Your satisfaction! / YU-GI-OH!

(ラビアレでレッツ・デュエル!)





 赤いスリーブに入れた魂のデッキを相手に差し出す。代わりに、アレンは白いスリーブのデッキをラビに手渡した。手早くカットし、また交換する。帰ってきた自分のデッキを、二人はフィールドの右側にセットした。
 アレンがダイスを掌でもてあそぶ。ポーカーをする時とまったく同じ笑みで、彼はラビを見据えた。負けじとラビもアレンを睨み返し、己のダイスを握りしめる。
 言葉を発したのは、両者同時だった。
 「ダイスロール
 正六面体がフィールドに躍る。
 回転するダイスを、ラビは固唾を呑んで見守った。ダイスロール――先攻・後攻を決める神聖なる儀式。権利を手に入れられるのは、より大きな出目を出した者。
 やがてダイスの運動エネルギーが尽き、運命が姿を現わにした。
 ラビのダイスは6。
 アレンのダイスは――4。
 「っしゃ! 先攻は貰うさ、アレン!」
 「……ほんと、ダイスの出目だけはいいんですね」
 ぶんむくれたアレンがダイスを横に除ける。アレンはもう何十回とデュエルをしているが、未だにダイスロールで先攻決定権を手にしたことはなかった。
 ラビがエクストラデッキをフィールドの左側にセットする。それを見とめたアレンは僅かに目を細めた。……シンクロか、融合か。いずれにしろ油断はならない。
 二人の間に火花が散る。イノセンスを発動する時のように、彼らは素早く動いた。
 「デュエル!
 それぞれデッキから5枚カードをめくる。1ターン目、先攻はラビ。
 「俺のターン、ドロー!
 1枚追加され、6枚になった手札はまずまずの揃いだった。《ジャンク・シンクロン》、《ボルト・ヘッジホッグ》、《ニトロ・シンクロン》、《ターレット・ウォリアー》、《エンジェル・リフト》、《くず鉄のかかし》。モンスターカードが4枚と罠カードが2枚というのは一見アンバランスだが、デッキ構成からして罠を多用する仕様なため問題ない。
 ラビは針の代わりにボルトの生えているハリネズミのカードを右手に取った。
 「モンスターをセット。リバースカード1枚伏せて、ターンエンドさ」
 先攻1ターン目は攻撃できない。ラビは《ボルト・ヘッジホッグ》をセットし、《くず鉄のかかし》――相手モンスターの攻撃を無効にする罠を伏せた。
 完璧な布陣に思わず笑みが零れる。次のターン、ラビは《ジャンク・ウォリアー》を格好良く召喚できるはずだ。魔法・罠除去カードを懸念して、蘇生カード《エンジェル・リフト》を伏せなかったから、ダイレクトアタックは二度までしか防げない。しかし、《ボルト・ヘッジホッグ》が破壊されても、《ジャンク・シンクロン》を召喚すればその効果で《ボルト・ヘッジホッグ》は蘇生する。シンクロ召喚は必ず成功するだろう。たとえ《ジャンク・ウォリアー》より高攻撃力なモンスターをアレンが召喚していたとしても、ラビの手札には《ターレット・ウォリアー》がいる。シンクロ召喚した《ジャンク・ウォリアー》をリリースして、《ターレット・ウォリアー》を特殊召喚すれば……その効果により、《ターレット》の攻撃力1200に《ジャンク・ウォリアー》の攻撃力がプラスされ、3500になる。
 (俺に隙はないさ、アレン!)
 「じゃあ僕のターンですね。ドロー。……手札から魔法カード、《テラ・フォーミング》を発動。デッキからフィールド魔法1枚を手札に加えます。僕は《死皇帝の陵墓》を選択、続いて発動します」
 「……ん?」
 ちょっと嫌な予感がして、ラビは手札を持つ手に力を込めた。《死皇帝の陵墓》は、アドバンス召喚に必要なモンスターの数X1000LPをコストに、リリースなしで上級モンスターを通常召喚できるフィールド魔法である。コスト消費が痛いが、その分高攻撃力モンスターをはべらせることができるのだ。ということは、
 (短期決戦タイプと見た!)
 内心びびりつつ、ラビは次にアレンの打つ手を待った。
 「じゃあ2000ライフ払いますね。えい、《地縛神アスラピスク》召喚」
 …………。
 「アリかー!!!」
 「ちょっ、なんですかラビ。いきなり大声出さないでくださいよ」
 「だって……おまっ……それはいくらなんでも……」
 「駄々こねないでください。はいバトル行きまーす、《アスラピスク》でダイレクトアタック。2500のダメージ」
 「……っ!」
 高層ビル程もあるでっかい鳥の幻影が、なんとなく見えた気がした。
 地縛神はフィールド魔法がある限りほぼ無敵のモンスターだ。その性能は凄まじいの一言に尽きる。場に一体しか存在できないものの、相手はこのカードを攻撃対象にすることはできないし、また地縛神は相手プレイヤーに直接攻撃をすることができる。
 まあ、倒すことが不可能な訳ではないのだが。魔法・罠効くし。
 「リバースカードオープン! 《くず鉄のかかし》で攻撃無効!」
 「ちっ」
 「☆10モンスター出して舌打ちすんな頼むから!」
 「……魔法カード、《フィールドバリア》発動します。カード3枚伏せてエンドです」
