Full Moon
 はたけカカシHappy Brithday 2006




 「カカシ・・・お誕生日おめでとう。」

 至福の瞬間を迎え、その高みから降りて来たは、天からの使いのような微笑みを見せる。
 時計の針はとっくに日付を変えていて、一年で一番大切な日を迎えた。

 「ありがとう。」

 いつもの間延びした声ではなくて、しっかりと一文字、一文字を大切に放つカカシの声。

 「大分過ぎちゃったけど、一番に言えたからいいかな。」

 誰よりも先に伝えたかった言葉。
 日付が変わったら真っ先に言おうとしていたその言葉は遅れてカカシの耳に届き、
 その瞬間にカカシの耳に届いたのは違うもの。

 「ま、それはがあ〜んな可愛い事言うからでしょ。」


 ゆっくりしたいから、な〜んてね。


 「でも、一番聞きたい言葉を最初に聞けたよ。」
 「・・・な〜に?」

 髪に口付けを落として、繋げたカカシの言葉は・・・。

 「の甘〜い喘ぎ声。」

 カカシの上に置かれたの掌が、石の形になってカカシを叩く。

 「冗談、冗談。この日になって初めて言った言葉、覚えてな〜い?」
 「そんなの分かんない。」

 求め合って、与え合って。
 天国と、カカシの間を行ったり来たり。
 時間の感覚なんてにはある筈もなく、自分が紡いだ言葉なんて覚えているわけがない。
 そう思うのだけれど、確かに覚えてる言葉が一つ。

 「もしかして・・・あれ?」
 「そう、あれ。」



 ―― カカシ・・・愛してる・・・。



 一筋の光と共に零れた言葉。

 「そっか・・・それもいいかもね。」
 「でしょ。それにの中だったしね。」
 「・・・なんでそっちに持っていくのー。」
 「いいじゃない、最高でしょ。」
 「まあ・・ね。」
 「あれ、今日のは積極的だねぇ。」
 「今日の夜は、満月だから・・・かな。嘘、嘘、冗談。今のナシ。」
 「それなら毎日満月でいいのにね〜。月に一度なんて少なすぎでしょ。」
 
 きっと反論してくるであろうの言葉を待ってみても、答えは帰ってこなくて、
 自分の胸に頬を乗せているにそっと声を掛ける。

 「・・・寝ちゃった?」
 「・・・ん・・起きてるよ。」
 「どうした?」
 「・・・カカシの心臓の音、聞いてた。」

 トクン、トクン、と力強く響くカカシの鼓動。
 カカシの―― 命。
 生きている証。

 カカシの声とこの鼓動が好きな音。

 「面白い?」
 「・・・落ち着くの・・この音。」
 「そう?」
 「うん。」

 カカシの誕生日は、自分のそれよりも何よりも、一年で一番大切な日。
 カカシがこの世界に生まれた特別な日なのだから。
 生まれて来てくれてありがとう、と感謝の気持ちが溢れてくる。
 カカシ自身と、神と、そしてこの世界に送り出してくれたご両親に。

 自分がこの世にいなくても、もしかしたら自分と同じ想いを抱いた人がいたかもしれない。
 カカシと一緒に歩んで行く人が居ただろう・・・きっと。
 それならそれで、そこにカカシの幸せがあるし、誰かの幸せもある。
 里の皆も含めて。

 カカシが存在する事、それが大事。
 だから、自分の誕生日なんかより一番大切で。
 自分の居ない世界でも、居る世界でも、はたけカカシという人が生まれた事が嬉しいから。

 だけど、この果てしなく長い時の中で、カカシと同じ時間を共有するなんて、奇跡に近い偶然には感謝する。
 自分はカカシに会うために生まれて来たと思うから、カカシのいない時間は今や想像出来ない。

 「・・・カカシ・・・ありがとう。」
 「う〜ん、何が?」
 「・・・全部かな。」


 カカシが居ること。
 生きていること。
 笑ってくれること。
 そして自分を愛してくれたこと、全部。


 カカシの胸にの頬とは別の温かさが伝わる。
 外気に晒され、その温かさを無くすもの・・・。

 「?泣いてるの?」
 「泣いてなんかないよ。」
 
 カカシは引き上げようと手を伸ばすが、はそれから逃げるように少し下へとずれた。

 「顔見せて。」
 「いや・・・。あ・・・ここにも海があった。」
 「海?」
 「うん、カカシの瞳は海みたいでしょ。
  あとね、此処、水の中に居るみたいな音が聞こえるんだよ。」

