の部屋に入って、リビングの明かりを点ければ、
自分がお預けを食らった元凶とゲンマは視線を交えた。

そこに居る見た事のない来客に首を傾げつつ、姿勢を正し、ちょこんと座る姿は可愛くないわけではない。
もう、この諸悪の根源とでも謂うべき存在は、自分の待ち望む相手が帰宅した事を分かっているのだろう。
ゲンマがの客だという事も。
警戒心を露わにする事はせず、白い尻尾が右左に揺れていた。

少し遅れて、ゲンマの後から入って来たを見るなり、その顔色は一気に華やいで。


『 お前もおんなじか 』


ゲンマは同士に会ったような、それでいて軽い嫉妬を感じるような、妙な気分に苦笑しながらも、
部屋の一角に貰った自分のスペースでを待つ子犬に挨拶をした。
ゲンマらしく、片手を上げて、「ヨッ!」と声を掛けて。








Jealousy to the puppy







寂しがり屋だなどと聞いていたから、を見るなり、足元に纏わり付くだろうとゲンマは思ってはいたが、
子犬はそんな素振りを見せず、自分の寝床から、を見つめている。
が右に動けば右に、左に動けば左にその首は動き、姿が見えなくなれば、そこで止まる。
その間のは、子犬をかまう事無く、帰宅後行う一連の動作をしていた。
鍵をボードの上に置いてみたり、二人分の着替えを用意してみたり。
脱衣所に着替えを置いたがリビングに戻れば、四つの瞳が出迎える。

「さっきから、なぁに?」

この発言に、“ずっと見てるけど”という言葉が付け加えられている事が、ゲンマには分かった。

「あ、別に」

いつもの軽口が出て来ない事に、ゲンマ自身が驚く。
何となく、調子が狂うのだ。

「ゲンマの匂い、この部屋に沢山あるだろうから、やっぱり警戒しないね。よかった」

そう言うなり、はゲンマの横を通り過ぎ、子犬の傍まで行くと、
水の入った皿と空になった皿を持って、またゲンマの横を通り過ぎた。

そう言われればそうだ。
お互いの部屋の私物はかなり多い。
比重は勿論自宅の方が高いが、暮らそうと思えば暮らせる程に揃っているし、匂いも染み込んでいるだろう。
犬は匂いで人を追えるのだから、この部屋の残り香は相当な物の筈。

そんな風に納得していれば、新しい水を持ったが子犬の前に座った。

子犬の尻尾はエンジン全開。
引き千切れて、吹っ飛んでしまいそうな程に動いている。

こうも聞いた事があると、ゲンマは頭の中の資料を引っ張り出す。
帰宅後すぐに可愛がってやっては、あまりよろしくないと。
子犬のしつけやらに関する知識として曖昧にだがあった。
服従行為の一種であり、本能であるが、人間と生活する上でよろしくない事。
たしか、漏らすんだったよな。
ゲンマが心の中で呟いていると、子犬の望むそれはやっと幕を開けた。

「はたけクンただいまー!」

が声を掛け子犬の頭を撫でれば、相手は犬言葉で挨拶し、手の平に自分の頭を擦り寄せている。

「ワンワン!!」

兎に角嬉しそうに。
の手を舐めて、ゴロゴロと転がって、腹を見せて。
そして置き上がれば、の腕に前足を乗せた。
抱き上げてくれと言わんばかりに。
も自然と子犬を抱きあげ、立てた膝の上に乗せながら、鼻先を合わせた。

「イイ子でお留守番出来たね。エライ、エライ」

褒められた事は犬にも伝わる。
やはり嬉しいのか、子犬はの頬を舐め、が身を捩れば、首筋へと場所を変えるだけで、舐める事を止めない。

「きゃ!くすぐったいよ……はたけクン」

相手はチビ犬だというのに。
なぜか無償に腹が立つ。
その原因の一つがさっきから気になる、アレ。
はたけクンという呼び名だ。
ペットを飼い主の苗字で呼ぶ事は多々あるが、はたけクンというのが、どうも頂けない。

ゲンマが水でも飲んでこようとその場から離れるために、身を翻せば、
の口から出た吐息とも思える声を耳が拾う。

「んっ……もう…だめだったら」

グラスを手に取る前で良かった。
ゲンマの背中はフルフルと震え、握られた拳がワナワナと小刻みに揺れている。
グラスなぞ持っていたら、きっと粉々に砕けていただろう。


『 ったく、あの犬使い!!!! 』


セクハラ犬預けやがって!
明確にこうゲンマの心が叫んだのではないが、心に宿った気持はこれだ。
ゲンマは忘れている。
子犬がスキンシップを求める事も、甘え上手な事も。

