『 私の彼ってね、すごくヤキモチ妬きなのよ。私が知らない男と話してたりすると、すぐ不機嫌になるの 』

『 いいな。うちは私の方が妬いてるもの 』

『 そうなの? 』

『 だからね、たまに確かめちゃうの。私の事を本当に好きなのかって思って 』

『 確かめる? 私の事好き?とか聞くわけ? 』

『 そんなのしょっちゅう。それだけじゃ足りなくて、ワザとね、ハグされたとか、キスされたとか報告するの 』

『 彼、怒るでしょ。でもそれが嬉しいわけだ 』

『 そうそう 』

『 の所は? 』

『 ……私? 』

『 さっきから だんまりなんだもん 』


父親の転勤で移り住んだ華の国。
そこで自分の道を見つけ、火の国木の葉隠れの里に移り住んだ
同じように、親元から離れ、各地に飛んだ同級生は結構居る。
火の国に住まう同期で集まった同期会では、年頃になった級友達が恋の話を咲かせていた。


『 ヤキモチ妬かれると、やっぱり嬉しいもの? 』

『 そりゃそうよねぇ〜程度にもよるけど 』

『 うん。愛されてるなって実感出来るじゃない 』


『 そっか……… 』

『 の彼氏、全く妬かないの? 』

『 そういえば、妬かれた事ってあんまりないかも…… 』

『 そうなんだ。淋しくない? 』


その問いかけには、言葉が繋げなかった。







Spice of the love







の仕事場は彼女を中心とした女の園。
その性格からか、女の園にも関わらず、毎日平和である。

でもの周りにチラ付く男の影は毎日、と言っても大袈裟では無い。
忍服を受け取りに来た忍者、業者の配達、ミシンの修理屋、そして生地屋の営業。
そのいずれか、もしくは一日の内に複数が来たりする。
そんな場面に出会ったとしても、恋人であるゲンマの顔色が変わる事は無かった。

裏の仕事でも、それはそうで。
諜報先に合わせた衣服を用意するわけだけれど、その中には勿論男性忍者もいて、身体に触れる事だって時々ある。
でもゲンマは、文句の一つも言った事は無い。
仕事だからそれは当たり前で、文句を言われても困ってしまうけど。

今まで疑問になんて思わなかった事。
当たり前だと思ってきた事。

量る事なんて出来ない大きな愛で、ゲンマは包んでくれてると。
はそう実感してる。
だけど、その大きな愛を量る事が出来るのだろうかと、頭を過った。


─── 正直に言うとね、私は胸が騒いだ事があるんだよ。


彼の周りには綺麗な人が沢山いるから。
手足の長いスラリとした女性は、ゲンマの隣に似合うなぁ、なんて思ったりもした。
ゲンマの影にすっぽり隠れちゃうような、背の低い小さな自分よりも。

でも客観的に見てそう思っただけで、そこまで不安にならなかったのは、ゲンマの愛を疑う事はなかったから。
ゲンマがいつも自信をくれたから。
『 、イイ女になったな 』って。


─── ねぇゲンマ。
     ゲンマもヤキモチ妬いたりするの?

     それで見えない筈の愛が、見えたりするのかな……?


     ……ゲンマのヤキモチは どんな味?




急ぎの依頼もなく、抱えている物の目途も立っているから、今日の仕事は定時で終わり。
冬になればすっかり陽が落ち、暗くなるこの時間だけれど、夏の初めの今はまだまだ明るい。
それでも日中の暑さは和らいで、外を歩けば涼しげに風が通り過ぎる。

植木にお水をあげてるおばあちゃん。
まだまだ元気に走ってる子供たち。
里の商店街は夕飯の買い物で賑わっていた。

情報を得る為に定期購読している雑誌を買おうと、本屋さんへ向かえば。
その時にふわりと風に揺れたノボリが目に付いた。

【 イチャイチャシリーズ好評発売中 】

自来也様の書かれたこのシリーズに、求める答えが書いてあるのかと思ってみるけれど、18禁というワードがどうも気に掛かる。
“18歳以下です”などと言ったら、友人に叩かれそうな年頃でも、お肌の曲がり角を曲がってしまった年齢でも、堂々と買える年齢でも、躊躇してしまうのだ。
それにヤキモチの正しい妬かせ方なんて、きっと書いてないだろう。
ヤキモチを妬いた男女のお話は載っていたとしても。


─── ねぇ、アンコちゃん、奈菜ちゃん。どうしよう? 


