hooked up with my boo!
(ラビアレ/801/R18ですので苦手な方・18歳未満は回れ右)
弾む呼吸はふたりぶん。鼓動は耳奥で煩く騒ぎ、触れられた箇所から湧き上がった熱を全身へと運んでいく。急かすように巡ったそれらはアレンの手足を痺れさせ、ずいぶん前に抵抗する力を奪っていた。たまらずに壁に手を付いた拍子に響いた短い金属音に驚いて肩を震わせると、後ろからアレンを襲う男が嗤った気配がした。
狭い、個室だ。そもそも用を足すための空間であって、ふたりいっしょに居ること自体、ふつうじゃありえない。
どうしてこんなことになったのだろう__しっとり湿った掌がむなしく壁を滑っていくのを止められずに、アレンは溶けかけた思考の隅でそんなことを思った。
「...なに、考えてんの」
なんて敏い。余所事を考えるのを許さないというように、首筋をねっとりと舐め上げられる。思わず喉の奥から声が洩れた。彼はアレンの弱いところも感じるところも、ぜんぶ知っているし一寸の狂いもなく憶えている。きっとこうした痴態だってしっかり記憶されているに違いなかった。そんなことにまで
「...っら、びぃ......」 懸命に堪えている唇の隙間から、殺しきれなかった嬌声が零れ落ちた。
ラビの指がアレンの中に潜り込んで来る。泣く間のようにしゃくり上げると、 「いつまでたっても慣れないのな」 ほんの少し上擦った声がアレンの耳を掠めた。
「だ...って、きもち、わ...る......」 そう呟き息を吐いたところでさらに奥に。痛みが走り、神経を焼いて脳を揺さぶる。強張ったアレンを解き解すためか前に触れる手も背に落とされる唇もひどくやさしい所作だった。ただラビに抱かれるとき、その場所だけがやさしくない。シーツの感触もベッドの軋む音もアレンには無縁だった。声を殺すことばかり上手くなっていく。甘い言葉を囁くことも、相手の名を呼ぶことすらままならない行為が、そのままふたりの関係のようでほんの少し哀しい。
「ほらまた、よそごと」 ラビの両手が苛める。青年らしくかっちりとした胸に抱きしめられる。頭の奥からきぃんと耳鳴りが響いて、視界がぐわんと揺れた。目の前にある白と、薄汚れた壁、明かり取りの窓から射す陽がつくるぼんやりとした影が混じって奇妙な明滅を繰り返す。跳ねる鼓動が送り込んだ熱はアレン自身を膨張させ、ラビへの想いでそれは濡れた。自分の足で立っているのかどうかでさえ、もうアレンにはわからない。ひんやりしていたはずの陶器はもう温かった。それでもそこへしがみ付くことしかできない。
軋む音が反響している。便座の蓋なのか、自らの身体か、歪んだ関係に悲鳴を上げる心の音か。どれかはわからない。わからなくていいとアレンは思った。痛みが波及した先で咲く花にようやっと手が届き、深く長く息を吐いた。辿り着いたのなら、あとはもうどうだって良かった。思考は白に染まる。
――きもちよくなりたい。
薄く色づいた背が艶かしく撓るのを、ラビは片頬を歪めながら見た。
――やっとアレンがその気になった。落ちていった。手に包んだモノから溢れる蜜が粘り気を増して卑猥な音を狭い空間に響かせる。切なげに啼くアレンの声は常よりやや高いトーンを擦って、まるきり女の子のようだった。そんなところも可愛くてラビは気に入っている。女のようだと揶揄えば、不満そうに口を尖らす姿は容易に想像できた。...だから、かわいいんだ。
湿り気を帯びて首筋に張り付いた白髪を鼻で払い、真っ赤に染まった耳殻に唇を寄せる。挿し入れた指先はアレンの内がやわらかくあたたかに解けていくのを確かに伝えた。微かに震える背を見下ろし、ラビは満足げに息を吐くと顔を振り汗を飛ばした。
乱暴だということはわかっていたけれど、その可哀想な悲鳴が聴きたくてラビはひと息に身体を割った。
予想の通りに隠しようのない声が上がり、涙が舞い散ったのをラビは見た。腰を引いて突くたびにアレンは震え、途切れ途切れに息を吸い、あられもなく声が洩れた。先に絶頂を迎えたアレンの内壁がきゅっと締まると、ラビの視界もぐんと狭くなった。剥き出しの背に額を押し付けると、馴染んだ匂いがラビを包んだ。高まった体温で立つ、アレンの匂いだ。しっとりと甘い。花の蜜のような、薫り高い植物のような、ふしぎな匂い。好きだと叫びたくなる。
(アレン、アレン、アレン...っ)
たぶん聴こえていない、だから名前を呼べる。ちいさく叫び、想いを注ぐ。弛緩した身体がやさしくラビを受け止めて、いだかれる。上がった熱がゆるやかに冷めていく過程で、ラビの形にアレンの身体がしっくりと馴染んでいった。やがて隙間ができ、互いが異物でしかなくなるのが辛い。
――オレたちこんなに近づけるのに、
――どうしてもひとつにはなれない。
ラビが苦い思いを噛み締めながら身を引くと、白さが眩しい内股を溢れた体液が伝い、アレンの肢体は力なくトイレの蓋の上へくず折れた。
アレンがようやく息を整える頃には、ラビはすっかり情交の色を表情から消し去っていた。どこかぼんやりとしたままの表情で見上げるアレンに笑みを零す。やさしく、機嫌良く映るように。人懐っこく愛想の良いラビの笑顔を前にして、アレンは急激に頭が冷えていくのを感じた。
ああ、ぼくたちは、
どうしたって、――ひとりでしかないの。
「じゃあ
わずかに掠れた声で囁かれ、アレンは大きく胸震わせる。キスが欲しい。せめて額にだけでも、してくれたなら...
手早く身づくろいして個室の鍵を開けるラビの背を引き止める言葉すら漏らせない。
おのれの裡でいつかを期待して暴れるけものの牙に心を裂かれながら、アレンはすすり泣く代わりに自らの額に爪を立てた。
(ただのやまなしおちなしいみなしをしようと思ってもシリアスにがたがた傾いていく思考が情けない)