シークレット

#16

 学校が終わって、校門を出ると、僕はすぐにアキラに電話した。
「もしもし。学校終わった?」
 携帯を持って、開いて待ってたんじゃないかと思うほど、すぐにアキラが出た。
「うん。これから着くまで、1時間弱かな」
「待ってる」

 歩いてる間と、電車に乗ってる間、僕は色々考えてた。
 デートって言ってたけど、まさか僕に女装させて一緒に歩かせる気じゃないかとか、さすがにそれはありえないだろうとか……。
 何より一番気になるのは、どう接すればいいんだろう? という事。
 髪は短いし、部室の時と同じような格好してるなら、男物の服着てるだろうけど、アキラはどう見ても女の子なわけだし。だからって女扱いしたら気を悪くするだろうし。

 なんだかんだと考え事してる間に、電車は部室駅に着いた。電車降りて、エスカレーター上って、改札を通ろうとした時には、もうアキラの姿は見えてた。
「やっと来た。待ってたんだよ」
「これでも急いだんだよ」
 周りの人たちには、僕らはどう見えてるかな……?
 できるだけ客観的に見ると、アキラはやっぱり、ボーイッシュな女の子だ。そして僕は、普通に男の子、だろう。アキラの思惑はともかく、デートに見える人も多いよね、多分。
「……すぐ行く? それとも、軽くお茶でもする?」
 さすがに、アキラもちょっと小声で、僕に聞いてきた。
「少しお腹すいてるかな」
「じゃあ、ちょっと食べよっか」
 アキラは、僕が後をついてくるのを確信してるかのように、歩きはじめた。
 黙ってついていくと、行き先はハンバーガー屋だった。ファストフードじゃなくて、もうちょっと値段が高い、最近できた店。
「お小遣い前だから、こんなとこでしか御馳走してあげられないけど」
「え、自分の分は出すよ……?」
「いいから」
 多分、アキラの中では、おごるべきなのは自分の方だ、という考えがある。そんな気がする。
 僕も財布の中身が多いとは言えないから、お言葉に甘える事にした。

 アキラは、大きなハンバーガーに豪快にかぶりついてる。一応、ナイフとフォークは来てるんだけど……。
 周りの客を見ても、そうしてる人は多いから、特に浮いて見えはしない。その行動だけなら。
 でもアキラは、やっぱり、よく見ると女の子に見える。というか、目立たないようにしてるようには感じるけど、胸があるから、やっぱり女に見える。
 こんな事を考えててもしょうがないから、僕もハンバーガーを食べた。
 食べながらとりとめもない話をして、どっちも飲み物がなくなった頃、アキラは言った。
「じゃあ、そろそろ……行かない?」
「……うん」

 行き先は、予想通りの場所だった。今まで何度も来た、このホテル。
 アキラは空き部屋のボタンを押して、フロントから鍵を貰って、やっぱり僕がついてくるのが分かってるように、すたすたとエレベーターに乗っていった。もちろん追いかける。
「別に、ここでなくても、大丈夫と言えば大丈夫なんだろうけど……」
 エレベーターの中で、アキラは独り言のように言った。
「でも他に行くと、わかると思うけど、俺が納得できない認識を他人にされると思うんだよね」
「なるほど」
 エレベーターが止まって、ドアが開いた。部屋は目の前。
 やっぱりアキラは、僕より先にエレベーターを出て……部屋に入るかと思ったら、ドア開けて待ってる。
「先に入って」
 ……もしかして、レディファーストのつもりだろうか?
 まあ考えても仕方ないので、僕は部屋に入る。

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