カカシと暮らし始めてから、季節は一回り以上。
そよぐ風は少しづつだけれどその身を軽くして、そろそろ緑に覆われたこの里も、赤や黄色に色づき始める事だろう。
初めて来た時より大きくなったこの部屋。
今ではカカシと二人の部屋として、すっかり仲間内にも定着していた。
ENDLESS STORY
【第二部 第一章】
が引っ越して来てから暫くして、カカシは「もう少し広い部屋に移ろうか?」と言いだした。
だけれど、それを聞いたは首を横に振る。
「どうして?」
「だってこの部屋が好きなんだもの。思い出がいっぱい詰まってるし。」
「まあ、オレもこの部屋は好きだけど。なんせ初めてを抱いた……イテッ。」
カカシの言葉に、今だ頬を染めて照れるは、カカシの腕を軽く弾いた。
「面白ーい。」
「なにが?」
「が。」
「もう!」
再び振り上がるの腕。
それを柔らかく掴んだカカシは、まるでダンスのターンのように彼女の身体をくるりと回転させて、後ろから包み込む。
自分の手はの身体の前でしっかり彼女の腕を握って。
「それじゃあ、リフォームは?」
「リフォーム?」
「そ。隣がずっと空いてるでしょ?大家さんに聞いたら、繋げていいって言ってくれてね。シングルに二人で寝るのもイイけど、やっぱり大きなベットが欲しくない?」
「ゆっくり出来るしね。」と繋げたカカシの声は明らかに何かを含んでいて、その軽やかな口調には首だけで振り返る。
「何か、引っかかるんだけどな。その言い方。」
「ゆっくりしたいんでしょ?」
「またそれを言うんだから!」
恥じらい半分、怒気半分で答えたは、プイっと前に向き直った。
「いいよね?」
「うん。」
それから任務の間を縫って、カカシは工事を発注した。
繋げれば二つになる水周りは一つにして、広く使い易く。
大きくなったリビングダイニングと三個の個室には、が選んだ壁紙にカーテン。
が思うよりも本格的な工事。
これならば引っ越しをしてしまった方が良かったのかもしれないと、頭を掠めたけれど、変わらないもの二つ。
この部屋に沁み込んだカカシの気配と、窓から見える風景。
変わらぬ景色を眺めながら、やっぱりこれで良かったと、は一人静かに笑った。
「部屋の感じが変わったね。」
「いやだった?」
「ううん。色々選んだりするのは楽しかったよ。」
二人で、仕上がった各部屋を見まわして。
カカシの部屋で寝室だった部屋はそのまま二人の寝室。
やわらかな色に変わった壁紙に、大きくなったベットはカカシの拘り。
もう一つの個室は二人の書斎。
そこには机が二つ並んでいて。
残る一つはなんとなく、空き部屋。
「誰かが来た時、泊まれるね、これなら。」
「誰かって、誰よ。まさかアイツら?」
「そうだよ?飲んで潰れても平気じゃない。」
「アイツらはリビングで十分。っていうより、帰すでしょ。」
「いいじゃない、たまには。」
まだ起こってもいない事柄に関して、怪訝そうな顔をするカカシを、は隣で笑いながら見上げた。
「ここはね、いつか人数が増えた時の為なの。」
「・・・え?」
の顔から笑みが消えた。
「その時はに負担を掛けちゃうけどね。・・・・・・ってなによ。」
「う〜ん・・・。それって、愛人一号とか、二号とかじゃないよね?」
「あのねぇ・・・ちゃん?」
「だって、カカシがそんな事考えてるとは・・・。」
「思わなかった?でも伝わってるでしょ?オレの本気。」
「・・・・・・うん。」
「順番はちゃんと守るつもりだから安心して。色々落ち着いたらね、正式に・・・。」
続く言葉はキスに紛れて、でも伝わって来た。
色々は本当に色々だろう。
が上忍になってからまだ一年しか経っておらず、里を脅かし、三代目の命を奪った者は、カカシの教え子を手中に納め行方を眩ませたまま。
もう一つの集団の動きにも、細心の注意が必要な状況だった。
この二つが過ぎ去ったとして、新たな脅威が姿を表わさないとも限らないけれど。
「その時はなるべく、良い返事を聞かせてよね?」
唇を離してカカシはを胸に抱き、頭上に言葉を降り注ぐ。
すると彼女はカカシの腕の中で小さく一度頷いた。
「じゃ、確認ね。」
そう言うとカカシはふわり、を抱き上げ、ある場所へ向かう。
「ちょ、なんの?」
「え?さっきのと、新しいベットの使い心地。」
「待って、まだ荷解きが・・・。」
「そんなの影分身使えばすぐ終わるでしょ?」
「任務じゃないのに、チャクラの無駄使いしちゃだめだよ。」
「大丈夫。その後もたっぷり補給するから。でね。」
話しながら寝室に移動し、真新しいベットにを降ろしたカカシは、何かを告げようとする彼女の唇を塞いだ。
