『人』は大地に繁栄し、文明という名の栄華を極めていた。この星の主と自らを称し、多種を見下ろし虐げていた。それに終止符を打ったのが、後に『皇牙戦争』と呼ばれる事になる、人類と竜獣種と呼ばれる存在の生存を賭けた大戦争だった。

 竜獣種とは、この世界で人間以外に知識と文化を持った種族である。もっとも最初に知恵を得たとされるドラゴンの末裔である竜人『竜種』と、様々な動物がそれに追随する形で進化した獣人『獣種』の二種族で構成されていた。
 自然崇拝を唯一とする彼らには、急激に文明を発展させる代わりに自然環境を汚染する人類を理解する事が出来なかった。人類もまた、知識と文明を所有していても機械工学を嫌悪するケダモノ同然の彼らを嫌い、時には動物と同様に扱い…両者の関係は、時代が進めば進むほど悪化していった。
 人類と竜獣種の溝はこうして広がり続け、ついに関係が破綻する時が来た。キッカケは、傲慢な人類の生み出した兵器が招いた災厄…その被害者の大半は、無関係な筈の竜獣種だった。それ以前からの自然破壊や、種族差別による人類の領域での竜獣種への酷い扱いに、長い歴史の中で蓄積し、限界まで高まっていた怒りの灯火がこの事件を切欠に瞬時に燃え広がった。開戦当初、人類側は同族同士での戦争に慣れ、多数の兵器を中心とした機械工学を発展させてきた自分達の勝利は確実だと信じていた…。
 しかし、竜獣種の信じがたい身体能力と、魔法という、人間や機械には知覚できない力。そして圧倒的な戦士の数の差が当初の予測を覆した。
 武器を持たない竜獣種の誰しもが、人にとっての一騎当千。なにより竜獣種は、兵器による攻撃を緩和し防ぐ、あるいは破壊し尽くす魔法と言う名の未知の力を持っていた。だが、人にはそれが無い。自然をないがしろにしてきた彼らには、自然の恩恵である魔法を認識出来なかったのだ。魔法の前では大砲やミサイルなど意味が無く、例え魔法が無くとも竜獣種の身体能力は兵器を相手に五分の戦いを見せる。銃弾の一発や二発、食らおうとも致命傷にならない肉体。翼ある者は自力で空を駆け、戦闘機とさえ生身で渡り合う。そこに魔法が加わった時点で、人類に勝ち目などなかった。これは人の奢りが招いた結果か。大地を汚し、海を汚し、空を汚し、そして自然の力を知ろうとも、信じようともしなかった人類という存在への罰か。
 だが…人はただ敗北を受け入れはしなかった。それは悪足掻きとも狂気とも取れる、ある兵器の投入。
 『ハイブリット』
 人類の英知のすべてが結集し、生み出されたソレは人型をし、半機械半生物の兵器。そして素体に使われたのは生きたまま捕縛された、あるいは死体として回収された竜獣種だった。魔法を使う竜獣種には当然、魔法に対しての抵抗力がある。その特性を利用した一種のサイボーグ。機械を埋め込まれ、意思を奪われた同胞を仕向けられ、竜獣種もまた、復讐という狂気に誘ったのは言うまでもない。
 戦争は、どちらかが滅びねば終わらないのではないだろうか?…それが冗談では無くなるほど、戦況は悪化していた。

 皇暦3023年。そんな戦火の中に、彼らは居た。
 戦争開始から既に、三年ほどの月日が経過していた。押しては押され、また押して、その繰り返し。両者の均衡状態は続き、どちらも一歩も退けない戦況になって、どれほどの月日が経過したか。互いに軍は拡大の一途を辿り、民の多くが軍属へと徴兵され、失われていく。
 竜獣種側の軍隊。その中で翼を持つ竜種、及び鳥種、有翼獣種によって構成された空戦部隊。そこに陸上部隊の加わった空陸兵混合部隊は、常に戦場の最前線に立ち、前線を死守していた。特に軍内でも頭一つ抜きん出た戦闘プロ集団を集めた、最も敵に近く最も死に近い、国防最前線混兵師団。敬意を混め、『前線部隊』と呼ばれる彼らが、まさに現在の竜獣種の軍にとっての要となっていた。
 国防最前線混兵師団第一旅団、第二連隊隊長…それが彼の今の居場所。



「おおい、ゴイッシュ〜。んな所で一人で飯喰ってんなよ」
 そんな事じゃ部隊とのコミュニケーションが取れないだのなんだのと…背後から、いつも通りのヤケに親しげな態度で、そいつはやって来た。
