『まだ? が好き??』


僕のストレス解消方、
書庫の窓から中庭のゴミ箱に空き缶を投げ入れる事。
コーラの赤い缶がゴミ箱の中でワンバウンドして
カランと小気味良い音を立てたら最高!!
入らなかったら少しムカつくけど。

今までは週に一度の昼寝時間を隣の司書室の喧騒に
邪魔された時のみの行事だった缶投げが、
1週間前からはわざわざ放課後にも加わった。
原因は「皆瀬司と橋本忍」の事をいちいち報告してくる
“彼”=ストレスの元である隣の司書室(へや)の喧騒の現況の一部
=「我が校の生徒会長様」のせいだ。
昨日も誰もが少しゆうつになる日曜日の午後5時半に

件名:目撃(@_@;)
本文:皆瀬&橋本カップルは四丁目のスーパーで
   鰤・大根・水菜・うどん・昆布醤油を購入、
   本日の夕飯はコタツに入って差し向かいで鰤しゃぶらしい。
   皆瀬はデザートの
   “心も体も温まって頬をピンク色にした橋本”
   までペロッと完食するであろう。
                            以上

なんてわざわざメールして下さったせいで、
怒りのあまり毎週欠かさず楽しみにしている
「笑点」の「大喜利」での木○蔵師匠の姿を見逃したし、
それを見越してか、今朝昇降口で会った時には
「昨日また“や〜ね〜(屋根)”お客さんに先越されていたぞ」
 (※笑点を見ていないと解らないネタですみません)
と耳打ちして去っていった。
生徒会長は絶対、「笑点占い」では「楽○郎」だっ。
ちなみに僕は歌○師匠だから相性は最悪。
そんな訳で本日の放課後も空き缶投げをする為に書庫に向かった。

なのに、隣の司書室からは何故か昼休み恒例なはずの
「生徒会長の告白へのお断り劇場」が開催されていた。
「僕の事好きになれないのはわかりました。
 最後に思い出としてキスしてください」
この声は今年の可愛い子ベスト10に入っていた子だ。
(もちろん1位はダントツで橋本だけど。)
「ごめんね、キスは好きな子としかしない事に決めているから。
 それ以外なら出来るけど?」
って生徒会長会長(おまえ)は悪魔かっ。
「かっ かいちょぅ...」
ため息混じりの甘い声だして、おいおい自分を大切にしろよ(怒)
でも、橋本にあんな事をした僕には言う資格が無いかもしれない
けど今は凄く後悔しているから余計にイラつく。
「う・る・さい!!」
ってどなる代わりにまだ空けてないコーラを窓の外に投げる。
「ガラガラ ガッシャン」
かなり耳障りで大きな音をたてて缶はゴミ箱を倒した。
「隣に誰か居るみたいだけど良い?」
僕が居るのを知っているはずなのに、
さも今気付いたみたいな生徒会長(あくま)の余裕の台詞。
流石に音と気配にビックリした相手の子はそそくさと
司書室を出て行った。

