ハンマークラヴィア
#2
せっかく、気分良かったのに。今はかなり最悪。
最近防御力上がってる気はしてたんだけど、それでもダメ。本当に最悪の気分。
気持ち悪いおじさんに、からまれた。女のかっこはしてるけど、おじさんなのはすぐわかる。なんだかワンピース着てるよ。それで堂々と外歩いてる。
そういう人をけげんそうな目で見るのは、差別なの?
チワワとセントバーナード、土鳩とレース鳩くらい違っても、一応仲間だと思ってるよ? その仲間に対する差別意識を、私が持っているという事なの?
マイノリティと言うよね。弱者だって言うよね。対等に扱えって言うよね。
対等に扱うからそういう目で見ているのに。せめてひげ抜けばもっと見られるのに、歩き方直せばいいのに、と思って見ているのに。
もし対等に見てなかったら、視界に入った瞬間、道端の犬の糞程度のものと思ってすぐ目そらすよ。当たり前じゃない?
……根っこは同属嫌悪なのかなあ、やっぱり。
それか、うらやましいのかもしれない。私がそのおじさんの事を。
私には絶対に無理な事を、あまりにたやすくできているから。女物で外なんか歩けるまでだいぶかかった。顔も手術して、ホル飲んで、ばっちり化粧も覚えても全然自信がつかなくて、怖くて怖くてしかたなかったのに。
今でもそれほど自信なんかない。スカートも外でははけない。
女物の服を着ているだけの油ぎったおじさんが、そのてかった顔で、仁丹のにおいかドブのにおいがする息を吐きながらパスだとかリードだとか。死んでしまえ!!
パスというものについてもよくわからない。関わりたくないから見なかった事にされてもパスでいいのかな。
実のところ一番ショックだったのは、その気持ち悪いおじさんに、見破られた事。「リードされた」でいいんだっけ?
やはりいくら頑張ってもあの気持ち悪いおじさんと同じなんだ。綺麗になるための投資も努力も百分の一もしていなそうな相手と同じなんだ。
どんなに女捨ててそうなおばさんでも、「ああこの人女だ」ってわかる。本当に不思議。そのヒントだけでもつかむのが課題だったのだけど……。
やっぱり一刻も早く、手術をしないといけない。結論は結局そうなった。もう予定は決まってる。あとは待つだけ。
落ち着け私。後は寝て過ごしても、女になれるんだ、きっと。よし引きこもろう。
少しだけ不安になる事もある。体や見た目をいくら取り繕っても、やっぱり子供なんか産めないだろうから。
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