「上官を呼び捨てとは感心しないな、ブネ『三等空尉』?」
 年下だとしても、一応はこの連隊を任されている身なのだが…そう言いはしても、無礼な部下の態度を気にすることもなく、簡易食を喉奥へと流し込んでゆく。
「んなもん一々気にしてないだろ、あんたは?」
 そういうのを気にする奴にはちゃんと敬意を払ってると、そいつは隣に勝手に座り、飯を広げて勝手に食べ始めた。方や連隊隊長、方や三等空尉。この階級差は大きいが、確かにゴイッシュと呼ばれた青年…つまり私は、あまり階級にこだわっていなかった。だからといって、この部下の態度は少々限度を超えていたが。
 ちらりと横目に見れば、隣に座った部下は自分とよく似た相貌をしている。同種族なのだから当然か。蒼い肉体に黒いタテガミ。後方に力強く伸びた四本の角。その姿は、この大地で最も繁栄した竜種『グランツェリン種』の標準的な見目だ。ただ、俺とこの部下は同種族だとしても、見た目が似通っていた。
「寄るな、暑苦しいだろう」
「この程度で暑苦しいとは、鍛え足りないんじゃないのか?まぁ軍服じゃあ暑いか」
「お前の存在自体が暑苦しい」
 その言葉に、酷いな…と言いはしてもまったく態度は変わらない。やはり退く気はないらしい。ただ、私自身も力ずくでこいつをこの場から追い出そうとするほど、ブネを嫌いでも苦手でもなかった。人付き合いをしようとしない自分に対し妙に積極的に絡んでくるのは、こいつくらいなものだ。変わった奴…だな、どう考えても。







 自分が軍人の見本、あるいは一般人の平均とは思っていないが、こいつ…ブネはそもそも、まったく一般の範疇に当てはまらない。
 格好からして、まともではない。本来してはならないのに軍服の上着やズボンを穿かず、ベルトと脚甲だけを装着している。他に肉体を隠すのは、パンツだけ…ほとんど露出していないか?むしろ服じゃなくなっているぞ?という具合だ。それでもギリギリ『軍服だった物』を着ているのがわかるのはここが軍隊でこいつが軍人だからとしか言いようがない。見た目通り素行もどうやらよくないようで、こちらの部隊に配属される前も、されてからも色々と噂が絶えない。
 ただ、それが性的な意味での噂ばかり。真偽のほどは分からないが、この格好を見る限りでは本当なのかもしれない。なんでも部下や上司と肉体関係を持ちまくっているらしい。しかも全員、男と来た。
 もしや、自分に接近してくるのはそういう理由からなのだろうか…気をつけねば。
「いくら小休止状態とはいえ、あまりハメを外すなよ」
「ハメを外すって、例えばどんな?」
「……」
 思いつかず、それに答える気も無い。私は黙り込んで食事の最後の一口を飲み下して無言を決め込む。それに気を悪くするでもなく、ブネもさっさと飯を平らげにかかる。
 一時の休息。しかしこの状態がいつまで続くか分からない。いまはどちらの軍勢も消耗し、それを補っている所だ。
 新たな部下と、それに伴う作戦の変更と訓練。チームワークの再構築。こうして、また民間人が軍人へと徴兵され、戦場へと向かう。いったい、いつまで続くのだろうか。この戦争は。



 私が戻ると案の定、次の作戦が開始されたと通信士が告げてくる。指令を受け取り、作戦を確認。そして空隊、陸隊それぞれのリーダーに伝令。伝令はさらに各部隊の部下達へ伝達され、その間に私と担当者達で収集された情報を元に最適な進軍ルートを検討する。
「さて、と。お前もさっさと空隊に戻れよ」
「へいへい。あんま無茶するなよ、隊長」
「知らん」
 無理はしていない。そう告げて歩み去ろうとすると、横目にブネが肩をすくめて見送っているのが見えた。


 進軍が始まる。廃墟と化した人間の街へと突入し、そこに潜んでいる敵軍の掃討が今回の任務だ。まず各自を散開させ、先行する部隊を探索に当たらせる。複数のトラップを無力化し、敵の数と兵装、配置を確認。そして、突撃。
「一人たりとも残すな!こちらの動きを伝えさせるな!」
 怯むなぁ!!