「ご協力ご苦労様」
司書室とつながっている書庫の扉が開いて
生徒会長(あくま)がニヤリと人の悪い笑みを浮かべながら入ってくる。
告白への断りと僕への嫌がらせが一度に出来て一石二鳥って
思っているんだろうなこの顔は。
一言いってやらないと気がすまないぞ。
「毎回僕がここに居る事を解っているくせに、
 隣に誰か居るみたいだけど良いなんてしらじらしい。
 それと抱く気も無いのにあんな事言うな。
 あんな事ばっかりいっているのにどうして真面目で
 品行方正なんて思われているんだお前は。」
「そりゃぁ日頃の行いの良さだろ。
 わざと嫌われる様にして悪役になって諦めさせているって
 相手が勝手に勘違いしてますますファンが増えてくから
 困っているんだよ俺は。」
なんて言いながら僕の飲みかけのコーラを口にする。
「そのコーラは僕の、飲みたかったら自分で買って来いよ。」
生徒会長(あくま)から缶と取り返すと中身はほとんど無くなっていた。
「炭酸が苦手で飲みきれないのを助けてやったんだろう。
 どうせお前は赤いコーラの空き缶を白い網のゴミ箱に
 投げたいだけなんだから。
 ほら、飲んでくれてありがとうございましたは?」
なんで白い網製のゴミ箱に赤いコーラの缶の色の組み合わせが
好きってだけで苦手な炭酸飲料のコーラをわざわざ買っている事を
しっているんだ?
というより炭酸飲料が苦手なんて子供っぽく感じて誰にも
知られないようにしていたのにいつ気付いた?
「そんな意外そうな顔するな。
 別に炭酸飲料とコーヒーが嫌いな事は嗜好の問題で
 子供っぽいなんて高校生にもなって誰も思わないさ。
 まあ、子供っぽいかもと隠している方が子供な証拠
 かもしれないけどな。」
なんていいながら人の頭を撫でてくる。
コーヒー嫌いな事まで知られているのと子供あつかいされた事に
ムカついて頭を撫でている手を払いのけ睨み付けると
生徒会長(あくま)はコーラの缶を手にとり残りを一気に飲み干した
かに見えた...が、あろうことか僕に口移してきた。
「こうして飲むと甘いだろう。
 でもこれの方が熟れていて甘そうだ。」
今度は僕の唇をゆったりと舐め指でなぞる。
びっくりしすぎて固まっていると、いつのまにか生徒会長(あくま)
の手が背中から腰へとなでながら下りてきた。
おいおいその触り方は“オヤジ入ってるぞ”なんて
のん気に思っていたらスッと指先で背筋をなぞられ、
思わずカクンと腰が落ちた。
「俺に抱きしめられると腰が砕けちゃうほど気持ち良いのかい?
 でもこっちの方がもっと気持ち良いと思うよ。」
ニヤリと悪魔の微笑みを浮かべながらまた顔が近づいてくるのを
僕は蛇に睨まれた蛙状態で避ける事が出来ない。
想定外の事ばかり起こったせいで、頭が理解する事を拒否した
みたいで、僕は生徒会長(あくま)の顔が離れて行くのをぼんやりと眺めていた。

「痛い。」
気付くと生徒会長(あくま)の指が僕の額を弾いていた。
「あんまりアホ面して意識飛ばしていたから正気にもどらせて
 やったぞ。ありがとうございましたは?」
だからってデコピンは無いだろう。
それも赤く痕が残るくらい思いっきり。
僕が悔しすぎて言葉がとっさにでてこなくて口をパクパクさせて
いると、生徒会長(あくま)はまたニヤリと笑い僕の頭を子供を
あやす様にポンポンと軽く2回たたき書庫を出て行った。
「クッ悔しい〜」
何も言い返せずされるがままだった自分と余裕シャクシャクで
出て行った生徒会長(あくま)に腹を立てて、
僕は空になったコーラの缶を窓の外に投げる。
すると、
「ちやんと倒したゴミ箱を起こして散らばった缶と
 今捨てた缶片付けとけよ。」
と笑いを含んだ声が廊下に響いた。

本日も完敗。

僕はゴミ箱を片付ける為に書庫を後にした。


「はい、“鈍い吉永先輩が生徒会長の気持ちに気付かない”
 に賭けた高梨と雅史と皆瀬の勝ち。」
俺が英語準備室から書庫の一角のやり取りに気付いたのは2週間前。
それ以来高梨兄弟と皆瀬と忍、そして準備室の主の雅史も
巻き込んで
“吉永先輩が生徒会長の気持ちに気付き落とされる日はいつか”
の賭けを楽しんでいる。
皆瀬には忍が後から結果報告をする。
ちなみに負けた人は勝った人のお願いを一つ聞くのが商品だ。
毎回なぜかカップル同士で逆に賭けるから自分の相手以外の商品は
みんな辞退している。
まあどう楽しんでいるかはご想像にお任せするけどね。
俺が気付いた初日から生徒会長には観察しているのが
バレていたけど、忍の事件への迷惑料として黙認どころか
情報提供までしてくれている。
やはりあの人の事は理解不可能だし絶対敵にまわしたくない。
だからといって味方にいても困るけど。
そんな事を考えていたらメールで本日の情報提供が届いた。

件名:鈍いにもほどがある
本文:日曜日はネタ提供感謝する。
   本日の秀明情報は、
   当て馬に「キスは好きな子としかしない」
   と言っているのを聞いているはずなのにナゼ気付かない?
   鈍いにもほどがあるという事だ。
   でもそこが可愛い所だったりするのだが。
   明日の賭けのヒントになるかな?

さくっと惚気てる。
恋は盲目。
生徒会長も人の子って事だね。
このまま行けば卒業式まで気付かないかもしれないけど、
クリスマスとバレンタインデイに生徒会長がどう仕掛けるか。
俺たち6人はまだまだ楽しい冬をすごせそうだ。



KAZUKIが間違いなくそらや様にお届けしますので
感想等何でも書いてくださいね♪(改行できます)