お土産に買った火の国のお菓子を持って、アンコの自宅へ招かれて遊びに行った日。
お茶で喉を潤して、だけどまた乾くまで話していた日。
里の仲間達の勇士話と失敗談を聞いて、アンコも何度か行ったという同期会のあった街の話をして。
洋服の話、化粧品の話、テレビの話、そして恋の話。
三人の恋は現在進行形。
アンコは同じ特上と、奈菜はカカシと付き合っている。

「男心は、男の人なら解るよね?」

の言葉に目をパチクリさせたアンコは、こう答えた。
「そりゃそうでしょ。同じ物ぶら下げてるんだし」と。

噴き出した奈菜に固まる

「なに〜?照れてんの?」

今更ねぇとでもアンコは言いたげだが。

「だって、思い出しちゃって」

の繋げた言葉には、今度はアンコが噴き出し、奈菜が何かを思い出している様に見えた。

一般論的に聞いたヤキモチについての二人の意見は、微妙に分かれて。
アンコはあまり好んでいなそうで、奈菜は満更でもなさそうだった。


あの時は他の話に夢中になり、ちゃんと相談しなかった事を今更後悔したりして。


─── やっぱり、ヤキモチなんて、美味しくないのかな?


同期会から戻って、ちゃんとゲンマに会えたのは、誕生日の翌日だった。
丁度彼の誕生日が作戦決行日だったから。
日中に仕掛けた網を引き上げるのは、真夜中。
それまでは監視体制。
残念と言えばそうだけれど、事情が事情、任務が優先である事はお互い百も承知だ。
だって、この日潜入する忍の衣装を作ったのだから、任務の成功をその日は祈って、翌日は好物をいっぱい作ってお祝いしようと。
それに一番残念なのはゲンマかもしれないし。

その日、喉まで出かかった「わたしの事、すき?」という問いかけ。
同級生の真似をして言ってみようかと思った。
だけど聞かなくても分かってる事を、態々聞いたりするもの気が引けて、結局口に出せなかった。
ゲンマの気持ちを疑っているみたいに聞こえそうで。
疑っているんじゃなくて、確認なんだけど。
何気ない恋人の囁きならば、ゲンマも気に止めないはず。
けれど神妙な顔つきになるだろう自分が想像出来るから。
きっと上手く説明できないから。
……だって、タイミングが悪すぎる。



ゲンマと会ってから二日後の今日。
ぐるぐると廻る想いの中に聞こえてきた声は、グットタイミング。
流石、里の救世主。
ゲンマと、この二人の距離が早く縮まったのは、他でもない、銀髪の天使、恋のキューピット、はたけカカシのお陰でもある。
その背景に、ヤキモチと呼ぶには可愛過ぎる、ゲンマの嫉妬という感情がある事を、は知らないけれど。

ちゃん、久しぶり。買い物?」
「はい。カカシさんは?」
「オレは任務明け。これからお家に帰る所デス」
「あの……」
「どうかした?」
「少し、話を聞いてもらっていいですか?」
「勿論。じゃ、そこの公園にでも行こうか」
「はい」

本屋のすぐ近くにある公園に二人は行って。
まだ明るい園内には、子供達の元気に遊ぶ姿が見える。
幾つか並ぶ二人掛けのベンチにが腰かけると、その隣のベンチにカカシは腰かけた。
恋人同士のように一つのベンチに寄り添い座るのではなく、二人の間には夏風が通り過ぎて行く。


同期会での話を掻い摘んで話して、その時感じた事をは素直に話した。
良い事か悪い事か分からないけれど、それでも、ゲンマのヤキモチを味わうにはどうしたら良いのかと聞いて。
そもそもゲンマはヤキモチなんて妬くタイプなのか、そんな事も付け加えて。

