シークレット
#10
ちょっと考えを整理しよう。というか今の状況をあらためて整理してみよう。
まず動かしようのない現実として、ここは部室、僕はまだ変身前。うん。
アキラと二人きりの状況だ。別におかしなことでもないよね、準会員だそうだし。
アキラが大泣きしてる。僕は何もしてない。なのになぜか僕を見るなり泣き出した。
いったいどうしたの、って声くらいかけるよね普通。
それから1時間くらいたった今、まだ人生相談を受け続けてる。
まとめると、こんなかんじかな。
どうも何か巨大な壁にぶち当たったらしい。男の子になりたい、の関係かな。
そういった障害に立ち向かう根性がなく、くよくよしたり、泣いたりしてる、そんな全く男らしくない自分に自己嫌悪してる、そういう事みたい。
…それが、無限ループしてる。もう何週目だろうか。
いいかげん、どう答えればわからなくなってきた頃、カレラさんが来た。
「あれ、邪魔しちゃったかな?」
なんて言いながら、気にしてる様子もなく、僕とアキラの中間、やや僕寄りに腰掛ける。
アキラの人生相談はしばらく止まったけど、しばらくしてまた始まった。
僕より先にカレラさんが返事するから、僕は少し楽になったけど…。
アキラの発したある言葉で、状況急変。
「逆だったら、もとが男だったら、もっと楽だと思うけど…」
「ちょっと待った」
アキラが最後まで何か言い切る前に、カレラさんが、口を挟む。
「もとが男なら、の後、何て言った? よく聞こえなかった。もう一回、言ってくれる?」
いつも笑顔(意地悪そうな、だけど)のカレラさんが、今、全然笑ってない。
怒ってる顔でもなく、もう完全に無表情で、アキラのこと見てる。
「それとも空耳かな? 何も言ってないなら、それでいいんだけど」
「…ごめんなさい」
「別に謝る事じゃないよ」
カレラさんには、笑顔が戻ってる。
もう全然怒ってないみたいに、あっという間に切り替わった。
「あなたが、自分の吐いた言葉で敵作ったり、危険にあったりしそうだからって、びびって引っ込める…そんな、男らしさのかけらもない子だって事は、別に私に謝っても何の解決にもなりやしないからね」
…最高の笑顔のままで、こんな事言ってるし。
しばらくの間、遠くを走る車の音が聞こえるくらい、静かだった。
「悪いんだけど」
沈黙を破ったのはカレラさん。
「当分の間、出入り禁止を命じます。除名ではないけど、自主退会は受け付けます」
「え…」
「部室でいきなり泣いてて、人生相談モードになってて、それどころか、部員のほとんどを馬鹿にした発言を軽々しく行った。理由としてこれで不十分?」
「…いえ」
「詳細は追って連絡。まずは、今すぐにここを立ち去るように」
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