そんな、近い将来を感じさせる会話も出るようになって来たこの頃。
物に愛着の湧くにとって、ずっと使ってきたベットと別れるのは寂しかったけれど、新しい物が来れば切り替えも早く。
それが良い物ならば尚更。
すぐにのお気に入り。
「このベット・・・気持ち良いね・・・・・・。」
「でしょ。このベットが置きたくてね・・・って・・・。」
自慢げに答えたカカシの横で、は寝息を立て始める。
「おやすみ。」と心の中で語りかけて頬に唇を一度落とし、カカシもまた眠りに付いた。
忍にとって身体は資本。
睡眠は大切な物だけれど、後にカカシは少し後悔する事になる。
あまりの心地良さに、先に入り込んだが、カカシを置いて夢の中へ旅立つ事しばしば。
意気揚揚とベットに潜り込んだカカシが、肩透かしを喰らったのも一度や二度では済まされなく。
「思惑が外れたかね・・・。」と一人愚痴を零し、後頭部に手をやるカカシの姿がそこにあった。
だけど、の寝顔を見つめるその顔は、満更でもなく。
幸せそうに、目を細めて笑っていた。
夜空に浮かぶ初秋の月。
それが放つ神秘的な光と、今年一番の蟲の声が、僅かに開いた窓の隙間から部屋に零れた。
深夜の任務帰り。
カカシは軽くシャワーを浴びると、静かにの隣に潜り込む。
起こさないようにしたつもりではいたのだけれど、その瞬間は寝苦しそうに身体を揺らして瞼を開けた。
「ん・・・・・。」
「ごめん。起しちゃった?」
「あ・・・カカシ・・・。」
微かにの表情から影が感じ取れた。
それは寝起きの気だるさとは違う物で。
「どうかした?」
「最近同じ夢をよく見るの。今もそれで目が覚めた。」
「イヤな夢?」
カカシの問いかけに、は少し首を傾げながら答えた。
「昔ね、教えてもらった事なんだ・・・。忘れちゃだめだよって言われてた・・・・・・呪文かな?」
「呪文?かわいいね。忍術じゃないんだ。」
忍術という言葉にの視線が一度空を見て、横たわるカカシの胸に顔を埋めた。
「そう。呪文。大切な人が笑ってられる呪文。」
「それならオレ、いつも掛けられてるけど?」
カカシは自分の胸の位置にあるの頭を軽く撫でた。
「カカシ・・・私を見つけてくれてありがとう。」
「が何処に居ても見つけられるよ。も同じでしょ?」
「うん・・・。」
「ホントに、どうかした?」
「何でもないってば。ただカカシと居れて幸せだなって思って。カカシの事がすごく好きなの私。」
「知ってる。オレも好きだよ・・・。」
そう言ってカカシはの髪に口付けた。
「ねぇカカシ・・・。疲れてる?」
「全然。」
「じゃ・・・抱いて・・・。」
胸に抱いたの肩をシーツの上に縫い付けて、カカシは見下ろす。
「任務以外の隠し事は無しだよ。大事な事はちゃんと話してよね。」
「勿論だよ。でも、したくなった時に毎回言うのはイヤだな〜。」
「オレは大歓迎だけどね。」
「もう!雰囲気で汲み取って下さい。」
「了解。」
額を重ね合わせて、笑い合って。
カカシはゆっくりの首筋に顔を埋めて。
もう一度思い出したあの呪文を掻き消しながら、は瞼を閉じた。
幼き頃は遊び言葉のように歌って覚えた。
チャクラが増え、因果関係が理解出来るようになると、教えられた。
決してそのような事は起こらない筈だけれど。
もし、起こってしまったら、その時はこれを唱えろと。
それはやはり呪文ではなく、忍術で。
名家と謳われる事のない、家秘伝の忍術──。
四神の名におきて、強く閉ざされし、その門を再び閉じむ。
我が掟はべり、
再び開かるる事がなきやうに。
地を割りて、
水を捲き上ぐ風よ、舞ゐ上がれ。
全てを揺るがす、火の力を抑へたまへ。
───── 四神召喚!!
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2007/08/17
ENDLESS STORY第二部ですが、原作の第二部の時間軸とは違います。
原作での第一部と第二部の間辺りと思って下さいね。
第一部最終章として、お引越しを書く予定でした。
そして第二部スタートにしようかな?って。
でも今更な感じがして、筆が止まっており、動きだしたら、この形に。
ま、問題はないよね?
ENDLESS STORY第二部もお付き合い下さると嬉しいです。
また出て来たよ・・・突飛な設定(笑)
最初からあった設定なんだけどね・・・(汗)
ちなみに古文は苦手です。何かあったら、遠慮なくよろしゅうv(苦笑)
沢山の言葉でENDLESSを応援してくれた檸檬さんに、勝手に捧げます。
ありがとう。
かえで