「ヤキモチねぇ……」

の話を聞いたカカシがポツリと呟いた。

「ゲンマ君だって妬くよ。それなりに。オレ被害者」
「へっ?!」

上ずった声のに、カカシはカラカラと笑って話し続けた。

ちゃんとゲンマ君が付き合う直前の話。ちゃんオレに、忍服の試着頼んだでしょ?」

話の方向が見えたは、うん、うんと頷きながらカカシの話を聞いて、カカシは一瞬違う方向へダイブしかけたの思考が、言わずと正された事を確認する。

「あの辺りでね。オレとの関係を誤解したっていう方が大きいけど。まだあの頃はフリーだったしね、オレ。
 でもこの事はナイショだよ。眉間にシワよせて、カッコワリィ〜〜〜って言いそうだから」
「はい。口にチャックしておきます」

いかにもゲンマが言いそうな口調で話すカカシに、の口からは笑い声が漏れた。

「よろしくね」

あれから二年。
再会したてで、相手の事を伺っていたあの時期。
当時の言動を、ゲンマが悔やんでいるのかは、分からないけれど。

「好きな相手には無関心に成れないよ。感情を表に出すか出さないか、矛先が誰に向かうかは個人によるけど。
 ちゃんの知らない、気づかない所で妬いてるかもね」
「そうなんですかね?」
「きっとね」

ゲンマが長期任務から帰って来たクリスマス頃の出来事。
夏祭りのたこ焼き。
がそれとは気づかなく感じなかった、ゲンマの心の揺れは確かにある。

「じゃあ逆に、ちゃんはゲンマ君にヤキモチ妬きたい?
 他の女と“どうこうなった”なんて聞いたらどう思う。仕事云々は無しにしてね」
「……いやです」
「でしょ。幸せだと感じる感情は確かにある。でも妬いている方の身になってみなくちゃ。
 ヤキモチと言えば可愛いけど、要は嫉妬。ワザと妬かせるなんてよした方がいい。
 それよりも、ゲンマ君を信じてるちゃんのままで、気持ちを伝えた方が、実感出来ると思うよ」

自分の事を好きかと不安げに問うよりも、相手を好きだと伝える方が、求める答えが返ってくると。
の判断は正しかったのだと、カカシは言う。

「カカシさんに聞いてもらって良かった。私、ゲンマに……酷い事言ってたかもしれない」
「まぁ嫉妬なんて恋愛の毒でもあるけど、かわいいヤキモチはスパイスになるかもね」

剥き出しの嫉妬心。
相手を雁字搦めにする独占欲。
分量を間違えると、恋の華を散らす毒になる。
けれど適量ならば、良い隠し味。
その分量の好みは勿論、人それぞれ。

「かわいいヤキモチ…ですか?」
「そう。試してみる?」

少しは考えて、小さく頷いた。

「じゃ、手を出して」

立ち上がり、の前に来たカカシは、「膝の上でこうやってね」と水を掬うような仕草を見せる。
膝の上で小指と小指を付けるようにしたを見ながら、カカシが親指を噛んで印を結べば。
ぼわんと白煙が上がり、の両手は温かさと重みを感じた。

「きゃー可愛い!」

手の中の真白な子犬を見て小さく叫んで、は子犬の頭を撫でる。

「犬は好き?」
「はい。華の国の実家では飼ってたんです」
「そっか。コイツ忍犬の子供。そろそろ色んな人に馴れさせる時期だから、少しの間預かってみない?」
「もうお母さんと離れて大丈夫なの?」
「ヘーキ。ただ、ちょっと甘ったれの男」
「甘えん坊さんなんだ。そうだよね、まだこんなにちっちゃいんだもんね」

子犬を撫でながらは話しかけて。
もちろんこの口調は、カカシ相手にではなく、子犬に対してで。

の手をペロペロと舐め始めた子犬は、の事を受け入れたようだった。

「仲良くなったみたいだね。今度引き取りに行くから、それまでよろしく。
 あ、それから、恋人同士の隠し事は変な誤解を招くけど、今回のは率先して話さない方がイイ。
 その方がよ〜く分かると思うヨ。じゃ、オレ行く所あるから」

