シークレット

#17

 ベッドに一緒に腰かけたと思うや、私は、アキラに優しく押し倒された。
 やっぱり、せっかちだ。

 服の上から胸を揉んでくる。わりと優しい。もうちょっと強めでもいいんだけど。私はMのつもりはないけど、そう思うくらい、アキラのやり方は、優しかった。
 そうしたらまたすぐに、私のワンピースの裾を上げようとしてきた。本当にせっかちだなあ、と思いながらも、私は、そうしやすいように動いた。

 裾がまくり上げられて、私の下着が丸見えになった。もちろんこういう雰囲気だから、下着の中で反応しているもはあるんだけど、アキラは、その事には全く触れてこない。
 何となくだけど、わからない事もない気がする。それより、何をするんだろう、されるんだろう? という興味の方が強いかな。
 アキラはバスローブを脱いだ。脱いだのはそれだけ。スポーツブラも、トランクスも脱がないままだ。私の下着も、脱がそうとしてこない。
 少し乱暴に私を仰向けにして、脚を開かせてきた。こういうのは、わりと嫌いじゃない。
 そのままアキラは私にのしかかって、上から抱き締めて、またキスしてきた。さっきみたいに舌まで絡ませて。
 また私は頭の中が白くなりかけたけど、その感じは、すぐになくなった。

 アキラは私の片足を上げさせて自分の肩に乗せると、そのまま、自分の股間を私のその場所に押しつけてきた。押しつけるだけじゃなくて、動き始めた。押しつけて動く事もあれば、まるで男女のセックス……いや、これは一応男女なのだけど……のように、前後に動いて、お互いの腰をぶつけ合うような動きをしてくるようにもなった。

「気持ちいい?」
 そう聞かれたけど、むしろ痛い。当たり所が悪いと。とは言っても、多少刺激がないわけじゃないから、私は黙ってうなずいておいた。
 それを見ると、アキラはさらに頑張って動き始めた。ますます痛い。つい声が出る。

 客観的に見れば、下にいる「女装した男」が足を開いてて、上にいる「男言葉の女」が、その足を抱えて、自分の腰をぶつけてる。どっちも、下着はつけたままで。
 もしかすると、かなり滑稽な光景じゃないのかな?
 たまに来る痛みに耐えるために、つまらない考え事……って、たまに来る痛み、か。何だかとんでもなくつまらない、駄洒落じみたダブルミーニング。
 こんなくだらない事に、つい笑いそうになる。たぶん笑ったら失礼だ。何とか我慢しよう。

 それからすぐ、アキラは動くのをやめた。満足した、っていう様子じゃない。
「馬鹿みたいだよな」
 それだけ言って、アキラは私の隣に横になった。
「お互い、相手にはないもの持ってて、それを使えない。馬鹿みたいだと思わない?」
 僕は何も言えないで、黙ってた。
「さっきシャワーも浴びたから今はありえないけど、もし一週間くらいまともに洗ってなかったら、俺にとって羨ましくてたまんないそれ、ユウが羨ましがってる場所に入れてもいいよ」
 羨ましがってるつもりはないんだけど、反論するのもなんだと思ったから、やっぱり黙ってた。それより、なんでいきなりそんな事を言い出したのか、それが気になったんだけど、アキラはすぐに説明をはじめてくれた。

「なんでも、子宮ガンになりやすい要因のひとつなんだってさ。もしなれたら、わざわざ高い金出して、保険の効かない病院行かなくて済むじゃん」
「……」
「これ言うと親父にも、カレラさんにもひっぱたかれたけどさ、乳ガンとか子宮ガンになって取っちゃうのが一番楽だと思うし、なった人は、羨ましいと思う」
「そりゃ、ひっぱたかれるだろうね」
 つい言っちゃった。でもアキラは、別に気にしてる様子はない。
「わかるはずない、生まれつきの男には。同じこと思ってる、『仲間』もいるよ」
 私はまた黙ってた。黙ってるしかない、そんな気がした。
「自分を男だと思ってくれれば、男に尻なら貸してもいい、なんて奴もいるけど、俺はさすがにそれはないな。本末転倒もいいとこだ」

 しばらくすると、アキラは吹き出した。
「今のは、突っ込むところだと思うんだけどな」
「……ごめん、タイミング外した」
 アキラは笑ってる。楽しくて笑ってるようには見えない。すごく自嘲的に見える。
「本末転倒、だよな。本当に。たまに自分が馬鹿らしく思えてくる。親父はカウンセリング受けろとか言う事あるし、まゆさんやカレラさんなんかは、意地悪で言ってるんじゃないんだろうけど、『あなたはまだ戻れる』みたいな事言ってくるんだよな。戻る気なんかねえよ」
 まだ笑ってる。自嘲的な色は、さらに強くなったように見える。
「戻るんじゃなくて、元々こうなんだよ、きっと。これだけは、みんなも理解できるんじゃない? 女子校に行ったのも、最初はやましい理由だったよ。でも勘違いだった。寄ってくるのはレズばっかで、俺を一時的にでも男と思ってくれる奴なんか、一人もいやしねえの」
 そう言うと、私の方を向いて横になってたアキラは、ごろんと上を向いた。

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