Hi peeps! U

 オレはラビ、雑種の犬だ。体はオレンジに近い赤毛で、右の目はちょっと視力が悪い。でも慣れたとこならぶつからず歩けるし、ぴんと立ったかっこいいオレの耳や鼻はじゅうぶん目の代わりになった。だから不自由なんてことはない。だけどご主人様__ユウはオレが目の悪いことになんか長いこと気付いていなくて、仔犬の頃はよく壁にぶつかるおっちょこちょいなヤツだと思っていたらしい。失礼しちゃうさ!
 さてそんなデキる犬・ラビさまの目の前では、例の白猫がころころしていた。
 ......他になんて云えばいいんさー...だってころころしてんだもん。少なくともオレにはそう見える。たとい仔猫が一所懸命あっちへ行ったりこっちへ逃げたりしてるとしてもだ。
 白い仔猫__ユウの友達が名付けたところによる“アレン”は、つい数日前にユウが連れてきた。捨て猫だ。やってきたとき薄汚れて灰色だった毛並みは、ユウが手を引っ掻かれながらも丁寧に洗ったおかげで(お前感謝しろよなー)、白くてふわふわしている。たんぽぽの綿毛みたいだ。陽だまりで寝ているアレンの背を突付くと、ちょっと湿っぽくてあまい匂いがする。赤ん坊の匂いだな。最初はドブみたいに臭かったのに。良かったなぁ、アレン。そう思って背を舐めてやるとアレンはいつもびっくりして爪を引っ掛けるので、オレの鼻や口元はちょっと傷だらけだ。フンフン鼻を鳴らしていたら、ユウに頭を撫でられた。宥めるような手付きで。オレそんな怒ってねーよ、大人だからな! ...ユウが珍しくおやつくれたからって機嫌直したわけじゃないぞ! くそ、わらってんじゃねー。

 そんなこんなで、オレたちはいま病院に来てる。オレもここは好きじゃないけど、今回の診察のメインはどちらかと云えばアレンだったから少し平気だ。仔猫はたぶん、自分がどこに連れてこられて何をされるのかわからず きょとん としていた。ただ家とは違う場所に来て、オレやユウ以外に動物も人間もいっぱいいて、落ち着かないらしい。さっきから床に伏せてお行儀良く待ってるオレ(なーユウ誉めて!)と、待合室のソファに座って待つユウの足元をうろうろしている。時々響く悲鳴や声にいちいち毛を逆立てては暗がりに飛んで隠れた。なぁユウ、はやくケージ買ってやった方がいいじゃないかな...なんかコイツ、一度逃げたら戻ってこなさそう。
 ようやくユウとオレとアレンの名前が呼ばれた。ユウは無表情に仔猫の白い首筋を引っ掴んだ。その手は抜群の力加減でアレンを捕まえていて、まるで白いぬいぐるみを持ってるみたいだった。不安そうなアレンと目が合って、オレはべつに怖くないんだぞと教えてやるために耳をぱたぱたして応えた。

 診察室では、眼鏡をかけた男が待っていた。 「やあ神田君、猫だって?」 白い服を着た男は云った。こいついつもやなことするんさ。オレは黙ってユウの足元に寄った。
「拾った。とりあえず色々診ろ。」 ユウは掴んだままのアレンを ひょい と男に渡した。台の上でアレンがどれだけ暴れたかはわからないが、相当梃子摺っているようだ、ということだけはわかった。だって悲鳴とかすごかったもん。
「ちょっと神田君飼い主なら押さえるの手伝ってよ!」「ああ? 面倒くせぇ」
 テメー医者だろそんくらいしっかりやれよ。ユウは吐き捨てて、台に乗せられた仔猫を無言でじろりと一瞥した。ああなんかすごい威嚇の声がする。が、がんばれー。




(人間神田さんと飼い犬ラビと捨て猫アレンさんのおはなし/つづきません唐突に終わる)