シノブ小型戦闘機ものがたり
今日も太陽はぴかぴかと輝き、雲ひとつない晴天です。ツカサ空港で出発の準備をしているシノブ小型戦闘機の調子も絶好調です。
どうやら飛び立つ準備ができたようです。ツカサ空港の司令塔から合図が出ました。
「シノブ、準備が完了したぞ。いつでも飛び立っていいぞ。」
「うん、わかった。」
シノブ小型戦闘機はエンジンをかけて、滑走路へと移動しました。徐々にスピードを上げ、飛び立つ体制に入ります。
「じゃあ、行ってくるね!!」
機体がふわっと浮かび、そこからすぐに加速したシノブ小型戦闘機は、今日も元気に大空への冒険に飛び立ちました。シノブ小型戦闘機が飛び立った跡には、ひとすじの白い綺麗な飛行機雲がまっすぐと伸びていました。
今日はどんなことがシノブ小型戦闘機を待ち受けているのでしょうか?シノブ小型戦闘機は、ワクワクする気持ちを抑え切れません。そのワクワクとした気持ちがシノブ小型戦闘機の爆弾となり、その機体からは多くの爆弾が地上へと振りまかれました。
地上では多くの人々が、その爆弾の影響を受けていました。慌てている人もいれば、顔を赤らめている人、今日も降ってきたと避けるのを諦めている人など、色々な人がさまざまな反応をしていました。けれど、迷惑がっている人は1人もいませんでした。
その頃、ツカサ空港の司令塔から『ヨドガワ先生』という名前の地上特別隊に、いつものように連絡が入りました。
「ヨドガワ先生、さっきシノブが飛び立ちました。よろしくお願いします。」
連絡を受け取ったヨドガワ先生もいつものように「わかりました」と答えて、シノブ小型戦闘機の後始末をしに出かけました。
「今日は何だか多いな。」
そう呟いたヨドガワ先生の目の前には、爆弾の影響を受けた人が、いつもより多くふわふわと空中に浮いていました。シノブ小型戦闘機は、昨日の晩にいいことがあったようです。
ヨドガワ先生は空中に浮いている人を地面に降ろしながら、飛行機雲に沿って浮かんでいる人達を助けてあげるために、シノブ小型戦闘機の後を追うのでした。
ヨドガワ先生の去った後、無事地上に落りた人たちの足下からは、なぜかアルプスの少女ハイジ調の「♪スプリング・マーチ♪」が流れてくるのでした。その曲は地上に降りた人たちだけでなく、周囲の人たちまでスキップしたくなるような気持ちにさせるのです。ですから、村人達はいつも楽しい気持ちで1日を過ごすことができたのでした。
突然、順調に飛んでいたシノブ小型戦闘機の前から、『野次』という名前の突風が吹いてきました。しかし、『特別隊』と呼ばれる3機のプロテクターがシノブ小型戦闘機の周囲にあって、シノブ小型戦闘機をいつも守ってくれているので大丈夫です。それらは1機ずつに名前があり、1機を『ヒビキ』といい、もう1機を『カナデ』といい、最後の1機を『サトル』といいました。3機の特別隊はいとも簡単に野次を他所へ飛ばしてしまいました。シノブ小型戦闘機はそんなことには気付かず、速度を少しも落とさないで飛んでいきます。
そんなシノブ小型戦闘機に大きな危険が迫っていました。それは特別隊にも追い払えないような、大きな大きな危険です。
とうとう危険のすぐ傍までやってきてしまいました。シノブ小型戦闘機は、『ヨシナガ先輩』と呼ばれるバミューダー海域に入ってしまいました。
前方には厚い雲が立ち込め、何も見えなくなり、シノブ小型戦闘機の機体はガタガタと揺れ始めました。方向を示していたレーダーは映らなくなり、計測器もおかしくなっています。シノブ小型戦闘機はパニックに陥りました。
「シノブ!!シノブ!!!」
そのとき、通信機からシノブ小型戦闘機を呼ぶ声が聞こえました。ツカサ空港からの連絡です。
「シノブ、大丈夫だ!真下にいるから、降りて来い!!」
そうです、ツカサ空港はいつでもどこでも離着陸できるシノブ小型戦闘機専用の空港なのです。
「ツカサーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
シノブ小型戦闘機は大きく揺れる機体を踏ん張り、ツカサ空港に向けてものすごいスピードで急降下しました。
どこまで落下したか分からなくなってきたころ、ツカサ空港の滑走路の光が見えてきました。シノブ小型戦闘機はそれでもスピードを緩めることなく、滑走路に突っ込んでいきます。そして滑走路にタイヤが触れて、初めて減速をしました。このままでは司令塔に突っ込んでしまいます。
シノブ小型戦闘機が司令塔に突っ込む直前、巨大なエアバックが司令塔から飛び出てきました。シノブ小型戦闘機はエアバックに守られ、司令塔に突っ込むことなく無事、着陸することができました。
「シノブ!!大丈夫か!?」
司令塔からシノブを心配する声が聞こえました。シノブはすぐさま小型戦闘機から降りて、司令塔へ上る階段へと向かいました。司令室に入ったシノブは、ツカサにしがみつきながら声を上げて泣きました。ツカサはそんなシノブを大事そうに抱きしめました。
「もう、大丈夫だ。よく頑張ったな。」
そう、優しく声をかけられ、シノブは安心して何度も頷きました。
涙も止まったころ、特別隊の3人とヨドガワ先生がやってきました。
シノブはツカサの胸から顔をあげ、ほっとした顔の4人に向けて言いました。
「心配かけてごめんね。ありがとう。」
シノブは分かっていました。バミューダー海域でツカサ空港と連絡を取ることができたのは、3人が通信機器だけは守ってくれていたからだと。そして、地上ではヨドガワ先生がツカサ空港と連絡を取りながら、シノブ小型戦闘機の行方を追っていてくれたことを。
「シノブが無事でよかったよ。」
とカナデが笑顔で言いました。
「親友だから、守るのは当然だ。」
その隣ではヒビキが同じ顔をして、笑ってそう言いました。
「そうそう、特別隊だからな」
照れくさそうに茶化しながら、サトルも笑っていました。
「ホットミルクでも飲んで、ゆっくり休め。」
ヨドガワ先生も優しくそう言いました。
皆の優しい笑顔と言葉に、また泣き出してしまったシノブの頭を、ツカサは優しく撫でてくれました。
友人の存在も恋人の存在もとても大切なものだと実感したシノブは、涙を袖口で拭うと、顔をあげて笑顔でもう一度言いました。
「みんな、ほんとうにありがとう!!」
シノブのその笑顔に、皆は幸せな気持ちでいっぱいになるのでした。
明日もきっと、シノブは元気に大空を飛んで皆を幸せにしてくれることでしょう。
おしまい。
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