シークレット
#9
待ち合わせの時間の5分前くらいに、幹夫は現れた。
普通に挨拶して、いつも通りゲーセン行って、普通に遊んでる…。
一緒に音ゲーやってみたり、格ゲー対戦してみたり、本当に普通に。
「撮らない?」
あまりにも普通な言い方で、幹夫はプリクラのほうを見る。
僕はさすがにちょっと気が引けたけど、いいからいいから、って、なかば強引に幕の中まで連れ込まれた。
「男どうしで撮るのって、なんかあやしくない?」
「そうでもないと思うけど…」
一歩譲って、まあ、それは別にいいとしても…。
幹夫が選んだフレームは、少女趣味丸出しの、ピンクだの赤だのの花とか、ハートとか飛び交ってるような、そんなのだった。
その後またゲームしまくって、もしかしたら本当に今日はゲームして終わりかな、みたいに考え始めた頃、幹夫は僕の耳に顔を近づけて、言った。
「こないだ入ったとこ…今日は二人で入りたいな」
騒音にかき消されかけたけど、確かに、そう聞こえた。
僕が黙ってうなずくなり、幹夫は嬉しそうな顔になった。
そして、ふと気付けば、もうここは…こないだのホテルの部屋の中。
そこで僕は、あまりに重大な事に気付いたし、思い出した。
「服…持ってなくない?」
「うん」
「いいの?」
「こっちはいいけど、ユウちゃんは、着替えないと嫌?」
「いや、別にいいんだけど」
着替えるとスイッチ入るのかと思ってたけど、違ったのかな。
「一応、どっちとも取れる服、着てきてはいるんだけど」
言われてみれば、その通り。チェックのシャツに、スリムジーンズ…。
最近、スカートとかブラウスばかり見慣れてるから、少し麻痺してたかな。
「それにしても、本当にびっくりした」
「?」
「ユウちゃんが「こっちの人」だったこと」
「それはお互い様」
二人でソファに腰掛けて、途中買ったジュース飲みながら話してる。
僕だって本当に驚いた。全く同じこと、言い返したいよ。
「…なんかいろいろ、不思議だらけ」
「なにが?」
「クラブの事とか、幹夫のこととか、いろんなこと」
ちょうどいいから、聞いちゃおうかな、と思って、聞いてみた。
幹夫は自分の事とか、クラブの事とか、色々教えてくれた。
貴子ちゃんとはクラブで改めて知り合って恋人になったって。それは想像通り。
そしたら、貴子ちゃんの、女の子になりたいが伝染したって…。
驚いたのは、話を聞いてると、多分何年も関わっているはずなのに、まゆさんについては、本当に詳しいことはよくわからないらしい。
でもカレラさんについては、色々教えてくれた。
「現役」の時は、なんか色々すごい人だっただとか…。
で、あの人、「取っちゃってる」んだって。それはちょっと驚いたかな。
「あと、これは、結構重要な事なんだけど…」
「なになに?」
「あの人に、あの腕時計の悪口は言っちゃだめ。かなり気を悪くするから」
「…ああ」
ちょっと腕時計の話題になって、少し様子が変わったことがある、って言ってみた。
「形見、なんだって。一番好きだったのに届かなかった人の」
「ふーん…」
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