シークレット

#18

 次の週末、部室に顔を出してみると、やっぱり、アキラの話題でもちきりだった。
 最後に会った相手が僕だった事は、なぜか……というか、まあ誰が言ったのかはわかっているんだけど、ばれてたから、いろいろ聞かれた。

「いったい、どういう説得したの? 今まで何言われても、しばらく出入り禁止にまでされても、頑固にここに来続けてたのに」
 貴子ちゃんは、本当に不思議そうに僕に聞いてくる。僕にもわからない。だから正直にそう言った。
「じゃあ具体的に何をしたのかだけ、事実を説明してもらう方向で。微に入り細にわたって、ね」
 カレラさんはいつもみたいに意地悪く笑ってるけど、本当に興味があるみたい。
 だから、ちょっと恥ずかしいけど、言われたとおり、話す事にした。どんな話をしたとか、どういう事をした、とか……。
「……話し合った内容はともかく、した事については、私が冗談で想像したのと同じみたいで。お互いの持ち物を正規運用しちゃったら、本末転倒がさらに本末転倒して、通常になっちゃうもんね」
 こう言うなり、カレラさんは、今度は本当に面白そうに笑いだした。
「大丈夫? ぶつけられて、腫れたりとかしてない?」
 幹夫も心底おかしそうに乗ってきた。

 しばらく、品のない冗談を皆で言い合ってた。皆と言っても、今は、僕を含めたその4人しかいないんだけど。
 そうしてたら、まゆさんが来た。
「お疲れ様、どうだった?」
 カレラさんが少し真面目な顔に戻って言うと、まゆさんはすぐ皆のそばに座った。
「しつこいようだけど、そりゃ除名権限は与えてましたが、その前に一言くらい、私に連絡してほしかったですね」
「はいはい」
「で、本人との面談の結果。多分あの子、『治った』か、その方向に進みそうです」

「治った、ですか……」
 貴子ちゃんは、すぐ思ったことが顔に出る。かなり気分悪そうなのがわかる。
「いいんじゃない? 死ぬまで延々病気でい続けるよりは、治った方が」
 まるで挑発するような口調で、カレラさんは言う。貴子ちゃんをいじろうとしていると言うより、この場にいる全員、自分も含めた皆に言っているみたいにも感じた。
 でも貴子ちゃんは食いついた。思ったとおりに。
「病気だとか、治ったとか、そういうものなんですか?」
「性別変えたいなんて思うのは立派な病気。病名もあれば診断書も出る病気。病気なんだから、治ることだってあるでしょ。全くの不治の病じゃないんだから」
 カレラさんは、食いついてきた貴子ちゃんにトゲを刺しながら受け流した、そんな感じ。

「そこまで。その病気が不治の病かどうか、そもそも病気と認識してるかどうかも、人それぞれです。カレラさんは、無闇に貴子ちゃんを挑発しないように」
 まゆさんがこう言うと、二人とも黙った。
「気を悪くしないで聞いてほしいんだけど、私としては、カレラさんの意見におおむね賛成の立場です。もう後戻りできない所まで行く前に考えが変わったなら、それは良い事だと思っています。これはあくまで、個人的な意見」
 まゆさんは、自分を指差したあと、そのままカレラさんの方にも向けた。
「今いる中では、絶対に後戻りが不可能なのは、この2人。いや、後戻りというか、元には戻れない、と言った方が正確かもしれないかな。片方は投薬、片方は外科手術で、生物のオスとして子孫を繋ぐ役割は、果たせないようになっています」
「まゆさん、今日はずいぶんと黒いこと。生理?」
 カレラさんが例の意地悪な笑みを浮かべながら言ったけど、まゆさんは完全無視。
「矛盾してるかもしれませんが、部員が私達のような道を歩もうとしたら、私は反対します。代表がうんぬんじゃなく、やはり個人としてですが、大反対します」
「私も反対するかな」
 カレラさんも言った。これはちょっと意外だった。
「それだけ。特に補足なし。まゆさんが大体言ってるしね。で、あの子については?」
「そうそう、ちょっと脱線してました」
 まゆさんは、一度溜め息をついたというか、大きく息を吸い込んだ。頭を切り替えるかのように。

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