片手を上げて言うカカシに、は咄嗟に空を見上げて。
そこには見覚えのある一羽の鳥が、羽を広げて風に乗っていた。

「召集…。ごめんなさい!!ゆっくり出来なかったですね」
「いや、気にしなくていいよ。帰ってたら逆にかったるかったし。装備外した途端ピーヒョロロじゃねぇ」

じゃ、と飛び上がるカカシに、は大きな声でお礼を言った。
彼らしくヒラヒラと片手を振って、カカシは姿を消して行く。

「私たちはお家に帰ろうか。あ!その前にキミのご飯買わなくちゃね。
 …………ごめん。キミの名前聞くの忘れちゃったよ………」

カカシがワザと教えなかったなんて露ほども思わなく、は考えて。

「そうだ、はたけクン!!です。よろしくね」

子犬の顔を覗き込んで、前足と握手をしながら挨拶を交わした。

動物病院に連れていくと、ペットの苗字は飼い主の。
だから、はたけクンなのだ。

「じゃあ行こうか」

の胸に抱かれた はたけクン は気持ち良さそうに。
里はいつしかオレンジ色に。

奈菜にだけは事情を説明しておこうと、帰りがけに事の顛末を話せば。
子犬を預かった事は既に聞き及んでおり、なんだか妙に納得した様子。
それでも子犬の名前は判らなかった。






はたけクンを預かって早三日。
がアカデミーで衣装合わせをしていると、任務から帰ったゲンマが顔を出した。
諜報部のトップとはいえ、里外へ任務に出る事もあるから、全ての打ち合わせには出られない。
部下に任せる所は任せているゲンマが顔を出した理由は、を誘う事。

「ゲンマ、おかえり」
「おう、ただいま。、この後は?」
「店も閉めたから、もうないよ」
「じゃ、うち来れるか?」
「うん」
「夕飯用意しておく」

夕日の差し込むアカデミー。
悪いなと仲間に声をかけて、ゲンマは静かに部屋から出て行き、は着替えの終わったくの一を笑顔で出迎えた。



食卓に並ぶ、そうめんと天ぷらは、ゲンマの用意してくれた夕食。
やっぱり南瓜の天ぷらは外せないらしい。
海老と茄子も美味しく揚がってた。

名乗りを上げたが洗い物をしていれば、ゲンマは油の後始末。

「全部やるのに」
「二人でやった方が早ぇだろ?」
「だね」

結局、後片付けは分担して、一人でやるよりも早く終わり、今はソファーに並んで座ってる。

「ゲンマの天ぷら美味しかった〜」
「さんきゅ。まぁ、揚げるだけだけどな」
「下準備とか色々あるじゃない。それに揚げ方も上手だったよ。天ぷらが苦手な人でもかなり食べれちゃいそうな感じ」
「そうか?」
「うん」

に褒められて嬉しそうなゲンマであるが。

「そういえば、カカシさんって天ぷら嫌いなんだよね?」
「あ?」
「やっぱり茄子の天ぷらでもダメなのかな?天ぷら嫌いだって、言ってたからさ」
「お前、何時そんな話聞いたんだよ。それになんで今、カカシさんが出てくるんだ?」

これから、お前を味わって〜などと野望を膨らませていた最中だというのに、そこに出てきた男の名前。
しかも好物まで知っているし。
勿論、恋愛感情が無い事は分かっているけれど。

「だって思い出したんだもん。何時だったけかな〜? 二人で飲みに行った日? う〜〜〜ん、泊まった日?」
「ちょっと待て。ちゃんと話に人物を登場させろ」
「だから、奈菜ちゃんがうちに泊まった日だったかな〜って。
 天ぷらは作れないって言ってたの。あ、奈菜ちゃんが作れないんじゃないよ?」
「分かるって!」
「だって、ゲンマ変顔してるんだもん。奈菜ちゃんお料理上手なんだから」
「へんがおって…お前な」

