#6  自主練習

 昼ごろ、僕が電話したとき、貴史はまだ寝てたみたい。僕は貴史の家の詳しい場所を知らないから、案内に出てきてもらった。

「飲み物とか買っていこう」
「うん」

 目印にしたのはちょうどコンビニだったから、ジュースとかアイスとか買った。ついでに、今日出たマンガも。
 貴史の家までは、そんなにかからなかった。たまに前を通ったことがあるマンションだったし。ああ、ここに住んでたんだ…とか思いながら、僕は案内されて、部屋に入った。
 ずいぶん片付いてて、殺風景な感じもする部屋だった。あまり気になるほどじゃないけど…。

「昨日、まゆさんから来たメール、見た?」
「見た」
「ひどいよねー」
「別にひどくないじゃん…それとも大田、やっぱり嫌なの?」
「そんなことないけど…」

 その話はそこで終わって、二人でマンガ見たり、ゲームしたりで遊んだ。しばらくして、貴史が言った。

「着替え、しない?」
「…うん」

 僕達は、また一緒にシャワーを浴びた。前と同じように、あまりお互いに相手をよく見なかった…気がする。  二人とも、あまり喋らない。黙々と着替えを進める。先に口を開いたのは貴史。

「今日は…うまくできるといいな」

 何のことを言ってるのか、すぐわかった。

「ごめん…たぶん、僕もはじめてだったから、緊張したんだよ」

 貴史の表情が一瞬曇った気がするけど、すぐ元に戻って、話を続けてきた。

「僕は、全くはじめて、ってわけじゃないよ」
「え?」
「小5のとき、近くの大学生の兄ちゃんに、された事ならある」
「……」
「別に、そんなひどい事はされてないよ。こないだ大田にした事…。あのくらいまでの事だけどね」

 僕は、どう言えばいいかわからない。「おお、すごいー」がいいのか、「かわいそうに…」がいいのか。

「で、その兄ちゃんが言ってたんだ。女の子のかっこしたら可愛いだろうなあ、って。ずっとそれが気になってて、興味持って…クラブ入った」

 貴史は独り言のように言いながら、着替えを進めていく。私も、考え事ばかりしててもしかたないから、着替える。

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