「ただいま〜」
夏至の日、午後8時を少し回った所で、の同居人であり恋人のカカシが帰って来た。
彼女の気配は部屋の中に感じられるのに、いつもは自分帰りを待っているかの様に灯されている玄関の明かりも廊下の明かりも付いていない。
突き当りにあるガラスの扉は、廊下とキッチンそしてリビングを遮る物。
脚絆を脱いだカカシが静かに近づくと、曇りガラスの向こうにゆらゆらと揺れる柔らかい炎が見えた。

「おかえり、カカシ」
リビングのソファーに座るはやわらかく微笑んで、迎える言葉をカカシに送る。
「ただいま」とカカシも返し、その頬にキスをして、テーブルの上で揺れる可愛らしいロウソクに視線を移した。
灯る一本と、点火されていない幾つかのロウソク。
缶に入ったアロマキャンドルに、白くて細長いウエストの括れたロウソク、そして装飾のされた綺麗なロウソクが置かれている。
目に留まった白いロウソクを持ってカカシが囁いた言葉は。
「ねぇ……趣旨変え?」
ニヤリと笑って、淫猥な色を含んだ声だった。
「ち、ちがうわよ!!」
カカシが手に持ったロウソクを傾けたのだから、その意味は解る。
別にそういうプレイをしたくて用意した物じゃない!!と否定の言葉を叫びつつ、心で叫ぶ。
早く誤解を解きたいから。
言葉が間に合わないのだ。
「それはただのロウソク。そういうのじゃなくて!」
「そういうのってナニ?」
解って聞くのだから意地が悪い。
「だから!」
「そう言えば今日夏至だっけ?」
クスクスと笑ったカカシは、いきなり話の方向を変えた。
「もう……知ってるんじゃない」
「まーね。オレ、シャワー浴びてくるね」
「うん」
もう一度の頬にキスをしたカカシは、バスルームに消えた。
キャンドルナイトと称された五年目になるこの企画は、でんきを消してスローな夜をというスローガンを掲げたもの。
夏至の日の午後八時から十時までの二時間、みんなででんきを消しましょうというものだ。
ロウソクの明かりの元、子供に絵本を読んであげるもよし、恋人、家族とゆったり食事を楽しむでも良い。
時間の使い方は人それぞれだ。
他国で始まったこの企画は、ロウソクの炎のようにゆっくりと浸透して行った。
数年前からこの里でも時期になると、張り出されるポスターと共に雑貨屋の店頭にはロウソクが並ぶ。
隠れ里という性質上、里の明かりを全て落とす事は不可能だが、個人個人プライベートな空間で行うならば全く問題は無い。
は仕事の帰り道、目に留まった可愛いロウソクを一つ手に取った。
横を見ればアロマキャンドルも置かれているし、調度品の様な綺麗なロウソクも置いてあった。
ロウソクに施されている飾りが消えてしまうのが勿体ない程の出来栄え。
それなりに値も張ったけれど、買うと決めたら財布の紐も緩むもので、はその三つを持って店内のレジに行った。
その時にもらったのが白いロウソクだ。
一定金額以上をお買い上げの方全員に配られているというもの。
簡単に食事を済ませて、部屋の電気を消しロウソクに明かりを灯す。
すると煌々と光る室内のテレビがやけに眩しかった。
今日はもういいやとリモコンでテレビを消す。
暗闇に灯る一つの明かりは、暖かくを包んだ。
恋人の無事を炎に祈って、ついでに世界の平和なんかも願ってみたりして。
そんな時に帰って来た恋人、はたけカカシ。
そして彼は今、バスルームの中。
ありがとう─── とは小さな光に感謝した。
少しすると、バスタオルを腰に巻いたカカシが戻って来る。
「今日はキャンドルナイトの日だっけ?」
「そうなの。一度してみたくて。色々売ってたし」
「だからって何本も買わなくてもねぇ」
またカカシが手に取ったのは、白くて括れた長いロウソク。
「それは買ったらオマケにくれたの。もう、そんなの使ったら火傷しちゃうよ」
「アラララ、ちゃん良く知ってるね〜それ用のは温度が低い事」
誘導尋問に引っ掛かって怒ると、それを見て楽しむカカシ。
わなわなと言葉が継げないを横目に、カカシはロウソクをテーブルの上に戻した。
「ねぇ、?このロウソクの燃焼時間ってどれ位?」
それは今灯るロウソクの事を指しているようだった。
「ん?解らない。二時間以上はもつって言ってたけどな、店員さん」
「どっちが燃え尽きるのが早いか試してみようか?」
「な、なに?」
「と、このロウソク」
カカシは返事を待たずに、彼女をふわりと包み込んだ。
額に口付けて、鼻先を軽くこすり合わせて、好きだよと囁く。
囁いた唇はすぐのそれと重なった。
浅かったキスは深くなっていき、の身体に火を灯す。
剥がされたパッケージは着衣。
白いロウソクのようなの肌。
灯す種火はカカシの唇と指先。
ロウソクの様にゆっくり、ゆっくりと溶かさてゆく。
炎を大きくするには太い芯を与え、どんどん溶かせばいい。
でも今夜は細く長く、最後は派手に燃え上がれば良い。
の白い肌にはカカシの施す紅い装飾。
そして肌を伝い滴るもの。
下へと延びるそれを受け止めたのはカカシの舌先。
─── もっと溶けて
そして、オレを溶かして
そう心で語りかけながら、彼女を愛する。
「……カカシ……んっ……あっ……おねがい」
「な〜に?」
溶けだしたものを掬いながらカカシは問いかける。
その意味は、わかっているのだろう。
「だってまだいっぱい残ってるよ?ロウソク」
「もう……無理……だってばぁ……」
「じゃ、そろそろ一つになろうか」
「……うん」
キスをして。
抱き合って。
カカシは炎の中心へと身を進めて行く。
「温かいね」
「うん」
お互いの体温を感じ、腰を合わせたまま、たくさんのキスをして。
囁き合って。
見つめ合って。
またキスをして。
時々ゆっくりと少しだけ動くカカシに、の口から吐息が漏れた。
スローな夜には、スローセックスを。
波のように来る頂点から、ふわりと解き放たれて。
繋がりあったまま迎えた何度目かのそれ。
はそのまま夢の世界へ飛び立って行った。
ゆうらりと灯っていたロウソクが静かに消えたのは、時計の針も頂点で交わった時。
カカシはの身体を抱えて、ベットの中に潜り込んだ。
抱き合ったまま迎える朝も、至福の一時。
おはようと言う自分に、恥ずかしそうに返すが見たいから、明日の朝は早く起きよう。
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off of... の金鳳花さんに捧げました。
日々の感謝と、サイト開設のお祝いを込めてv
2008/05/09 (2008/04/25) かえで
BGM トロイメライ
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(BGMは金鳳花さんが選んでくれました。ありがとーv)