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Attractive dry wine


夕方5時。

閑静な住宅街の一角にあるフレンチレストラン『Chez Soi(シェ・ソワ)』が

今日もオープンの時間を迎えた。

昔の建物を改築した2階建てのこの店は、

白壁に木の柱、アーチ型の窓枠には煉瓦を使っていて、

オープンと同時にライトアップされるちょっとお洒落な外観に、

女性のお客様から大変好評をいただいている。

シェフ3人と1人のソムリエ、7人のウェイター・ウェイトレスが

お客様を迎え入れた。



****************



「カトウ君、今日店長は来るのかい?」



厨房に入ったシェフの俺、加藤剛志(カトウツヨシ)に尋ねて来たのは

ソムリエの夏川重巳(ナツカワシゲミ)さん。

俺より15歳以上年上ながら、いまだその魅力的な容姿と

『独身』という言葉に釣られた女性のファンを増やし、

そしてその人当たりの良さ、知識と話題の豊富さ、

肌理の細かい配慮によって男性ファンをも増やすという凄腕のシニアソムリエだ。



「8時近くになるそうですが、来ると言っていましたよ。」


「わかった。来たら私に知らせてくれるかい?


今日は望月商事の社長ご夫妻がいらっしゃるから。」


「わかりました。すぐに知らせます。」


「頼むよ。」



そう言って厨房を出て行くナツカワさんの後姿を見送る。

所々に白髪が混じってはいるもののサラッとした少し長めの髪に、

笑い皺が浮かんだ目元、

少し細めのその体に黒いソムリエエプロンをきっちり巻いて、

店内を颯爽と歩く姿には本当に見惚れてしまう。


でも、普段はすごく物腰が柔らかいのに、お客様の事やサービスなどに関して、

自分の信念を絶対曲げないという気の強い一面を見せる事もあり、

そのギャップがまた堪らない。

ソムリエの更に上であるシニアソムリエの称号を持つ、

ナツカワさんならではの人生経験がそこに表れているのだと思う。

ナツカワさんが店に来て以来、俺はすっかりその魅力に取り付かれていた。




ちなみに店長というのは俺の父の事だが、

父は25年以上もシェフとして一流ホテルで働いて来た。

息子の俺が同じ道を目指し、

専門学校を卒業して1年間都内のホテルで働いた後、

2年間のフランス修行を終えて帰ってくると同時にこの店を立ち上げた。

元々は父のように一流ホテルで働きたかったのだが、

フランスの三ツ星レストランで修行もさせてもらったし、

何よりフランスから帰ってきたばかりの俺は

逆に日本の良さがわかるという利点もあって、

父と協力しながらこの店をやっていこうと決めた。


ここで働くようになって3年。

自分の思い上がりや腕の足りなさを痛感させられる日々ではあるものの、

先輩シェフに助けてもらいながら、何とか順調に客足を伸ばしてきた。


数ヶ月前から俺の案で、季節ごとの厳選された日本の素材を使い、

フランス料理の技法を駆使してつくったメニューを出すようにした所、

それが口コミで広がって、いまや半年先の予約も満杯状態だ。


父も安心したようで、今は俺と残る2人のシェフに料理をすっかり任せ、

自分は経営の方に専念するかたわら、

時折顔を出しては来て下さったお客様に挨拶にまわっている。


だがここまで予約が満杯なのは、当然俺の案のせいだけではない。

1年前父のシェフ仲間の紹介でここに来た、ナツカワさんのおかげが大きい。

『ソムリエがいるレストラン』というだけで最近は人気が出る店も多いのに、

ナツカワさんがいるおかげでどんどんこの店のファンは増えている。


ここには世界中から集められた300種類以上のワインを扱っているのだが、

お客様の要望に合ったワインを瞬時に選んで用意してくれるし、

全てのワインに関する知識もとても豊富で、話が上手だった。


俺も負けてはいられない。

もっとしっかりお客様にご満足いただけるような料理を作れるようになって、

少しでもナツカワさんに追いつかなくては。

・・・ナツカワさんに俺を認めて貰う為に・・・




お客様の応対をしながらも、テキパキと店の者に指示を与えるナツカワさんを、

時々厨房から覗き見る。

今はウェイターの子がヘマをしたらしく、

バーカウンターの影で注意をしているようだ。

普段のとても優しい顔と、

お客様の事に関しては妥協を許さない厳しい顔の両面を持つナツカワさんは、

彼に薦められて以来俺が好んで飲むようになった、

とてもフルーティな辛口ワインに良く似ていると思う。


本日のオススメである、

スズキや手長海老などを使ったブイヤベースを盛り付ける。

軽いけれど魚貝の旨みが凝縮されたこれは俺の得意料理で、

25年以上もシェフをやってきた父である店長のお墨付きもいただいていた。

お客様にも好評で、これを目当てに来てくださる方も少なくない。

そしてこの料理にはナツカワさんが選ぶ、

南フランス産の辛口の白ワインがとても合う。


ワインと料理は切っても切り離せない関係。

ソムリエであるナツカワさんとシェフである俺も、ただ仕事の上だけではなく、

プライベートでも切り離せない関係になりたかった・・・



****************



午前1時。

午後11時にラストオーダーを終えた後、お客様も全て帰られて、

片付けを終えた店のスタッフ達も帰っていく。

父である店長は途中来て下さったお客様と外出したまま戻って来なかった。

今店に残っているのは明日の打ち合わせしている俺とナツカワさんのみ。


俺達は毎晩店が終わった後に、

こうして二人で翌日のコース料理や仕入れなどについて話すのだが、

何せ経費削減の為店内の電気はほとんど全て消し、

唯一ライトをつけたままにしてあるバーカウンターで、

隣り合って座りながら打ち合わせするので、

そろそろ俺の理性が働かなくなりそうだった。



「明日はいい牡蠣が入ってくるので、

せっかくですから生で出してレモンを絞ろうと思うんですが。」


「じゃあシャンパーニュの辛口を少し足しておくかな。

グラタンなんかは作らないのかい?

