NHパブの罠
「どうせ暇なんだろ? ちょうど東京出てきてるからよ、遊ぼうぜ」
半年以上前になるだろうか。友人のアキラから、電話がかかってきた。
こんな口調だが、アキラはいわゆるニューハーフだ。思えば十年以上の付き合いだろうか……いや、腐れ縁と言うのが正しいか。
「遊ぶと言っても、何をするんだ?」
アキラの言う「遊ぶ」は、ホテルでの大人の遊びから、ゲーセン巡り、食べ歩き、メイド喫茶のハシゴなど、その時によって全く違う。だから確認してみた。
「まあ、まずは聞けよ。今日は将軍様は暴れ回るわ、サードインパクトでも起きそうな勢いだわで、かなりブルジョアなわけよ」
「ふむ」
またパチンコか。だが、この展開は、大体いい話になる。
「そういうわけで慈悲深いおれは、長年の親友であるお前を、飲みに連れて行ってやるぜ」
「おお」
……というわけで、アキラに指定された駅まで出向いた。少し遠かったが、ただ酒、ただ飯よりうまい物はない。
「よう、やっと着いたか」
「ああ」
「知り合いが働いてる店があるんだわ。いい子いるぜ」
どうも話を聞いたところでは、居酒屋やただのバーではなく、いわゆるニューハーフパブへ連れて行ってくれるようだ。これは楽しみだ。
アキラの後についてしばらく歩き、雑居ビルの中へ。階段を上がったら、すぐにそれらしい店の扉があった。
「ここだぜ」
「そうか」
中に入った感じとしては、想像していたショーパブのようなものよりは、キャバクラに近かった。どうも事前に話はついていたようで、俺とアキラは隣り合ってはいるが別のテーブルに案内された。
「まあ長年の付き合いで、お前の趣味はわかってる。ちゃんと、気に入りそうな子を頼んであるからよ」
アキラはそう言って笑うと、隣に座ったNHとすぐに歓談をはじめた。
俺のところに来たのは、確かにアキラが言う通り、かなり俺の好みに合った容姿をした子だった。
彼女……と、しておこう。彼女はカナと名乗り、俺の横に腰かける。
間近で見ると、ますます好みのタイプだ。
しかし……。
やられた。俺は、そう確信した。
カナが左手首にだけつけている、妙に幅のあるリストバンドを見て、俺は気付いたのだ。
この子は、「やってる」と……。
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