 「あ、あっぶなー……」
 胸を撫で下ろすが、危機が去ったわけではない。というか、依然ピンチなままである。
 なんとかして地縛神を退けなければ。フィールド魔法を消して地縛神の効果を失くすのは手間がかかる。となると除去しか手はない。破壊、バウンス、コントロール奪取……。
 「サレンダーしてもいいですよ」
 「3ターン目で?!」
 ドロー。引いたのは《ガード・ブロック》。戦闘ダメージを0にし、1枚ドローできるカードである。
 (よし!)
 くず鉄は一度使用した後再びセットされる罠だ。だが、罠はセットされたターン使えない。アレンが新たなモンスターを召喚するとも限らないので、保険は必要だった。
 さらに、アスラピスクは場から離れた時、相手モンスターを全て破壊し、その数X800Pダメージをライフに与える効果がある。迂闊に踏み込んではいけない。
 ここは、他モンスターの攻撃に備えるしか道はなかった。
 「俺は手札から《ジャンク・シンクロン》を召喚!」
 ☆3のチューナーモンスターを召喚し、ラビは《ボルト・ヘッジホッグ》を反転召喚させた。
 「☆2《ボルト・ヘッジホッグ》に、☆3《ジャンク・シンクロン》をチューニング! 集いし星が新たな力を呼び起こす。光射す道となれ! 出でよ、《ジャンク・ウォリアー!》」
 エクストラデッキから選んだ一枚をフィールドに叩きつけ、ラビはさらに手札から《ターレット・ウォリアー》をかざした。
 「そして、《ジャンク・ウォリアー》をリリース!」
 「おや」
 アレンが軽く目を瞠った。せっかく召喚したモンスターを墓地へ送るとは、さすがに予想外だったようだ。
 「戦士族のジャンクをリリースして特殊召喚したターレットは、その攻撃力分自分の攻撃力を上げるんさ! 今のターレットは攻撃力3500! 社長の嫁より強いさ!」
 「ラビ、滅多なことを言うと殺されますよ」
 「……じ、地縛神を倒せなくてもこれで他のモンスターは倒せるさ! 俺の守りは鉄壁さー」
 「ふぅん
 アレンがどこかで聞いたような音で笑った。実に余裕綽々である。あまり鉄壁でもなんでもないのでは、と暗に言われた気がして、ラビは小さくなった。
 「た、ターンエンドさ」
 「あ、エンドサイクします。そっちの、」
 と告げて、アレンはセットされた《くず鉄のかかし》を指差した。
 「罠を破壊しますね」
 「え」
 固まるラビを余所に速攻魔法サイクロンが無慈悲に発動する。
 最強の盾を呆気なく奪われて呆然とするラビに、アレンは嫣然と告げた。
 「ラビ。……もっと満足させてくださいよ
 これじゃつまんないでしょう?
 場に2枚、手札1枚のラビを見下して、アレンはデッキに指をかけた。
 「僕のターン、ドロー。……手札から、《N・エアハミングバード》を召喚」
 「キモチュッチュ? ……そうか、回復か」
 「正解です。まあ、あんまり足しにはなりませんけど」
 エアハミングバード、通称キモチュッチュは相手の手札X500Pライフを回復できる。アレンはLP6000から6500に回復すると、残り2枚となったリバースカードの片方を表にした。
 「本当の狙いはこちらですよ。罠カード《ゴッドバード・アタック》発動。自分フィールド上の鳥獣族を一体破壊して、」
 可愛くないハチドリを墓地に送った指が、ラビの場を指す。
 「相手の場のカードを2枚破壊します」
 「なん……だと……?!
 「バトルです! 《アスラピスク》でダイレクトアタック!」
 「ぎゃあああ! 鬼! AKUMA!!
 がら空きとなった場に、アスラピスクの長い嘴が突き刺さる。LPを5500まで削られ、手札一枚となったラビはがっくりと崩れ落ちた。
 「ふはははは、踊れラビ! 死のダンスを!
 「……オ、俺の……リスペクトファンデッキが……」
 「僕の地縛神デッキに、某蟹デッキが敵うと思っていたんですか? 甘いですねラビ、せめてBFを作って挑んでください」
 「ガチじゃねぇかそれ!」
 「いやですねえ人聞きの悪い。テーマデッキですよ?」
 「可愛く首傾げても騙されねぇぞ俺は! BFは酷い!」
 ぷうと膨れたアレンは、残り1枚となっていた手札を魔法・罠ゾーンにセットした。LP6500、モンスター1体、リバースカード2枚。そろそろ手札補充が欲しくなる頃合だろうか。
 ラビもそれは同じだ。場には何も無く、手札は《ニトロ・シンクロン》一枚のみ。……シンクロに頼った結果がこれだよ!
 それでも、ラビは諦めていなかった。最後の最後まで、カードを信じて闘い抜く……それこそが、デュエリストの魂!
 「信じれば、デッキは必ず応えてくれる……
 デッキの一番上のカードに手をかけ、ラビは先人の教えを口にした。デュエリストならば誰もが大なり小なり持っている特殊能力――ドロースキル。ドロースキルを自由自在に操れてこそ、真のデュエリスト。
 ここでデスティニードローできなくば、ラビは終わりだ。
 起死回生のカードを引くしかない。自モンスターがいなくなった今こそ、ミラフォやグレイモアを……!
 「俺の……ターン!!」


