Underparts
 #2 Yuri



 柄にもなく、ずいぶん落ち込んでるみたい。
 まあ、日頃嫌いだとか、早く死んでほしいとか言ってても、本当に死んだらこたえたのかな。

 なんて話しかけたらいいかわかんないけど、うちに来たってことは、
 私と全く話がしたくないってわけでもないよね。

「ずいぶん、へこんでるみたいだけど」
「……」
「やっぱ色々言ってたけど、いざそうなったら、悲しいの?」

 明ちゃんは首を横に振ってる。なんだろ?

「悲しいわけじゃないよ。悔しい」
「?」
「まだ気が済んでないのに、さっさと死なれた。
 死ぬ間際に、色々見せてやろうと思ってたのに、少しでも悔しい思いさせてやろうって…」

 しまった。つい反射的に、ひっぱたいちゃった。そのとたん、明が泣き出した。

「別に、明ちゃんが何をどう考えてようといいけどさ…。
 私巻き込んで、ムカつかせるために来たなら、帰ってくれる?」

 私、ちょっと悪いこと考えてる。
 落ちるかも。やっとこの子、落ちるかもって…。

「ふーん、泣くことなんて、あるんだね。いちおう人並みに感情あったんだ」

 いつもからは想像もつかないくらい、すごく弱気になってるみたい。
 やっぱり押してみようかな、うん。
 私が明の横に座って、手に触れてみても、今までみたいに嫌がる様子はない。


「どういう心境の変化か知らないけど…ま、いいか。気晴らしに付き合ってあげる」

 願ったりかなったりなのは表に出さないようにして、主導権は握らないと。

「じゃ、まず全部服脱いで。裸になるの。そっちだけ、だけどさ」
「え…?」

 明は拍子抜けしたような顔してる。

「私が、対等のHなんか求めてないの、知ってるでしょ? 嫌ならいいんだから」

 とは言ったけど、私はもう確信してる。言う事きくだろうって。
 結果は思ったとおり、すぐ明は全裸になった。

「いつも、毛、剃ってるの?」
「うん…」
「なんか可愛いからいいかな。今からなろうとする立場にも、何となく合ってるし。
 わかってるよね、私とこうなる意味…」

 明は黙ってうなずいた。はい、可愛いペット一匹ゲット、と。
 気分的には大金星。2年越しだもんね。


「…だめじゃん」

 大喜びで、まずはちょっと可愛がってあげようと思ったんだけど…、
 私は本気で呆れて、溜め息ついちゃった。こうくるとは思わなかった。

「私、そうブスに生まれついたつもりもないし、見た目にも気は使ってるよ。
 そんな相手に何されても反応しないなんて、普通の男の子じゃないよね」

 明は、私が何を言いたいのか、いまひとつわかってないみたい。
 だから、そのまま続けて、答えまで教えてあげる。

「明ちゃんって、男として役に立たないから、女の子の真似してるだけだったの?
 ちょっと驚いたかな。あまりにイメージと合わないから、それって。
 それなりに男の子として自信ある上で、やってるタイプだと思ってたからさ」

 どんどん意地悪言ってやる。
 身内が死んで落ち込んでる子を、それに付け込んでいじめるなんて…。
 なんだか、すごく興奮する。少し罪悪感あるけど、それよりもっと気持ちいい。


「たぶん、自分を、すごく立派なものだと思ってるよね? みんな思ってるだろうけど。
 でも、よく考えてみてね。何億年も続いてきた、生物の系図、思い浮かべてみて」

 反応がないから続けようかな。ちょっとむかついてきたし。

「あんたは折れた枝、織り込み済みのロス、死産と変わらない価値しかないんだよ!!」

 ちょっと大声出してみたら、信じられない。明、びくっとしてるの。なんか最高。
 まさか、この子が、こんな弱いとこ見せてくれるなんてね。

「ごめんね、訂正。それ以下。だって貴重な資源を浪費してるもんね」

 うつむいて黙ってる明に、私は優しく、ほんとに優しく、声をかけた。

「理解できたかなー? じゃ、それ踏まえて、宣言してね。
 僕は男として役に立たないから、せめて女の子の真似して誤魔化したいです。ってね。
 そう言ったら、カゼひかなくてすむよ?」

「……僕は」

 とだけ言って、明は地面に突っ伏して、大声で泣き出しちゃった。

 勝った。
 なにが勝ったのかわからないけど、とにかくこれは、勝った。
 意地悪な気分が、どんどん高まっていく。

「そのままずっと、裸でいたいんだ?」
「服、着させて…」
「さっきから、タメ口聞いてんじゃねーよ!!」

 私に思い切り蹴っ飛ばされて、明はよけいに大泣きしながら倒れてる。
 さすがにちょっとは可哀想だと思ったから、少し優しくしてあげる。

「まあ、頑張ったから、服着てもいいよ。本当に役に立たない男の子だけど、
 女の子もどきに化ければ少しは違うかもだし、いつまでも泣かれてても、うざいし」

 明が自分の持ってきたバッグの方を見た。でも、そうはさせない

「だめ。今日は、私が決めた服を着るの」

 どこに置いたっけかな。少し探したけど、すぐ見つかった。
 前に、発表会か合宿で誰かに着せようと思ってた、チビTと、スーパーミニ。
 事前に打診しただけで、みんな恥ずかしがって嫌がったから、お蔵入りしてた。

