どういうのがサンタクロースだって思う?
決まってる。トナカイのソリでやってくるアレだ。
どんな吹雪もものともせずやってくる、アレだよな。
「くそっ」
初めての赴任先を決める抽選が終わり、おれはベッドで大の字になった。
窓の向こうに広がる豊かな雪原を見やる。
「雪のないとこに飛ばすなら、学校も雪のないとこに建てればいいんだ」
極寒でも問題なく働くために、サンタクロース養成所は北方に建てられることが多い。現にここも北欧、氷の結晶が外気に溶け込むような場所にある。
南半球に行きたがる志願者はあまりいない。おれも北を望んだ。
水上バイクに乗る夢の使者なんて、子どもだって嫌だろう?
ドアの内側が軽くノックされた。同期生のひとりが腕組みして微笑む。
「南行きだって? どこだ?」
ひげからのぞく笑いじわに見とれそうになり、おれは寝返りを打って答えた。
「ブラジル」
「そうか」
しょせん他人事という声だ。北組のこいつにはどうでもいいことだよな。
南の国でデビューする仲間より、まずは自分のことだ。おれがこいつならそう思う。
「サマークリスマス万歳。花火に照らされる海がおれを迎えてくれる。最高だよ」
ベッドがきしむ。おれのすぐ横で、片想いの相手が仰向けになった。
「海面を駆けるおまえはカッコイイだろうな。子どもが憧れるぞ」
一秒もしないうちに顔がカッとなった。
サンタクロースを待つのは北国の子どもたちだけじゃない。
加護を信じる子にもそうでない子にも、その子が欲しいものを確実に届ける。
子ども部屋でシナモンミルクみたいな寝息を感じ、眠ったふりをする子にはウインクで牽制だ。
初回の授業で教わる喜びと心得を、くじ引きひとつで忘れそうになるとは。
両手で顔を覆いたい気分のおれに、笑いじわが似合う男が語りかける。
「最高だよな、俺たちの仕事」
おれは大きく伸びをした。
「ああ、最高だ。これ以上の仕事はない」
スチームヒーターで熱せられる空気がいつもよりおおらかな気がする。
ブラジルの風も、きっとこんな感じだろう。