不知火ゲンマ。
恋人の事を信じてはいるが、一応聞いてみた。
誤解したの?私を信じてないの?と責める事はしないだと分かってはいるが、仮定のヤキモチも妬く前に消火されてしまった。
大人同士、恋人であるならば、ここできっと甘いスパイスが振り撒かれた筈。
『 なに誤解してるの?私が好きなのは貴方よ。泊まったりするわけないじゃない 』とか。
でもこれがらしい所であり、言葉の用い方がたまに笑える所も、みんなゲンマの好きな所なのだが。

「変な事言った?」
「あ、まあいいや。…………」

甘くゲンマは囁いて、の顎を引き上げ唇を重ねた。
軽く触れ合った唇に、ゲンマの舌先がなぞる様に触れ、奥に進むと、のそれと絡め合う。
深まるキスに、が吐息を洩らし、ゲンマは次の段階へ進もうと心の中では口角を上げてみせた。
ゆるりと降りるの頬に回された手の平は、鎖骨を沿ってその下の膨らみに触れる。
ピクリと反応するが可愛く、そして苛めたくなる。
ブラの上から中心を狙い指の間に挟みながら、全体を揉んだ。

「あっ……ゲンマ……」


名前を呼ぶゲンマの唇が首筋に触れる。

「ちょっと待って……」
「なんだよ」

よくあるやり取り。
部屋の電気を消して欲しい。
お風呂に入ってから。
言いたい事の想像は付く。
今の場合後者、お風呂に入ってないからダメなのだろう。

「……ダメ」

ほら、やはり。

「俺はかまわねぇって」

でも一度目は強硬に。
次もやはりダメだと言うのなら、折れるのがいつものゲンマだ。
どうせ汗を掻くのだから、一度愛し合った後に一緒に入ってもいいだろう?と思うのだが、の立場も加味すれば、そう強くも言えない。
全く自分は構わないのに。

「シたら寝ちゃうもん、私」

そんなのはいつもの事だと。

「泊まってけばいいだろ?」

元々、帰すつもりもなかったのだから。

「ダメなの。だってはたけクン!」
「はぁ?!」

はたけという名前には大いに聞き覚えがある。
だが、そいつの名を“はたけクン”と呼ぶの事は知らない。
何時そんな風に呼ぶようになったのか?
カカシさんから“はたけクン”と。
親密になったのなら、呼び捨てになるだろうし、カカシは今も彼女と続いている。
さっきの口から、そんな話が出たばかりだ。
一体何があったのだと、自分の耳を疑いつつ、の顔を上から覗き込んだ。

「はたけクンがお家で待ってるの。帰らなくちゃ」
「なんで“はたけクン”とやらがお前の家に居るんだ?」
「預かったの。甘えん坊のさびしがり屋だから帰ってあげないと」
「そいつ男?」
「そうだよ」
「はたけって謂うのか?」
「うん。カカシさんの苗字は“はたけ”でしょ?だからはたけクン」

カカシさんに弟が居た話は聞いた事がない。
子供が生まれたなんて話も聞いてない。
妙な忍術にでも掛かり、幼児後退したなどという事も……報告にはないが。

「そいつ一体何者?」

珍しくゲンマの声が低く轟いた。

「え、あ、あの……」
「お前、何隠してる?」
「えっと………」

カカシさんもう無理です。これ以上は隠せません!
が心の中で叫ぶ。
なにも隠し通せとカカシは言っていない。
あえて自らは言わない方がいいと言ったのだ。
言い方を変えれば、サプライズ的に。

の家に行けば、すぐ分かる事だから。
犬好きの彼女は子犬を可愛がるだろうし、あの子犬の事だから、に甘える筈。
邪険になんてしないのは分かってる。
そんな彼女を見て妬くゲンマのかわいいヤキモチを、が感じられれば。
それがカカシの思惑。