 間。


 「……突っ伏して泣いてるくらいならエンド宣言してください」
 「わ、わかってたさ……現実はそんなに甘くないって……」
 「デュエルの世界にハンパな気持ちで入ってくるからですよ」
 「えっそうなの? そういうもんなの?」
 アイドルカードの《ロードランナー》を引いても、嬉しいけど嬉しくない。
 負け試合だなこりゃ、と諦めて、ラビは壁モンスターも伏せずにターンを終了させた。
 アレンがドローする。カードに目を落とすと、彼はふっと笑った。
 「これで、僕の勝利へと続くロードは完成する。手札のD.D.クロウの効果発動。このカードを墓地に送ることで、相手の墓地のカード一枚を除外する。僕は《ボルト・ヘッジホッグ》を選択」
 「泣きっ面に蜂?!」
 「まだまだ、これからですよ。リバースカード《闇の誘惑》を発動。デッキから2枚カードをドローし、その後手札から闇属性モンスター1枚を除外します。……ドロー、」
 緊張した面持ちでアレンがカードを繰る。2枚目を手にし――彼は、ゆっくりと瞼を閉じた。
 「《ステルスバード》を、除外」
 強力なライフバーン効果を持つモンスターが除外される。アレンの意図が読めずに、ラビは身を固くした。
 「そして、墓地の闇属性・風属性モンスターを一体ずつ除外! 降臨せよ、《ダーク・シムルグ》!」
 「攻撃力2700ぅ!?」
 「バトル! 《アスラピスク》と《ダーク・シムルグ》でダイレクト・アタック!」
 「くっ! け、けど合計攻撃力は5200、俺のライフは300残るさ!」
 アニメなら鉄壁状態で逆転フラグなところだ。
 しかし現実とは非情なものである。
 アレンは最後の伏せカードをめくって、ギロチン台の刃を落とした。
 「攻撃宣言時に速攻魔法発動します。《アスラピスク》に《突進》」
 「え」
 「攻撃力700UP。合計ダメージ5900。はい勝ったー」
 「……っ!」
 電卓がぱちぱち鳴って、『−400』のアラビア数字が表示される。力なくくず折れたラビが、「俺の……何が悪かったっていうんだ……」と呟いたが、アレンはもう聞いちゃいなかった。ご機嫌でカードをまとめ始めている。
 「デュエル前の約束覚えてますよね? 《アンティルール》! 《プリズマー》もらいますからね、ラビ。……って、あれ」
 ふとアレンが顔を上げる。最前までは確かに存在していた決闘者は、どこにもいなかった。
 デッキだけを残し、ラビは音を立てずに消え去っていた。
 まったく気配を読み取れなかったアレンは、しばらく口を開けて呆けていた。が、みるみるうちに白皙に血が昇っていく。乱暴に立ち上がると、彼はもぬけの殻となった椅子を口汚く罵って蹴り飛ばした。




 「――あの腐れ眼帯逃げやがった!」




(...妹にラビアレ強請ったら書いてくれたよ第二弾笑)