 自ら敵陣に飛び込んでゆく隊長に、部下達はいつもながら呆気に取られつつ後に続く。銃弾の中を駆け抜け、敵の眼前まで迫り、撃破していくその様はまさに鬼神の如く。猛威を振るう私が要と思ったのか、反撃せんと取り囲もうとする人間の兵士達。囲まれる前に薙ぎ払おうとした瞬間、眼前の的が吹き飛ぶ。上空から一条の凶器が襲い、暴れ回る。高速でうねり、人間の目では捕らえきれないだろうそれは、鈍く輝く鎖だった。さらに複数の鎖と雷が空から大地へと降り注ぎ、敵を貫き、薙ぎ払い、駆逐する。
 上空からの支援…誰が…など、すぐに見当がつく。いつものことだが、ブネ…要らぬ世話を。
 怯んだ敵を切り捨て、無詠唱で魔法を打ち込み続ける。詠唱しない為に威力は衰えるが、人間相手には十分な殺傷力を備える。
 大地では俺…隊長の激しい攻撃。さらにそれをサポートする、ブネの操る鎖と魔法の雷による上空からの支援に、敵軍は確実に消耗していく。それに追随する部下達は、私とそれを援護する三等空尉の戦いぶりに、見慣れている筈なのに圧倒されていた。
「さっさと他の場所の援護に行け!ここは私と他の者でどうとでもなる!!」
 上を向かずに空に叫ぶと、耳元に魔法陣が形成され、空気を振るわせながら音声を伝え始めた。
 《そうは言っても隊長が前に出すぎだと思うんだが?他の所はまだ随分後方だしよ。いくら突撃戦法だからってなぁ》
 もう少し周囲の確認もしろと耳元にブネの声が届く。すると魔法陣は変形し、視界を邪魔しない程度に拡大して、そこに幻影が映し出された。街の状況、敵軍と自軍の動き、周囲の状況と敵軍の予測行動が簡略化されて表示されている。
 その間も鎖と雷による援護は止むことがない。これだけ援護に集中しながら、索敵や警戒、状況予測まで一人でこなすとは……いつもながら良くやることだ。自分の担当でもないというのに。
「要らん世話をグダグダと…そんなに世話が焼きたいなら、副官でもしてろ!丁度空席だぞ、今は」
 会話を続けながらも互いに警戒は怠らず、確実に敵を殲滅してゆく。敵の動きがこちらについて行けず、遅れ始め、その隙をついて部下達の進軍が隊長に追いつき始めた。
 現在、この部隊に副官は存在しない。本来は居たのだが、何度か前の戦闘で戦死してしまった。争いの続く状況で新たな副官を受け入れる暇もない。仮に部隊の誰かが引き継ぐなら、部下達は全員、ブネ三等空尉を推薦するだろう。なにせ副官がいた頃から副官以上に働いていた。戦闘能力も高いが、それ以上にいつからか、部隊の情報戦の要になっている。
 突撃気味の隊長…つまり私を常にサポートし、部下達と孤立しないようにしているのも確かにブネで、実績は十分なのだが…それで三等空尉という階級なのには、ある理由があった。
 《そりゃ、軍が許さんだろ》
「戦いを遠くで傍観しているだけの上の奴らなど知るか」
 非戦闘時ならまだしも、現状でそんな承認は必要ない。この隊の中でそういう役割を担ってくれればいいだけだ。第一、副官が空席のままでも何も言ってもこないのだ。
 《なら現状のままでいいだろ…と、本命の登場だ。距離と数を送るぞ》
 早い警告だ。上空から察知したのだろう、空の遙か向こうから飛来する存在。そして人類の本命。つまりはハイブリットの部隊を。
 ハイブリットのタイプと兵装を確認されている記録から推測。数と編成、武装から行動予想。それら全てが目の前の幻影に情報として記載されていく。言わずとも、部下達にもすでに伝えているのだろう。
