Dance in winter-sky;Lost asterism.


 ああ、ううん__意識を取り戻すのが先か、声が洩れたのが先か__失血によるブラックアウトから復帰したアレンは、自身の呻き声をみっともないなとぼんやり思った。なんだっけ、ぼくはどうしたんだっけ__霞のかかった思考でぐるぐると考え続け、ああそうだ任務移動中に攻撃を受けて、車が崖から落ちたのだった、と思い至る。
 そろりと左手を動かす/指先から肩にかけて激痛が走り抜け、骨折くらいならいいけど腱や筋肉まで損傷していると厄介だなと思う。本部には優秀な医療スタッフもいるけれど、彼らだって魔法のように創傷をなかったことにできるものではないし。リハビリにかかる時間も考えると、完治させて任務に再び復帰するのにいったいどれくらいブランクするのかと予想してぞっとした。そんなに待っていられない。僕が休んでいる間も、戦場が消えて無くなるわけじゃないのに。いくら傷を治すために必要な時間だと云われても、アレン・ウォーカーにとってはただ苦痛の刻だ。そんなことを云おうものなら、リナリーあたりにワーカホリックだわと呆れられるに違いない。でも僕はこの戦場のために生まれ、戦場は僕を必要とする__理由などとっくの昔に忘れてしまいそうだった。まさか自分が養父との約束を忘れるわけもないけれど。
 ああ、星が綺麗だ__こんな風に夜空を見上げることなど久しくしていなかった。養父がまだ存命のころは、彼に肩車されながら彼の語る星座と星のはなしなぞ聞いていたのに。冬の大三角はどれとどれとどれを結ぶのだったのだっけ。ふたたびぼんやりとしながらアレンは呟いた。とにかくなにかを考えていようと思った。比較的無事らしい右手で、団服のいちばん上のボタンを探る__エマージェンシー用の発信機のスィッチをオン。内耳に装着しているはずの無線機は沈黙したままで、やっぱり落下の衝撃で壊れたかなとひとりごつ。発信機が作動したことを示す高デシベルが短く鼓膜を震わせるのを確認して、アレンはふたたび三角形を夜空に描くことに集中した。本部の監視衛星が、運良く頭上を通れば発見も早いだろうに。
 べつに星になぞ興味はなかった。興味があったのは__好きだったのは養父だ。彼の声も表情も仕草ひとつも、アレンのちいさな胸を奥の奥から震わす愛__キラキラ輝くダイヤモンドのような。いまはもう、星の瞬きより遠く儚い想い出だけれど。アレンの見上げる空には、目印になるようなポラリスは見えない__あれはもっとうしろにあるはずだった。北の空はどうしたってアレンには見られない。後ろを振り返ることができないからだ。

 「...だから、ぼくはずっと、迷子のままだよ...マナ、」




(お星さまとアレンくんのはなしリベンジ/現代版黒の教団パロ/シリウス→プロキオン→ポルックス→カストル→カペラ→アルデバラン→リゲル=冬のダイヤモンドの完成です)