「しょうがないな〜〜。お化粧落としてないんだから、舐めちゃだめだよー」

背後で子犬を床に下ろし、寝床の横に置いてあったおもちゃをが揺らす音がする。

化粧品で犬が腹を壊すかなどとは分からぬが、

『 化粧をしてなければ舐め放題なのか! 』

とゲンマの脳は誤変換を起こしていた。
はそうは言っていないのだけれど。

衣擦れの音がして、が近づいてくる気配がする。

「ゲンマはどうする?お風呂用意してないけど、シャワー浴び…るっ?!」

振り向き様にの背中と後頭部に手を回し、ゲンマは唇を奪った。

奥深く、激しいキスに酔いしれながら、は少し反省する。
僅かな間だったけれど、ゲンマを蔑ろにしていた。
したつもりはないけれど、結果そうなってしまった気がする。
はゲンマのキスに身を委ねながら、両腕を伸ばして彼の首筋に絡めた。
ゲンマの髪に沈む指先。
自分の方へと導くように込められる力。
ゲンマが追いかけるように絡めていた舌にも、同じだけの激しさを返して、二人は濃厚なキスを楽しんだ。

「ゲンマ、大〜好き」

唇が離れて、ゲンマの腕の中にすっぽりと収まりながら、は再び目を瞑った。

はたけクンの事を話した時のゲンマ。
そして今のゲンマ。
そのどちらもが、味わいたかったゲンマのヤキモチなのだ。
対象が子犬であるし、カカシとの関係も分かっているから、彼の口はあからさまな言葉を語らないけれど。
忍服と、逞しい筋肉の内側はざわめいている。
その隠しているざわめきを、態々表に引っ張り出して、指摘し訂正するなんて事はしなくていい。
それを払拭する言葉と態度を彼に向ければいいのだ。

「さっきっから、そればっかりだな」

口から出た素っ気ない言葉とは裏腹に、その声色は喜んだ色をしていて、を閉じ込める腕がきゅっと締まる。

「いいじゃない。本当の事なんだから」

がニッコリ笑って見上げれば、微笑み返したゲンマの唇が再び降りて来た。



「じゃ、先に浴びてきちゃうね」
「おう」

唇が離れて、シャワーを浴びるかの問いにゲンマが答えれば、その腕を軽く叩かれた。
その場所を態とらしく摩って、ゲンマはを見送る。

任務終了後シャワーを浴びたのだが、此処に来る時、重い物を持ったから、一汗掻いたとゲンマは述べた。
だからもう一度浴びると。
其れが叩かれた理由。

忍として熱く、それでいて冷静沈着、全てを見通す千里眼を持つような男でも、
の前ではただの男の顔がチラホラ浮かび出てくる。
ゲンマだって嫉妬もすれば、茶化す事もするのだ。

スタスタと自室の様に恋人の部屋を歩き、ゲンマは子犬の前で胡坐を掻いた。

「俺と勝負するか?」

ロープのおもちゃを持って、挑んだ微笑みを見せれば、子犬は嬉しそうに返事をして、尾っぽを振った。

「オラ、オラ。お前結構、力あんな」

ゲンマとはたけクンの力比べ。
ロープに噛みついた“はたけ”は勢いよく頭を振り、ゲンマから奪おうとする。
あまり力を入れ過ぎて引っ張っては、歯が折れやしないかと思うのだが、はたけは楽しそうだ。
だが、ここは負けてやる訳にはいかない。
力を緩めてやる事はしても、ヤツの歯が少し浮いた隙を狙って、ゲンマは引っ張り抜く。
人間対犬としても、そして違う思いでも、勝たねばならない。

「俺の勝ち!」

はたけから奪ったロープを高々と上げてゲンマが言えば、ヤツは再戦を申し込む。
最終的には必ずゲンマが勝つ勝負を何度かした後、はたけが持って来たのは、
が作ったであろう布性のボールだった。
木の葉ベストと共布で作られたボールには、木の葉マークの刺繍。
ゲンマが馴染んだ感触のボールをポンと投げれば、それを嬉しそうにはたけが取りに行く。
右、左とフェイントをかけ、何度も投げているうちに、甘い香りに包まれたが戻って来た。

「遊んであげてるの?」

を見ながら、「あぁ」と軽く返事をしてゲンマは立ち上がり
隣に立ったは、「良かったね」と子犬に微笑む。

「でももう寝なくちゃね。はたけクン、おやすみ」

もう人間の言葉が理解出来るのか、それとも雰囲気と体内時計で察するのか、
小さな忍犬は大人しく従い、寝床に寝そべる。

「ゲンマもシャワー浴びるんでしょ?」

そう話すの足も、頷くゲンマの足も、自然とリビングの外へ向かった。
壁のスイッチを切る寸前に、もう一度おやすみと声を掛けて、二人は扉を閉める。
廊下に向かい合わせにあるのは、寝室と風呂場。
そしてトイレ。
ゲンマはリビングから出ると、すぐさまを抱え上げた。

「アレ??」
「浴びるって。ただお前をベットに運ぶだけ」

豪邸に住んでいるのではないから、言い終わらぬ内に寝室のドアは開き、
ゲンマが言い終わった頃には、ベットに置かれていた。
明かりは消したまま。
鳥の如く空を飛ぶ輩が居ない限り、近隣の建物から覗き見される心配のない窓。
そこからは綺麗な月が浮かんでいた。