「分かるように、よ〜く説明してもらおうか」
「カ、カカシさんの忍犬を預かったの。子犬でね、人に馴らす時期だって。淋しがり屋だから帰ってあげないと」

はたけクンの食事は店を閉めて、アカデミーに行く前にあげているから、お腹は空いてないと思うけどとは付け加えた。

「俺ならいいのかよ」
「…はい?」
「…っ。なんでもねぇ」

の身体から離れたゲンマはソファーにドカリと座り直した。

「帰れ、帰れ」

シッシッと項垂れた手の甲を振って、ゲンマはそっぽを向く。

「ゲンマ?」
「………」

我ながら大人気無いと思いつつ、感情を抑えられない。
の家に居るという子犬に妬いているのか、預かる事になった経緯に妬いているのか、多分その両方が含まれる。
だけれど一番は、この優先順位。

「げ〜〜〜ん〜〜ま!」

は身体の向きを変え、ゲンマの太ももの向こう側へ手を付いて顔を覗き込んだ。

「………」

同時に聞こえない振りをしたゲンマは目を閉じる。
正面に向いた耳に向かっては名前を呼んだ。

「ゲ・ン・マ!不知火ゲンマさ〜〜〜ん」
「………」
「もう、ゲンマってば。もしも〜〜〜〜し。不知火さん、不知火さん、至急こちらにお戻りください!!」
「…………ああもう、うるせぇな」

向き直ったゲンマにはにっこり笑って、その首に手を回した。

「ゲンマ大好き!!」

満面の笑みを湛えるの顔。

「なに嬉しそうにしてんだよ」
「だって、ゲンマが好きなんだもん」
「そんなの知って……る!」

まだ少しふくれっ面のゲンマの顔を両手で覆って、はキスをした。
見開いたゲンマの瞳はのキスに合わせて閉じて行く。

「場所を変えればいいでしょ?ゲンマ、今夜うちに泊まって」
「………」
「……だめ?」
「……行くぞ」

ゲンマの声が小さくて、聞こえなくて、は首を傾げた。

「お前んちに行くって言ったんだ。早くしろ待ってるんだろ?」
「うん!」

ソファーから飛び降りたがバックを持って、お互いサンダルを履き終えれば、ゲンマはを抱え夜空を舞う。

「スピード違反!!」
「忍者にそんなもんあるか!」
「えーーーないの?!」

文句は言っているが、の顔は嬉しそうで。

「舌噛むっていつも言ってるだろ。黙ってしっかり掴まってろ!とばすぞ」
「うん」

ゲンマにしっかり掴まって。
ゲンマはしっかりとを抱いて。
一つの影が月夜に浮かぶ。


カカシのくれたスパイスを、カカシの思惑以上に効かせた

でも本当の効果は、これからの部屋で。


「はたけクンただいまー!」

「ワンワン!!」

「きゃ!くすぐったいよ……はたけクン。んっ……もう…だめだったら。しょうがないな〜〜」


ワナワナと拳を握るゲンマの心の叫び。


『 ったく、あの犬使い!!!! 』


甘いスパイスの後味は肉体的疲労感?!

かけ過ぎにはご注意を。


……好みですがね。





2008/07/20 かえで
・・・・・・・・・・・ご希望があれば、続きを書きそうな予感。別の場所だろうけどね(笑)


10万打リクエスト企画。
ゆきさんからのリクエストは、忍服屋シリーズでゲンマのヤキモチでした。
シリアス系のお話も考えたんですが、信頼し合う二人にはこちらの方が似合うかなと思いまして。
このシリーズのゲンマは、先に真相を確かめるだろうしね。
だからかわいいヤキモチにしてみました。

そしてこのお話の話をしていましたら、金鳳花さんとのコラボになりましたのです!
金鳳花さんの所のカカシ夢に、このシリーズヒロイン、デフォルト名瑠衣ちゃんが出てきますv
勿論ゲンマも。
そしてお話も繋がってますよ〜。
奈菜ちゃんは、金鳳花さんの宅カカシ夢のヒロインちゃんです。
そちらも併せてお楽しみ下さいませv
(繋がってるお話は「Jealousy to the pumpkin」です)
金鳳花さんのサイトはこちら→

リクエストして下さいました ゆきさん、ありがとう!
金鳳花さん楽しかったよ!

ゆきさんを代表致しまして、そして金鳳花さんと、このお話を楽しんで下さった方々に捧げます!



MIDI タカラモノ