 細胞の一つ一つが、活動している音が聞こえて。

 「コポコポっていうのかな。海の中に居るみたい。こんな近くにもあったね。あの海も素敵だったけど。」 
 
 そしてまた感じる肌とは違う温かさ。
 カカシの心臓に光を残したそれと同じもの。
 
 「ちょ・・・やだ・・・。」

 の言葉を無視して、その体を引き上げる。
 自分の腕にの首を乗せて、その腕はしっかり肩を抱く。
 軽く覆うように自分の体を動かし上から覗き込めば、の瞳にいっぱいの涙。

 「やっぱり、泣いてる。」
 「もう、だからいやって言ったのに。」
 
 カカシの手が優しく頬に添えられると、溢れてくる大粒の光。
 それを親指でそっと拭って、その痕跡に口付ける。
 
 「ごめんね・・・。」
 「な〜んで謝るの?」
 「なんか・・・こういうのいやかなって思って。」
 「泣くのが?」
 「うん。」
 「そんな訳ないでしょーよ。その涙の訳は一応理解してるよ。」
 
 己の存在に喜んで流す涙を不快に思うなんて事は決してなく、逆に愛しくて堪らない。
 カカシは湧き上がる水源に再び唇を落して、その光を摘み取る。

 「カカシに会えて良かった・・・。」
 
 返事の変わりにの吐息を奪う。
 溢れ出す想いをカカシは口付けに込めて。
 深く、そして激しく。
 キスだけで飛んでしまいそうになるから、は必死にカカシを掴んで。

 
 ――ふぁ・・あ・・・もう・・・だめ・・・。


 頭の中がしびれて、体中が熱くなる。
 そして体の奥から湧き上がる何か。

 「・・・はぁ・・・」
 「そんな余裕がなくなるようなセリフ、言っちゃだめでしょ。」
 「・・・な・・・に・・?」
 「また欲しくなる。何度でもね。」
 
 の体に自分を求めて熱くなるカカシの体が触る。
 互いが誘い合う蜜を出し、求めて。

 「・・うん・・・。私も・・同じ。」
 「じゃ、もっと言って、俺を欲しがってよ。」


 それこそが、俺の生きてる意味であり、生きている証。


 「カカシ・・・。」
 「ん?」
 「・・・抱いて・・・。」

 優しく微笑んだカカシに覆われ、はカカシを包み込んで、同じ階段を駆け上がった。






 眠りから覚めて目を開けると、色彩を足したカカシがまだ眠っていて。
 いつも自分の枕となっているカカシの腕にそっと口付ける。

 「・・・、おはよう。」
 「あ、おはよう。起こしちゃった?」

 少し前から起きてたよ〜という言葉と共にやわらかい唇の感触。
 軽くて、甘い、おはようのキス。
 
 「ねぇ・・・カカシ。お誕生日のプレゼント何がいい?
  昨日選びに行こうと思ったんだけど、行けなかったからまだなの。カカシのほしい物、折角だから教えて。」
 「物じゃなくてもいーい?」
 「ん?いいよ。」
 「じゃ、の時間を俺に頂戴。」
 「時間?」
 「そ、の今日と明日。」
 「えっ?そんなんでいいの?」

 カカシの誕生日の為に取った休暇なのだからそれは当然の事で、
 何か形になる物は、という意味で再び聞いてみる。

 「他には?」
 「それで十分、他には何もいらないよ。」
 

 これから先もずっと。

 今日は今。
 明日は未来。
 それを全部欲しいと思うのは・・・オレの我侭かね・・・。
 

 「じゃあ、飲み会まで何しようか?何してほしい?」

 朝ごはん作ってあげるでしょ、忍具の手入れとかする?あとはねぇ・・・と
 彼是考えて言うを胸の中に閉じ込めて。

 「もうちょっと寝よ。」
 「え・・!」
 「あ・・・今えっちなこと考えたでしょ。」
 「・・うっ・・うん。」
 「安心して、只寝るの。を抱きしめてね。」

 瞼を閉じても感じる、朝の白い光に包まれて、カカシはを抱く腕の力を少し強める。

 「そうだね、寝よっか。」

 はカカシに包まれながら、ゆっくりと目を閉じた。
 流れる沈黙が心地良い。
 その流れに身を任せ、は眠りへと落ちる。
 






 だってね、今夜が満月なんだよ、ちゃん。


 の頭上でクスリと笑うカカシも又短い眠りに付いた。
 



BGM 君がいた海


やっと・・・本当に、これで言える・・・。
カカシ、お誕生日おめでとう。
これにて、はたけカカシHappy Brithday 2006
勝手に三部作(笑)終了です。
お付き合いありがとうございました。

ゆっくりしたいから・・・。
これがちょっと気になる所ですがね(笑)

かえで