シノブ雨降りクマの子ものがたり
あるところに、とあるお山がありました。
そのお山には、クマの小さな学校がありました。そこではクマの子たちが、今日も仲良くお勉強をしています。
「この動詞を活用させると…」
美人でクールと人気者のヨドガワ先生が授業をしているところです。
「いてっ!!」
いたずら好きのサトルがヨドガワ先生に今日も教科書で叩かれています。
ヨドガワ先生は顔を少し赤らめながら、
「それは消しとけよ。」
と言っています。
それを後ろの席で見ていたカナデが、クスクスと笑っています。
カナデの隣では、双子のヒビキがあきれた顔でサトルを見ています。
サトルの席の隣では、シノブが不思議そうな顔でサトルとヨドガワ先生を交互に見ていました。
これが、クマの学校のいつもの授業風景です。
下校時間になりました。
クマの子たちはいそいそと帰り支度をしています。
「シノブ!今日は公園に集合な。」
既に帰り支度をしていたサトルが声をかけてきました。
サトル、ヒビキ、カナデ、シノブは仲良し4人組です。
どうやら今日は公園で遊ぶようです。
「わかったー。また後でねー!」
そう言ってシノブは、急いで教室を出て行きました。
その後姿をヒビキとカナデが顔を見合わせて笑いながら見送っていました。シノブの家ではツカサという恋人が待っているのを知っているからです。
彼らはいつもこの5人で遊んでいます。
さて、シノブが山道を下りながら家に向かって走っている途中、ザーっとものすごい雨が降ってきました。前が見えなくなるほどの雨です。
仕方がないので、シノブは木の下で雨宿りをすることにしました。
雨は止むこともなく、あとからあとから降ってきます。
この激しい雨では今日は遊べなくなるのかもしれないとシノブは不安に思いました。
するとどうでしょう!さっきまで勢いよく降っていた雨がだんだんと小雨になり、目の前には小さな川ができていて、ちょろちょろと流れています。
シノブは嬉しくなって小川に近づいて覗いてみました。
「お魚さんがいないかなー?」
けれど、小川は少し濁っていて魚がいるかどうか分かりません。
シノブはそれでも諦めずに、ずっと覗いて見ていました。
皆と遊ぶ約束をしたことも忘れて…
そのころ、公園でシノブを待っていたヒビキ達は、シノブが来ないので心配していました。
不安になった3人は、シノブの家に行くことにしました。
3人が訪ねてみると、シノブの家でもツカサが心配して落ちつかなそうにしていました。
「お前達と遊んでたんじゃないのか?」
とツカサが尋ねると、
「お前といちゃいちゃしてたんだと思ってたぞ。」
とサトルが答えました。
4人は不安になって手分けしてシノブを探すことにしました。
さて、そのころシノブはというと、小雨の中まだ飽きずに小川を眺めていました。濁っていた小川もだんだん透き通ってきていました。
ずっと小川を眺めていたシノブはのどが渇いてきました。コップがないので手ですくって飲もうとしたところ、
「汚いから飲むんじゃない。」
と後ろから声をかけられました。
声の主に驚いて振り返ってみると、大きな黒い傘をさしたツカサが、眉間に少し皺を寄せて立っていました。
「お前の帰りが遅いから皆、心配してたぞ。」
そう言われて、シノブは皆と遊ぶ約束をしていたことに気付きました。
「ごめんなさい…。」
シノブは素直に謝りました。
「俺だけじゃなく、皆にも謝らないとな。」
とツカサは少し厳しく言いました。
「うん…。本当にごめんなさい。」
泣きながら、シノブはもう一度謝りました。
「分かったならいい。次からは、ちゃんと家に帰ってくるんだぞ」
今度は普段の優しい声だったので、シノブは顔を上げてツカサの顔を見ました。微笑んで許してくれたツカサに、嬉しくなってシノブは抱きつきました。そして、
「探してくれてありがとう。」
と心を込めてお礼を言いました。
ツカサは皆に電話をして、シノブが見つかったことを知らせると、皆喜んでいました。
皆に電話口で謝ると、
「無事でよかったよー。」とカナデに泣かれ、
「寄り道するなよ。」とヒビキに注意され、
「ミナセが見つけると思ってた。」とサトルにからかわれ、
「体を冷やしたままにするんじゃないぞ。」とヨドガワ先生に心配されました。
どうやら、ヨドガワ先生も探してくれたようです。
シノブは皆にお礼を言って、明日こそ公園で遊ぶ約束をしました。
皆に許してもらい嬉しくなったシノブは、大好きな雨の中、黄色い傘をさしてスキップしながら家に向かっていました。
靴はピッチピッチチャップチャップと音を立てながら水を弾いています。
しばらく行くと、柳の木の下で雨が止むのを待っているヨシナガ先輩がいました。
シノブはヨシナガ先輩に駆け寄り、自分の黄色い傘を貸してあげました。
「いいのかな?」
とヨシナガ先輩は申し訳なさそうに尋ねてきましたが、シノブは満面の笑顔でこう言いました。
「いいんです。僕はツカサの傘に入れてもらうから!」
ヨシナガ先輩がふとシノブの背後を見ると、いつの間にやらツカサが来ていて、シノブを自分の黒い大きな傘の中に入れようとしていました。
「じゃあ、有り難く借りるよ。」
そう言うと、シノブは嬉しそうに
「はい!」
と言って、帰って行きました。
ツカサに肩を抱かれたシノブの靴からは、ピッチピッチチャップチャップと弾んだ音が聞こえてきます。
こうして、シノブはツカサと相合傘をして、無事家に帰りました。
小さなお山のとあるクマの子のお話でした…おしまい。
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