エンフィールドは本日も平和。
いつも通り、ゆったりと時間が流れていく。
いつも通りの休日。
ジョートショップにも、平和な空気が流れていた。
「こんにちはー!」
カランカラン、と元気な音をたてて、ジョートショップのドアにつけられたカウベルが揺れる。
髪に大きな黄色いリボンを結んだ少女が店内に入ってきた。
「あっ、今日はお休み……トリーシャさん!」
「あーテディ、やっほー」
「こんにちはっス!」
「…あら、どうしたの?」
店の奥にいた主人のアリサも声をかけた。
「こんにちは!新しい服が欲しいから、幸樹とデートしようと思って。いますか?」
「…ええ」
「いるっスけど、まだぐーすか寝てるっスよ」
「そっかぁ。じゃあボクが起こしてくるよ」
そう言うとトリーシャは、ジョートショップの居候・幸樹の部屋へ向かった。
「ゆきー、入るよー」
ノックもせず、ドアをいきなり開ける。
その瞬間、
「アフロが―――!!!」
・・・・・・・・・。
意味不明な叫び声をあげながら幸樹ががばりと起き上がった。
「………意味わかんねえ!!!!」
直後、また叫ぶ幸樹。
自分の不可解な寝言にツッコミを入れたのであろう。
「俺は何の夢を見てたんだ……?」
「アハハハハハ!!!」
そうつぶやいたところで、ようやくけたたましい笑い声に気付く幸樹。
…遅いから。
「あ…?…あ、トリーシャ。おは…」
おはようと言いかけて、ハッと我に返る。
「あはは!自分の寝言にツッコミ入れてる――!あはははは!!」
「うわ……」
これから何が起こるか察して、青くなる幸樹。
「おはようトリーシャさん…何か用ですか…?」
「あははは、デートしようと思って誘いに来たんだけど、バイバーイ!」
トリーシャが部屋を出て行った。
「は!?待て!!ちょっと待て―――!!!!」
叫んだが、遅かった。
トリーシャ・フォスター。
人間スピーカー。
彼女に知られたネタ、ウワサなどは、
わずか3日ほどで街中に知れ渡る。
「………はずかちぃ…」
幸樹は部屋でひとり、顔を両手で覆い、つぶやいた。
「…トリーシャさんがなんかすごい勢いで、うれしそうに出ていったっスけど…?」
「あー……3日後にはエンフィールド中に俺の寝言が知れ渡ってるからヨロシク〜〜…」
悠久の時が流れるエンフィールド。
………そこはとても平和でのどかな街。
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2003.12.10.