この前は火を通した牡蠣じゃないと食べられないお客様がいただろう?」


「そうですね。すいません。じゃあ生が苦手な方の為に幾つか用意します。」


「そうだね。それならホワイトソースに合う

手頃なプルミエ・クリュあたりもちょっと足して・・・」



ナツカワさんはいつも持ち歩いている手帳に一つ一つ丁寧に書き込んでいく。

右隣に座っている俺からは、少し白髪交じりの前髪が、

伏せた睫毛にかかる横顔が見えた。


・・・こんなに長い睫毛だったんだ・・・


気が付いた時には手が伸びていた。

ナツカワさんはふと顔を上げ、自分に向かって伸びてくる俺の手を一瞬見た後、



「な、何だ?私の顔に何かついているのかい?」


と、慌てたように顔を引いた。


・・・・耳が少し赤い・・・?


いつもは冷静なナツカワさんが、何故か耳を赤くしてうろたえている。

俺はそのまま何も言わずに手を伸ばして、

ボールペンを持っている右手首を掴んだ。



「ちょ、ちょっとカトウ君、止めないか・・・!」



更に顔を赤くさせながら、俺の手から逃れようと必死だ。

でも170cm弱で細身のナツカワさんと、

179cmで筋肉質の俺とでは力の差は歴然。

かと言って、もちろん俺は無理やりナツカワさんを

自分のモノにしようと思っている訳ではない。

ただ俺がナツカワさんを好きな事に気がついてほしかった。

それも友達や先輩に対して好きだと思う感情とは違う、

恋愛感情であるという事に・・・



「・・・ナツカワさん、少しだけ俺が貴方に触れるのを許してもらえませんか・・・?」


「な、な、何を言っているんだ!カトウ君は男で私も男だよ?

どう考えてもおかしいだろう?」


「おかしいと思われようが、この際ホモといわれようが何でもいい。

俺は貴方が好きなんです。」



掴んだ細い手首を痛くないように、けれど放さないように握りなおし、

真っ直ぐにその目を見詰めた。

ナツカワさんは俺の目を見て一瞬息を飲む。

でもすぐに厳しい顔をして俺を睨みつけ、

再度俺の手から逃れようとしながら言葉を返してきた。



「いい加減にしないか!私がキミよりいくつ年上だと思っているんだい?!

26歳のキミより18年も多く生きているんだよ?

そんなオジサン相手に何を言っているんだ?」



「歳なんか関係ありません。

俺は一人の男として、男である貴方を好きになった、ただそれだけです。」



俺はナツカワさんから目を逸らさず、自分の本心を伝えた。

俺だって正直悩まなかったわけではない。

だけど、それでもナツカワさんを好きだと思う気持ちは止められないし、

触れたくて堪らないと思う気持ちは、

恋愛感情以外の何物でもないとわかったから。

たかが男だからとか歳が違うからとか、

そんな理由だけで俺の気持ちは変えられない。



「・・・まったくキミって人は・・・」



そう呟いて目を逸らしたナツカワさんは、俺に掴まれている右手から力を抜いた。

そして自分の手首を掴んでいる俺の手に左手でそっと触れる。

俺は呆然としてただそれを見ているだけだった。



「・・・カトウ君、どうしてキミは私の心をそんなに揺す振るのだろう?

私がどれだけキミを好きだと思う気持ちを抑えてきたかわかるかい?

こんなオジサンが、

20歳近くも年下のキミを見る度に年甲斐もなくドキドキしてきた、

その気持ちを自分で認めない為に、どれだけ努力してきたかわかるかい?」



一瞬何を言われたのかわからなかったが、ナツカワさんがゆっくり顔を下げて、

俺の手にキスをした時、ようやく理解出来た。


・・・ナツカワさんも俺の事を好きでいてくれた・・・


掴んでいた手首を離し、その手でそのまま顔を上げたナツカワさんの頬に触れる。

確かに20代には敵わないかもしれないが、

それでも44歳には思えないほどしっとりと俺の手に吸い付いてくる。



「ナツカワさん、本当に俺でいいんですか・・・?」


再度確かめようと聞く俺に


「・・・剛志(ツヨシ)君、私の名前は重巳(シゲミ)だよ・・・」



と言って、プイッと視線を逸らして頬を赤く染める。

そんな態度が愛しくて堪らないと思った。

俺は両手でその赤い頬を挟む。



「やっと思いが通じました。大切にしますよ、重巳さん・・・」



目尻の皺に薄くのった涙を唇で掬い取った後、微かに震える唇にキスをした・・・



****************



翌日も夕方5時に『Chez Soi(シェ・ソワ)』がオープンの時間を迎える。

相変わらず忙しく、一見普段と何も変わらず過ぎていく時間。

ただ少しだけ違うのは。



今日のソムリエは、いつもより少し甘めのワインを選んでいた・・・


− 完 −


2005/06/14 by KAZUKI


  ※Attractive dry wine : 魅力的な辛口ワイン



ハル様、この度はキリ番GETしていただいて、誠にありがとうございました!

「シェフ×ソムリエ オヤジ受  シェフは25歳ぐらいで大型犬みたいな人
ソムリエは40代前半の気の強い感じで・・・・・
もちろんハッピーエンドでお願いします。」

とのリク内容、全くもってうまくいってません!(泣)
大型犬でもないし気が強くもないし・・・
いくらでも直しますので遠慮なく言ってください!