「エトピリカ」は、だんだん大きくなっていった。
人が飛ぶためにはものすごく大きな翼が必要だ、と伯父さんは言っていた。
ある、風の強い日のこと…。
伯父さんは風にあおられながら、ずいぶんと大きな翼を持って外に出ていった。
危ないと思って、僕は伯父さんを止めようと思ったんだけど…。
「この風が必要なんだ…。これだけ強い風が吹いていれば、
空を飛ぶのに必要な力が得られるかもしれない」
それだけ言って、伯父さんはエトピリカを背負い、丘の上まで行ってしまう。
しかたなくついていくと…うん、興味もあったけど…伯父さんが跳ぶのが見えた。
そのとき僕は、確かに見た。
強い風に乗って、エトピリカが飛んでいるのを。
このとき伯父さんは、空を飛んだんだ。
でも、1分もしないうちに、エトピリカは落っこちた。
「今度こそは大丈夫だよ、もうわかったんだ。
どこを改良すればいいか、そして、どうなるのか?
風を待つんじゃない、自分で風を作ればいいんだ…」
「そんなことばっかり考えてないで、怪我を治しなさい!!」
伯父さんは、看護婦さんにどなられながらも、早く
エトピリカを作りなおすことばかり考えているみたいだ。
1ヶ月くらい入院して帰ってくるやいなや、
伯父さんは新たに崖の上に小屋を作り、そこにこもって出てこなくなった。
話を聞きに行っても、すぐ追い出されてしまう。
何日もたって、みんな、楽しみにしていた話が聞けずに
不満をもらしていたころ、伯父さんが出てきた。
「…今度こそ、本当に飛んでみせるよ」
そう言って、伯父さんは小屋を取り壊しはじめた。
小屋が壊れたあとには、翼を大きく広げた鳥のようなものがあった。
人が一人、中にすっぽり入れるような…。
「崖の下で待っててごらん。油を積んでるから、危ないしね」
僕たちは、言われた通り、崖の下の草原で待っていた。
しばらくすると、エトピリカが飛び立つのが見えた。
崖の上から飛び立ったエトピリカは、すーっと流れるように、まっすぐに
飛んでいった。鳥が空を滑っていくように…。
そう思ったとき、エトピリカの後ろのほうで爆発が起きた。
…? 爆発じゃないのかな…?
後ろに向かって、火をふいているみたいに見える。
エトピリカのスピードがどんどん上がっていくのがわかる。
そして、どんどん高いところへ上がっていくのも…。
そのまま、エトピリカは、ずっと遠くまで飛んでいった。
今までみたいに、ただ空を滑るだけじゃなくて…、
自分の力で? 空を飛んでいた。
エトピリカが飛んで行くのを見て皆で喜んでいたのも、束の間…。
どこかへ飛んでいったまま、エトピリカは帰ってこない。
…何日たっても、伯父さんは、帰ってこなかった。
エトピリカが見つかったという話もぜんぜん聞かない。
もしかしたら、行くことができたたのかもしれない。
ずっと空高く、神様のいるところにまで…。
僕は、あのあと神父様に聞いたんだ。
伯父さんは、逮捕されるかもしれなかったんだって。
あの前に即位した教皇様が、国中の、空を飛ぼうと研究している人を
異端として捕らえるように命令していたんだって。
そして、そのことを、騎士が来る前にこっそり伯父さんに教えたんだって。
僕はおじさんのお墓の前で、空を見上げていた。
もう3年も帰ってこないからって、死んだことになって建ったお墓。
ここへ来るたびに、僕は空を見上げる。
神様に翼を奪われた人々は、空を見上げ、いつまでも泣いていたんだって。
だから今も、人は空を見るたび、こんな気持ちになるのかな。
嬉しいような、すがすがしいような…
でも、どこか寂しい気持ちに。
<おわり>