「だから。いいって」
「空港までだろ。おれも直結のモールで買い物あるし」
「……ついでかよ」
「ついでだ」
「なら余計いいよ。仕事、締切あしただろ。こん、な……」



「見送りもしないで机に向かわせる気か? クオリティが低くなる」
「つーか、中途半端なキスすんなよ」
「じゃ、ちゃんとしたのにするか?」
「……いい。その……我慢する」
「おや。珍しいこともあるもんだ」
「だから! 帰ってきたらオレのリクエストどおり、色々してもらうから!」
「朝っぱらから可愛い奴め。早く出よう。おれが我慢できなくなる」
「堪え性ないなあ。なんだよクオリティ低くなるって。仕事はちゃんとしろよ。大人だろ」
「お前がいないと何をしていても味気ない。事実だ。情けないことに」



「お前は相変わらず荷物少ないな」
「大荷物なんて女みたいで嫌だ。足らなくなったら親父が送るって言ってた」
「お父さんでも送れないものがあるだろう」
「え。ちょ、マジで? ちょっ、やば、やば……いっ」



「……信じらんねえ」
「選別代わり。って言ったら怒るか?」
「怒るとこ、そこじゃないだろ」
「本気で怒ったのか? 荷物持ってやる」
「怒ってないよ。駐車場でのちゃんとしたキスは初めてじゃないし。車外は初だけど」
「いい子だ。ならどうしてむくれてる?」
「家族連れに見られた。ガキに指差された」
「珍しいものを見られた訳だ。旅の土産になるだろう」
「そういうこと、しれっと言うから、さ」
「うん?」
「……だからさ。離れるのヤなんだよってこと。飽きないし」
「高校生に飽きないと言われるとはな」
「……怒った?」
「どうだろう。少しむくれるかもしれない」
「なんだよその顔! ヒョットコみてえ!」
「やっと笑ったな」
「笑える心境じゃなかったし。でも、ガキっぽいよね。笑わないでいるのも」
「そんなことない」
「じゃ、選別が足りないって言ったら……?」
「ガキっぽくない。可愛いだけだ」



「ちゃんとしたのでむくれたからって、これ、やばいじゃん」
「そうか? だれにも見られなかったぞ」
「……そうじゃなくて。優しすぎ」
「悪かった。帰ってきたらリクエストに応じる。許せ」
「それじゃ遅いっての。こんなグチャグチャな気持ちで行かせるのかよ」
「男子たるものそれくらい耐えられなくてどうする」
「よく言うよ」
「行くぞ。搭乗受付が始まる」



「ありがと。ここでいいよ」
「体と防犯にはくれぐれも気をつけろ」
「……言う言葉、それでいいの?」
「他にあるか?」
「だからっ。あれだよ、ほら。ア行のアで始まる、あれ!」
「ああ。あれは今夜だ。向こうの時間の今夜だな」
「ええ? なんで夜?」
「テレフォンセックスのときまで、とっとかないと、な」
「なッ……!」
「な?」


本当に台詞ばかりで申し訳ありません。初めての台詞でお題挑戦でした。
期限つきのお別れは、ちょっと楽しくないと…と思って書きました。
というか、期限があるのは別れじゃないかもしれませんね(笑)

[09年 03月 29日 改訂]