 まったく、ここまで出来る奴が性格や生まれで三等空尉に甘んじねばならないとは。
「陸隊はそのまま前進。空隊は上空の増援、ハイブリットを殲滅。側面隊は後方の人間を討て!」
 復唱は不要、迅速に回せ…副官扱いでこき使う事に決め、なら当然とばかりにブネに命令伝達を命じる。
 《了解。隊長…あんま進みすぎるなよ?》
 最期に余計な事を言って、ブネは空隊へと戻っていく。こういう所が上官達には不評なのだろう。さっさと行けと罵倒をお見舞いすると、向き直る。これからが本番だ。
「法撃兵は後方に、今後は支援のみに集中しろ!魔法が通じると思うなよ!」
 確かに戦闘の中心となる魔法だったが、それ故に敵の対処も早い。無防備になりがちな詠唱、その隙を突かれてはひとたまりも
 ない。魔法だけで勝とうとすれば痛い目を見るのは自分達だ。歴然とした差のある体力と近接戦闘能力。そして統率力と判断力こそが、勝利を導く。特にハイブリットは元々は同胞、魔法に対する抵抗力も竜獣種同様にある。故に人間相手ほどの効果は期待できはしないし、威力を求めて詠唱をしている暇も無い。ならば魔法攻撃を棄て、この肉体で対応するしかないのもまた現実。
「全部隊、進軍せよ!!」
 上空より襲撃するハイブリットへと剣撃を振るい、硬い装甲を強引に抉る。さすがに機械工学の発達した人類だ。どんな合金かわからぬ装甲は容易くはない。それでも、攻撃を避け、何度となく刃を走らせ、関節を狙えばどうとでもなる。手に握る剣も、戦地跡で回収した人類製の合金を加工した物だ。矛と盾が同様の素材ならば、後は使い方次第。
 動きの鈍ったハイブリットを薙ぎ倒し、動力中枢の集中する胸部を貫く。元は同胞なのだと、敵がハイブリットを使用し始めた頃は誰もが戦闘に躊躇した。だが、躊躇すれば自分達もこうなるのだと思い知った。
 こうなってしまえばもう元には戻らない、助けるには殺してしまうしかないのだ。
「許せとは言わん、安らかに眠ってくれ」
 小さな呟きは誰にも届かない。兵達にも、目の前の残骸と化したハイブリッドにも。
 部下達の様子を横目に見ると、戦闘への躊躇はもう、ない。むしろ、復讐心と怒りに囚われかけた者が多いのが問題か。怒りに駆られると咄嗟の判断が鈍くなる。理性を崩してしまったらこの戦いは勝てない。それはわかっているのだろうが、こればかりはどうしようもない。
 戦況は悪くない。このままなら力押しでもどうにかなるだろう。だが、そう簡単に事が運べば苦労はしない。そして、今回も例外ではなかった。


 《長距離からだ!ミサイル接近!気をつけろ!》
 突然響き渡るブネの声。誰もが咄嗟に上空に視線を向ける。ずば抜けた視力と魔法によるサポートで見えたのは、空に小さく小さく存在する一つの点。
 それは確実にこちらに近づいていた。
 空隊、防御を…言いかけて、しかし戦況を知り、止める。まだ上空ではハイブリットとの戦闘が続いていた。今、部隊の守りの為に魔法詠唱を始めさせれば、ただの的になる。だからといって地上部隊では上空のハイブリットに対応しきれない。そして今回の作戦、地上部隊には防御系魔法を得意とする者を少数しか配置していない。その少数の一人が、私自身だ。
「ちっ…『蒼麗なる氷結の乙女よ 古き血の盟約に従い…』」
 口から流れ、展開する呪文式。呪文構成が早いか、それとも着弾が早いか。
 私の行動を把握した部下達は、詠唱を邪魔させない為にその周囲に展開。守りを固め、耐え始める。上空では捨て身の行動に出るハイブリットとの争いが続いていた…足止めする気だろう。