 私は明の目の前に服を放り投げて、反応を見てみる。
 やっぱり嫌だよね。ものすごく恥ずかしがってたし…。

「これね。嫌だったらいいけど、裸で外に追い出すよ?」
「……」
「私、無視されるのほど嫌いな事って、ないんだ」

 どこ蹴っ飛ばしてやろうかな、とか考えてたら、明は服を着始めた。

 私が自分に合わせて買ったやつだから、当然明にも入る。
 身長も体重も、あまり変わらないからね。…明が痩せてるだけだよ、うん。

「あの…下着は」
「あー。ノーパンでいろって言いたいとこだけど、自前使っていいよ」

 さっきまではいてた男物じゃなくて、バッグから可愛いの出してきた。よしよし。

「よくできました」

 それだけ。いつもなら、お世辞の一つも言ってあげるんだけど、今日はなし。
 だって、その必要ないもんね。すでに明美は、まな板の上にいるんだから。

「で、これオマケ。つけてね」

 犬用の首輪。
 明美は黙ってそれを受け取ると、妙に慣れた手つきで自分の首につけた。
 なるほど、このくらいは、よく経験してそうだよね。

 私が命令するまでもなく、明美は四つんばいになって、私を見上げてる。
 手間が省けるのはいいんだけど、逆につまんないなあ。

 さて、続き続き。
 私は脱いだ下着を適当に投げ捨てて、ソファーに腰掛けて、足開いた…。

「こっちおいで。犬っぽく、舐めにきてよ」

 何を怯んでるんだろう。もしかして、初めて見るんだったりして。

「女装レズだったら、いつもやってるでしょ。相手が本物の女だと、嫌?
 相手にも、その役に立たないものが生えてないと嫌?」

 それでもやっぱり、明美は動かない。
 完全に嫌なわけじゃなくて、思い切りがつかない、みたいな感じかな?

「あ、そうだ。もし本気で嫌なら、ストップかけてもいいからね。
 犬でもできるような事ができないなら、本気でいらないから帰ってほしいし」


 覚悟を決めたらしく、四つんばいで、明美が近づいてくる。
 でも残念でした、私は距離を見計らって、明美の顔を蹴っ飛ばす。軽くだけどね。

「なに本気にしてんの? バカ? 欠陥生物が触っていいわけないでしょ」

 ちょっと加減間違えたかな、明美は鼻血出ちゃったみたい。
 だめだよ、鼻血なんか出したら、私もっと興奮してきちゃうから。

「汚いなー、靴下についてないといいけど」

 ついてないなー、残念。靴下の上から足でも舐めさせてやろうと思ったんだけど。

「人の家に、何の病気持ってるかわからない、汚い血撒き散らさないでくれない…?」
「……」
「ふーん、無視するんだ?」

 何か言い返してきても、当然したと思うけど…私は明美の顔をもう一回蹴飛ばした。


 倒れて泣いてる明美を見て、ちょっと気がついた事が。

「もしかして…女に触られても、あそこ見ても立たなかったのが、蹴られて反応してる?」
「はい…」
「なんていうか、複雑な趣味してるのねー」

 そこが面白いんだけど。うん、面白くなってきた。

「立ったから、はいいただきます…ってわけにはいかないよね。
 入れた瞬間萎えたりしたら、さすがにもう何するか、わかんないもん」
「ごめんなさい」
「いいよ。しかたないから、そのまま一人でしてみせて。そのくらいできるでしょ?」

 一応、妥協案ってことで。去年の合宿のとき見たけど、今はシチュエーション違うし、
 別の面白さがあるかもしれないしね。


「おもしろいねー、泣きながら、鼻血たらしながら、女装オナニーしてる人がいるよ」

 誰にも聞こえるはずないけど、わざと窓のほうを向いて、大き目の声で言ってやった。

 …どうも、いまひとつ面白くない。目の前に寝転がってるから、顔でも踏んでみようか、
 それとも道具でも出すかな…?
 と考えてたら、明美は女の子みたいな声だして、もういっちゃってた。

「気持ち良かった?」
「はい…」
「私は、全っ然、気持ちよくなかったけど」

 そう言って、私は、明美の股間を踏んでやった。さすがに、急所ヒットしないように気をつけたけどね。
 踏んだままグリグリしてやったんだけど、回復どころか、どんどん萎えていく。
 どうしても女は嫌なのかな、そうかそうか。ちょっと頭に来たから、一度強く踏んずけてやった。
 何も言葉で指示しなくても、足を顔に押し付けてやっただけで、明美は私の靴下に吸い付いて、
 何とか綺麗にしようとがんばってる。
 ちょっとくすぐったいのは、我慢した。

 そろそろ、自動ストップかな。
 自分だけいって、急にさめちゃうんだから、みんな…。


「ごめんねー、鼻血ちゃんと止まった?」

 はいスイッチ切り替え。ウェットティッシュ出して、顔とか拭いてあげる。
 思ったよりひどい。ケンカでもして、負けて帰ってきたみたい。
 薬塗ってあげたり、冷やしてあげたり、色々してあげた。
 なんだかんだで結構楽しかったし、フォローのつもりもあるかな。

「またこういう目にあいたかったら、いつでもおいでね」
「…もう、いいです」
「あら残念」

 まあ、しょうがないかな。ちょっとやりすぎたしね。
 そうやって少しは反省しようと思ってる間に、明はもう復活したみたい。

「ハードだって聞いてたけど、予想以上で…結構満足しちゃった」
「あー、じゃあ、また欲求不満たまったらおいで」
「わかんない」
「もう何もしないから、ちょっと腫れとか引くまで休んだら? 泊まったっていいし」
「アメくれると逆に嫌いになるけど、それでいいなら…」
「やっぱやめた。帰っていい」

 明を送り出しながら、もしかしたら、この子にはもう会えないかも、って思った。
 虫の知らせっていうのかな? なんとなくね。
 もしそうなっても、しかたないんだけど…。


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