かないと・・・。」
「そう。」
「・・・うん。」

カカシはの手首から手を離して、の体をそっと包み込んだ。

「大丈夫?熱があるみたいだけど。」
「そ・・それは・・・カカシのせいでしょう・・・意地悪。」
「ごめ〜んね。の姿を見たら我慢出来なくなっちゃってね。」
「・・・もう・・・。」


どうするのよ・・・。
この体を冷ませるのはカカシだけなのに。


「後でいっぱい愛してあげるから。
 任務行っといで。ゲンマによろしく。」
「う、うん。じゃ、行って来ます。」

ゲンマとの任務だとカカシに伝えただろうか?
不思議に思いながらもは待ち合わせの大門へ急いだ。







「ゲンマ〜お待たせ。」
「ああ、そんなに待っちゃいねーよ。・・・お前それ・・・目立つぞ。」
「ん・・・何?」
「此処、カカシさんに付けられたんだろ。」


―― 俺に・・・知らしめる為に態々。


ゲンマは自分の首をの首に見立て、人差し指で二回叩く。

「えっ・・・あ・・・その・・・。」
「別に今更、お前達が清い交際してます、なんて思ってねーよ。」

ゲンマが印を結ぶとその掌から青白い光が現れ、の首筋を照らした。

「掌仙術・・・ゲンマ使えたの?」
「あ、まあな。大した事は出来ねーが、自分の女に付けた痕、位は消せるぜ。」


カカシの情痕。
体の表面に残された痕は自分でも消せる。
でも、体内に残る痕跡は消せない。

カカシによって燃え上がった体は、カカシを失ってもまだ尚燻り続け、の体を侵蝕して行く。
閉じ込められた火種は温度を保ったまま、その機会を待って。
扉を開き、新たな風を送り込めば、きっと激しい炎を見せるだろう。

「・・・は・・ぁ・・・っ。」
「なんつー声、出してんだよ。」
「あ、ごめん。任務前だっていうのに緊張感なくて。でもゲンマのチャクラ気持ち良かったから。」


―― 襲っちまうぞ。


吐息だけでなく、来た時から潤んだ瞳と上気した頬。
それはカカシによって齎されたものだという事は明確。

「ほら、消えたぞ。」
「ありがとう・・・。」
「礼なんて言われる事でもねーよ。任務が終わったら付け直してやろうか?」
「何、言ってるんだか。時間ロスしちゃったね。行く?」
「そうだな。近けーし、そんな慌てなくても平気だけどよ。」

二人は大門を潜り抜け、火の国にあるゴルフ場へと向かった。


カカシとを繋げたのは銀の上糸。
交じり合う事が出来なかった下糸は相手を欲してその身を垂らす。

「ふう・・・。」
「どうした?」
「ん〜何でもないよ。」

の求めているものが何か、それが分からない程ゲンマは子供ではなく。


―― 人の事煽って楽しいですか?カカシさん。
   まあ、俺もあんな事言っちまったからな。


を通して、カカシの声を聞いた。


は俺の事しか見てないし、俺の事しか考えられないよ。』
   


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