 詠唱に呼応し、次々と防御壁による結界が展開されていく。広がった部隊の領域、その隅から隅まで、着弾予想地点の各所にピンポイントで展開。自身の周囲は後回しだ。いまだ戦闘を続行せざる終えない者が咄嗟に避難出来る場所だけでも一刻も早く、創らねば。
 迫る砲撃は視界の中で加速度的に大きくなっていく。ブネが計算しているのだろう。情報伝達用の幻影の中に、衝突時間がカウントされていた。
「無理、か…クソっ!総員退避!近場の結界内へ急げ!!」
 詠唱は途中で放棄できない。そして詠唱している防御系魔法、結界系統の詠唱者はその場を動く事も出来ない。それが結界系統の欠点だ。本来、こんな戦場の真っ只中で使う技ではない。それを使ってしまっているあたり、自分も今の状況に少しばかりパニックになっていたのかもしれない。カウントはどんどん減り、そろそろ地上に衝突するだろう…どれほどの爆発力なのかまで想像は出来ないが、ミサイル一発で街が消し飛んだという話も聞く。同族が戦場にいるというのに…どうやら人間の方は、すでに冷静でいられなくなったようだ。
 自身の周囲の結界の形成はどうやら間に合いそうも無い。先程まで周囲にいた部下達は結界に行くように散々命令し、残るのは私だけだ。さて、この詠唱中の無防備な状態でミサイルの爆撃をまともに受けたら…流石に死ぬか。部下達はすでに結界内へと移動したのを確認した。上空の部隊は爆風にさえ耐えられればなんとかなる。なら犠牲は自分だけ。部隊にしばらく穴を開けるが…なに、すぐにまた次の隊長が来るだろう。
 覚悟し、俺は静かに目を閉じる。もう直ぐ、来る…そう、思っていた。
 その時、上空で轟音が響き、衝撃波が大地に降り注いだ。
「なっ、何事だ!?」
 目を見開く。ミサイルは空中で爆発し、地上へと爆風が襲うが、直撃ではない。爆風にまみれながら状況を確認せんと、ブネに問うが返事はない。誤爆か。いや、いったいなにが……
 眼を凝らし、ギリギリで見えたのは飛散する金属片。そこに混じっているのは、砕けた鎖…?
 まさか…咄嗟に視線は有る筈のものを探す。だが、情報を伝えていた幻影は…ブネの魔法は消滅していた。
「あ…ぁ…ブネっ!!」
 爆発地点から落下してくる破片に混じっていたのは、確かにブネだった。四肢は損なわれてはいないが、意識を失っているらしい。まさか、あのミサイルを身体で止めたというのか?
 生きていたとしても、あの高さからの落下は致命傷だ。意識がなければ飛ぶことも出来ない。落下地点に到達する前に助けなければ、間に合わない。
 爆風が収まるより早く俺は翼を広げ、風を切り、飛翔する。落下を和らげる為の風魔法の詠唱が、両腕に圧縮した空気の層を生み出す。伸ばした両腕にかかるブネの重量感。落下の衝撃を圧縮空気が和らげていなければ、受け止められなかったかもしれない…自分より大きな、傷ついた存在を。
「え…衛生班!ブネ三等空尉を連れて後方に退け!他の重傷者も頼んだぞ!!」
 その肉体は傷だらけで大量の血を流すが、欠損した部位はなさそうだ。上下する胸と呼吸を確認する。あの爆発に巻き込まれてまだ息があるのは奇跡だが、すぐに治療しなければこのまま……命を失いかねない。
 自らを盾にしてまで俺を…隊長を守ったブネの姿に兵達は感銘を受け、士気はむしろ増していた。それに対し敵は、自分達ごと消し去ろうとした味方からのミサイルの飛来に士気を失っていた。










(竜ノ枷本文10〜17頁より。以降は本編にて)