#14  合宿・4

 朝食が終わって、しばらくみんなでまったりして、お昼前。今日はどこか行こうか、面白い場所あるのかな、とみんなで話してた。

「天気いいからプールでも行く? 結構いいとこあるんだけど」
「水着ないよ?」
「ないよー」

 というわけで、まゆさん提案のプールは企画倒れ。水着を持ってきてるのが、言いだしっぺのまゆさんしかいなかった。

「前もって言ってくれれば、持ってきたのに」

 残念そうに言った明さんは、みんなに当然茶化された。

「…ビキニ?」
「スクール水着?」
「当然男物。お望みならビキニでもスク水でも着てみせるけど、公共の場じゃちょっとね…」
「たしかに」

「関係ないんだけどさ、誰か…取っちゃうつもりの子、いないの?」

 ユリさんが突然言い出した。一瞬、何を取るのかと思ったけど、すぐわかった。

「えー」
「さすがに考えてない」
「だよねー」

「まあ、もちろんすすめるわけじゃないけどね。女の子になりたいって言うからには、そこまで考えちゃってる子いるのかなと」
「うーん…」
「でも現実問題としては大変そうだよね。お金かかるだろうし、体も大変だろうし。いいパトロンでも見つければ、結構なんとかなるのかな?」

 黙って聞いてたまゆさんが、突然口を挟んだ。

「ユリちゃん、そろそろイエローカード出していい?」
「ごめーん」
「いくら注意しても売春やめない悪い子はともかく、真面目な子にまで変なこと入れ知恵しちゃだめ」

「悪い子としては何かコメントは?」
「その悪い子に悪事を教えた極悪人に猛省をうながしたいかな」

 雅さんと明さんのこういう掛け合いは、いつものことだ。二人ともかなり本気で嫌味を言い合ってるように見えるけど、気にならなくなった。

「そこケンカしないの。まったく仲がいいんだか悪いんだか」
「ケンカするきっかけ作ったの誰?」
「ねー」
「自業自得。売春なんかしなければ非難もされず、こうやってケンカにもならないの。若手一同は、そこの悪い子たちにそそのかされて悪い道に走らないようにね」

 僕と貴史、亜紀さんと唯さんは、それぞれ顔を見合わせたあと、ほとんど同時に笑った。

「まあ、ちゃんと相手がいるから大丈夫かな? 悪いことすると相手が悲しむしね」

 こんな感じで、みんなでだらだら喋ってたら、まゆさんの携帯が鳴りだした。まゆさんは携帯を持ったまま、部屋から出ていく。

「誰かな?」
「恋人とかだったりしてー」
「いないはずだけど」
「内緒にしてるだけじゃない?」

 みんなで勝手な事を言ってたら、10分もしないうちに、まゆさんが戻ってきた。なんだか落ち込んでいるようだけど嬉しそうな、変なかんじ。

「…拓美さんが無期限の休部を申し出たので受理しました。これまでの言動や態度の異常性は影をひそめ、とても落ち着いた様子でした」
「頭冷やしたかな?」
「何があったのかこっちも驚いてるくらい。昨日も言ったけど結構暴言とか、まずいことも言われたのについて、もうあの子平謝り状態だし。…まさか、誰か何かした?」

 一番「何かしそう」な人は、驚いたように首を振る。

「なんにも。そもそも、合宿前に呼び出されてから会っても話してもいないし…」
「ならいいんだけど。やっぱり頭を冷やしただけなのかな」
「って、俺が何もしてないって言ったらそれ? 他の子には何もしてないか聞かないの?」
「うん」

 明さんにはすまないけど、つい吹き出しちゃった。みんなも笑いこらえてる。

NEXT

MENU