ベットの端に座ったゲンマが、唇に一つキスを送る。
上体を起こして、の額に置かれていた右手が首筋に伸びた。
中指が顎を擽り、また首に戻って、鎖骨へと降りて行く。

「この後ナニするか、分かってるよな」
「あ、まぁ、そりゃ、ね」

スタッカートの様に歯切れは良くないが、細切れに答える
この後とは、ゲンマがシャワーを浴びた後の事だと、雰囲気で分かる。

「どうやって抱くと思う?」
「……は、あ、い?!」

この三文字に、分かるわけないだろうという語彙が含まれるのは、言わなくても分かるだろう。

「優しくか。激しくか。それとも思いっきり焦らすか」

そう言いながらゲンマの指先が胸の膨らみへと進んで行く。
山を登り、でも頂きには登らず、その周囲を指の腹が旋回する。
ブラをしていない其処を隠すのは、薄い布一枚。
滑る指先は布を擦るカサカサとした音を立てて、早く動き始めた。

「……………っ」

文字を書くように不規則に動く指先が時折乳首を掠めて、また離れて行く。

「お前の全身、舐め回してやろうか?」

ゲンマの言葉に秘部がヒクリと蠢いた。
乳首を掠める指先だけで、もう其処は熱くなっていたというのに。

「ここだけに集中するってのもいいかもな」

とうとう頂点に登った指は、其処を攻略しに掛かった。

「音立てて舐め回して、しゃぶりついて。どうだ、。気持ち良さそうだろう?」
「…んっ……」

熱くざわめき立つ秘部はもう湿っていて、隙間から汁が滲み出してくるのがよく分かる。
自然と下腹に力が入り、ぬかるんだ襞の感触がじれったい。

「そんで此処は…」

左手が柔々と胸を揉み始め、乳首への悪戯を止めた右手はゆっくりと下へ移動し、秘部を覆う。
全体を包み込んだと思えば、クレバスへと押し付けられる中指。
それが次第に上下へと動き始めた。

「しばらく放っておく」

布二枚を通しても其処は、熱く湿っている事をゲンマの指先に伝えた。

「あ・・・んっ……」
「俺が出てくるまで考えてろよ。どうやって、抱かれるのかをな」

パッと一斉に手を離したゲンマは、の額にキスを落とし、そそくさと部屋から出て行った。


─── 辛ぇだろ?


よくお預けを喰らうゲンマのお仕置き。
いつもは忠実な男も、たまには仕返しをするのだ。

だけれど布越しとは云え、やわらかなの感触は手の平に残っているし、熱く湿った場所は
愛液をたっぷりと湛えていたのが分かる。
キスをして、白い乳房を揉み、色づいた乳首を吸い上げる。
乳首を舐め回しながら、手を伸ばし、愛液の行き届いたクリトリスを撫でて一回イかせるのもいい。

寸前で止め、襞の間を降りた中指をゆっくり膣内に埋め込んで。
締まり、押し返す感触を楽しみながら解し、もう一本増やして行く。
ヌルヌルしとした感触に心地良さを感じつつ、クチャクチャとナカを掻きまわして。
膣内のザラつきでイかせるか、親指でクリトリスも攻めるか、
そんな贅沢な選択に迷い、しがみつくの表情を楽しむ。

それとも宣言通り、舐めつくそうか。
全身にキスをして、舌先を滑らせ、最後まで取って置いた場所へ辿り着くのは、のおねだりを聞いてから。
そしてクレバスに沿って舌を動かし、クリトリスを縦横する。
濡れそぼった溝を両手で広げ、自分の唾液との愛液を混じらせながら、ピンク色した肉襞の感触を味わう。
ぴちゃぴちゃと音をたてながら舐め、溢れてくる愛液を、これもまた音をたてて啜るのだ。
ゆっくり楽しんだ後は、激しく。
それこそ、しゃぶり付くように。
卑猥な言葉を使い、の其処がどうだかを教えてやる。
そうすれば羞恥に震えるの両足はゲンマを挿み、閉じられるだろう。
それをまたやんわりと、開かせ貪るのだ。

最後の最後は、溢れる愛液の坩堝に己の肉塊を捻じ込んで、ぐちゃぐちゃと攻めまくる。

自分の下で喘ぐは可愛く、そして愛おしい。
独占欲も、支配欲も、全ての欲求が満たされ、愛してるという想いを全身で伝える。


早くに包まれたい。

そんな想いの象徴が、脈打ち、跳ねた。


─── ・・・・・・・・・・・・辛ぇ〜…


ゲンマは忘れていた。
こうすれば、自分にも跳ね返って来る事を。
お預けを喰らった肉棒は、早く外に出せと言わんばかりに、忍服を押し上げている。

薄明かりの下に零れるゲンマの溜息。
自業自得と謂えるそれと共に、ゲンマは浴室へと入って行った。







2008/08/17 かえで

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すいませ〜ん;ヘタレ気味ゲンマになってしまいました;;