シークレット
#5
貴子ちゃんは、何も言わないで、どんどん歩いていく。
僕が後ろからちゃんとついていってるのが、わかってるみたいに。
裏道に入って、少し歩いて…いかにもな感じのラブホテルの前で立ち止まって、やっと僕のほうを振り返った。
「ここ」
笑顔でそれだけ言って、貴子ちゃんは入っていく。もちろん僕も追いかける。
…本当だ、何も言われない。
どっちもどう見ても未成年で、ついでに、どっちも男なのに。
すんなりフロントを通過して、部屋まで着いた。
「あー、やっと着替えられる。待っててね」
貴子ちゃんはそう言って、バッグ背負ったまま、バスルーム直行。
待ってる間、何となく手持ち無沙汰なんで、テレビつけたり、BGMのチャンネル変えたり。
そんなことして時間潰してたら、「お待たせー」って聞こえた。
ふと、貴子ちゃんを見て…びっくりした。
うちの学校の、女子の制服だ…。
「驚いた?」
「な、なんでそんなの持ってるの?」
「盗んだりしてないからね。で、今度はユウちゃんの番ね」
貴子ちゃんは、僕にバッグを渡した。
中には、もう一着、同じものが、入ってた…。
一体どういうことだろう? 昨日の今日だよ。
手に入れる方法があったとしても、手際が良すぎるし。
傷んでるというほどじゃないけど…結構着古してる。元々持ってた? 姉妹?
部室には服いっぱいあったから、たまたまなのかな。
色々考えながら、僕は、軽くシャワー浴びて、服を着替えた。
女の子の制服を着るのは、初めてじゃないけど、さすがに自分の学校のは、初めて。
なんかすごく、変な感じ…というか、すごくHな気分になる…。
「どう? いつも見てるかっこ、自分がしてみるのって」
ベッドに腰掛けてた貴子ちゃんは、ここにおいで、とばかりに、自分の横に手をやった。
僕は…私は、示されたとおり、その場所に座る。
「なんか嬉しいかも。私とくっつくだけで、こんなになっちゃってるんだもんね」
「……」
「もしかして、誰相手でも、こうなの? エッチだよね」
「だって、しょうがないよ…」
「認めちゃったね」
貴子ちゃんは、さっきより強く、私に体を押し付けたかと思ったら、いきなり笑い出した。
「うーん、やっぱり、無理かも…」
「どうしたの?」
「やっぱこういうの、私のキャラじゃないや」
何だろう?
「どうしても、こうやって、意地悪にしようとすると、笑っちゃう」
「なんだ、演技だったの?」
「うん。どっちかというと、ううん、明らかに、言うより言われたい方だから」
「私もそうだよ?」
「…だよね。そう思って、頑張ってみたんだけど。もっと練習しないとかな」
「ねえユウちゃん、いきなりだけど、ジャンケンしない?」
「え?」
「負けたほうが、リードするの」
「…うん」
「じゃあ、いくよ。じゃーん、けーん…」
私は、チョキを出した。
貴子ちゃんは、グーだった。
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